全 情 報

ID番号 07958
事件名 公務外認定処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 地方公務員災害補償基金三重県支部長(伊勢総合病院)事件
争点
事案概要  市立総合病院のICU病棟で勤務後、救急病棟で准看護婦として勤務していたY(当時四二歳・勤務歴約一一年・脳動脈瘤が基礎疾病として潜行)が、入院患者の洗髪業務に従事していたところ、突然気分が悪くなって倒れ、くも膜下出血と診断されたため(発症から一定期間経過後休職となり、その後退職している)、右疾病を公務上のものとして、地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定を請求したところ、地方公務員災害補償基金三重県支部長Xが、公務外災害の認定処分をしたことから、Yの従事していた看護業務は多様な業務時間に追われながらこなす必要があったこと、身体の自由の利かない患者については肉体的負荷を伴うものであったのみならず、Yの所属病棟は緊急度が高い患者を取り扱うため緊張を強いられるものであり、更に多くの月で九回も不規則に夜間勤務が課されていたこと、特に本件発症前一か月間については、時間外労働は長時間とはいえないものの、患者一人当たりの看護婦の受け持ち人数が従前と比較し非常に多く、Yは七時間半の間隔しか与えられない日勤と深夜のパターンを五回も繰り返していたことから、本件発症は公務に起因するものであるとして、右処分の取消しを請求したケースの控訴審で、Yの従事していた看護業務による継続的で強度の負荷が有力な原因となって基礎疾病である脳動脈瘤を自然的経過を超えて増悪させた結果、本件発症当日の洗髪業務による血圧の上昇等が直接の契機になって脳動脈瘤の破裂を来し、くも膜下出血の発症に至ったものと認められ、本件発症は公務が相対的に有力な原因となっているから、公務と本件発症との間に相当因果関係を認めることができるとして本件処分を取り消した原審の判断が相当であるとして、Xの控訴が棄却された事例。
参照法条 地方公務員災害補償法1条
地方公務員災害補償法31条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 2002年4月25日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (行コ) 41 
裁判結果 控訴棄却(確定)
出典 労働判例829号30頁
審級関係 一審/07660/津地/平12. 8.17/平成7年(行ウ)12号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 勤務が過重であったか否かの判断に際しては、同種の職種との比較が重要であるが、ICU及び救急病棟に勤務する看護婦が特別の資格を必要とするものではないから、同種の職種と比較する場合には、外来患者を担当する日勤のみの看護婦を含めた看護婦全体と比較すべきである。
 ところで、(証拠・人証略)によれば、ICU及び救急病棟での看護婦勤務は、常時容態に注意を払う必要のある重症患者を相手としたり、迅速な対応を必要とする患者を相手とし、病状も多様であるので、他の病棟における看護婦業務に比ベて、精神的な緊張感が強く、かつ、頻繁に巡回する必要があるため、体力的にも負担であり、平成8年5月20日から同年6月28日に本件病院で実施された各病棟における看護婦の勤務中の歩数調査においても、救急病棟の看護婦の歩数は、本件発症当時と比ベて病室数が少なくなっていたにもかかわらず、全病棟の平均よりも多かったことが認められる。また、上記1(原判決引用)認定のとおり、日勤を終えた後に翌日未明から引き続いて深夜勤をすることは、身体に相当な負荷をかける業務であり、被控訴人は、平成元年において、このような形態の深夜勤務を月平均4.6回行い、平成2年ではこれら回数がやや少なくなったが、本件発症前の1か月間においても、このような勤務形態の深夜勤務を5回行っていたものであり、平成2年7月6日以後は、救急病棟における看護婦数の減少や夏期休暇により、看護婦一人当たりの患者受け持ち人数が大幅に増加したのである。そうすると、これらの業務内容や勤務の実情を考慮すると、休日の日数は確保されていても、被控訴人の従事した看護業務は、一般的な看護業務と比較しても、負担の重いものであったといえるし、発症前2週間からは明らかに過重な看護業務であったといえる。〔中略〕
 上記1(原判決引用)判断のとおり、夜勤そのものが脳動脈瘤の発達及び破裂に相当な影響を及ぼすとまでは認定できないが、過重労働になりやすいという点を考慮する必要があり、そもそも、被控訴人が従事していた業務が、過重であり又は精神的負担の多いものであったと判断する理由は、単に夜勤が多かったことではなく、夜勤の形態や業務の内容によるものであるから、本件発症と公務との間で相当因果関係があるとの判断を左右するものではない。