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ID番号 07961
事件名 未払賃金請求控訴事件、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 関西医科大学研修医(未払賃金)事件
争点
事案概要  医科大学を設置・運営する学校法人Xの大学を卒業後、X設置の付属病院に臨床研修医として所属し死亡したAは概ね七時半頃に登院して一九時頃まで、指導医の指示のもと患者の問診、点滴、見学、自己研修を行い、その後も指導医の診療の補助、手術の立会いをするなどし、通常の退出時刻は二二時頃で、休日も指導医が出勤すれば登院し、又指導医の当直日に副直として院内待機するなど長時間にわたる研修に従事したが、Aはこの期間中奨学金月額六万円、宿直・日直につき一回一万円しか受領していなかったことから、Aの両親である遺族Yらが、Xに対し、Aは最低賃金法二条一号所定の労働者に該当するにもかかわらず、Xからは同法四条の最低賃金額を下回る給与額しか支払われなかったとして、差額賃金の支払を請求したケースの控訴審で、原審と同様、Aら研修医は、全体としてみた場合、他人の指揮命令下に医療に関する各種業務に従事しており、Aは最低賃金法にいう労働者に該当するとして、Xの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法35条
労働基準法37条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 研修医
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法
裁判年月日 2002年5月9日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 3214 
平成14年 (ネ) 107 
裁判結果 一部認容、一部棄却、棄却(上告)
出典 労働判例831号28頁
審級関係 一審/07868/大阪地堺支/平13. 8.29/平成12年(ワ)326号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-研修医〕
 当裁判所も、Aは、最低賃金法にいう労働者であると判断するが、その理由は、以下に当裁判所の判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中「第5 争点に対する当裁判所の判断」のうち、1(認定事実)及び2(Aの「労働者」性について)に記載のとおりであるから、これらを引用する。〔中略〕
 控訴人は、B大学及びC高等専門学校が機関関係の学科、課程の学生に対し民間の事業場に委託して行う工場実習について、その実習を受ける実習生については、当該事業場との関係において原則として労働者ではないものとして取り扱うとする労働省(現厚生労働省)通達昭和57年2月19日基発121号を引用して、民間研修機関における臨床研修医も、労働者として取り扱われるべきものではないと主張する。
 しかし、上記通達が民間の事業場に委託されるB大学及びC高等専門学校の工場実習生を労働者として扱うことをしないのは、〔1〕当該工場実習は大学等の教育課程の一環として、これらの学生に船舶職員法に定める甲種2等機関士(現行、3級海技士(機関))等の海技従事者国家試験の受験資格として必要な乗船履歴を取得させるために行われるものであることなどの実習の目的内容、〔2〕実習は、通常、現場実習を中心として行われており、その現場実習は、通常、一般労働者とは明確に区別された場所で行われ、あるいは見学により行われているが、生産ラインの中で行われている場合であっても軽度の補助的作業に従事する程度にとどまり、実習生が直接生産活動に従事することはないこと、あるいは、実習生の欠勤、遅刻、早退の状況及び実習の履修状況は、通常、まず指導技士によって把握・管理されているが、工場実習規程等に定める所定の手続きを経て、最終的には大学等で把握・管理されていることなどの実習の方法及び管理、〔3〕実習生には、通常、委託先事業場から一定の手当が支給されているが、その手当は、実習を労働的なものとしてとらえて支払われているのではなく、その額も1日300円ないし500円程度で、一般労働者の賃金(あるいは最低賃金)と比べて著しく低いことから、一般に実費補助的ないし恩恵的な給付であると考えられることなどの実態を総合的に勘案した結果であることが当裁判所に顕著な上記通達の内容からも明らかであり、委託実習が教育であり、実習を受ける生徒が被教育者であるとの一事から、実習生を労働者として取り扱わないとするものではない。このことは、同じ通達が、一般の大学の工学部等の学生又は工業高等専門学校の学生で工場実習を受けるものについては、実習の目的、内容、方法等が様々であると考えられるので、個々の実態に即して(労働者該当性を)判断すべきであるとしているところからも明らかである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-賃金の計算方法〕
 上記認定にかかるAの勤務時間をまとめ、これを法定労働時間内労働、法定時間外労働、休日労働、深夜労働の別に整理すると、別紙「勤務時間一覧表」(略)記載のとおりとなる。
 なお、Aの勤務においては、日曜日のほか、第1、第3、第5土曜日以外の土曜日も休日として扱われていたのは前記認定のとおりであるが、労働基準法37条1項の休日割増賃金は、同法35条によって労働者に与えるべきことが定められている休日の労働についてのみ適用されるものであり、弁論の全趣旨によれば、使用者である控訴人病院によってAに与えられた労働基準法35条1項の週1回の休日は、毎日曜日と認めるのが相当であるから、休日である土曜の労働については、当該日の労働が1週の法定時間内に収まる場合は法定時間内労働に、当該日の労働が1週の法定時間内に収まらない場合は法定時間外労働に、それぞれ分類されるべきである。