全 情 報

ID番号 07963
事件名 移送申立事件
いわゆる事件名 カワカミ(移送申立)事件
争点
事案概要  食品添加物の製造等を目的とする株式会社で、大阪市内に本社と支店を有するほか、関東営業所、九州営業所、東北営業所などを有しているX社(申立人・債務者)の関東営業所に勤務していたYら二名(相手方・債権者)はそれぞれ大阪支店及び九州営業所に配転を命じられたが、配転に業務上の必要性がないと主張して、関東営業所所在地の戸田市を管轄するさいたま地方裁判所に、労働契約上それぞれの配転先で勤務する義務がないことを仮に定めることを求める内容の仮処分命令の申立てを行った(本案訴訟)のに対し、X社が上記仮処分命令申立事件について、さいたま地方裁判所に管轄がないとして、会社の本店所在地を管轄する大阪地方裁判所に移送の申立てを行ったケースで、上記基本事件の本案訴訟は、Xの関東営業所における業務に関するものであり、その営業所の所在地を管轄する当庁(さいたま地裁)は、本案の管轄裁判所であり、管轄があるとして、Xの移送申立てが却下された事例。
参照法条 労働基準法2章
民事訴訟法5条5号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
裁判年月日 2002年5月9日
裁判所名 さいたま地
裁判形式 決定
事件番号 平成14年 (モ) 10265 
裁判結果 却下(即時抗告)
出典 労働判例838号30頁
審級関係 控訴審/08010/東京高/平14. 9.11/平成14年(ラ)1045号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 申立人は、「本案訴訟は関東営業所における業務とは無関係である」と主張する理由として、さまざまに述べているけれども、その要点は、結局、仮処分における(主位的)申立ての趣旨が「相手方らが大阪市及び熊本市で勤務すべき義務がないことを仮に定めることを求めるもの」であることの1点に尽きる。しかし、本案訴訟では、関東営業所から大阪市及び熊本市への配転命令が無効であるかどうかがほとんど唯一の争点になると考えられるのであり、仮に配転命令が無効であるとすれば、相手方らは関東営業所で勤務する義務を負うことになるから、予備的申立ての適否等について検討するまでもなく、本案訴訟は関東営業所における業務の目的に関係があると考えることができる。
(2) このように考えることは、実質的にも妥当である。たとえば、A地に本店を有する企業に勤務する労働者が、B地の営業所からC地の営業所への配転命令を受けたとする。この配転命令の効力を争う訴訟を提起する際、仮にこれがB地の営業所における業務に関するものでないとすると、A地又はC地を管轄する裁判所に訴えを提起すべきことになる。これはかなり酷なことである。他方、その企業はB地に営業所を設け、B地で営業活動をし、そのためにその労働者をB地で勤務させてきたのであるから、B地に密接な関係を有している。したがって、B地で応訴させることにしても、(労働者がA地やC地で訴訟をしなければならなくなることと比較して)それほど大きな不利益を被るわけではない。
(3) 申立人は、「相手方らは、仮処分の申立ての後、配転命令に異議をとどめつつも配転命令自体には応じ、大阪及び熊本に着任済みであるから、大阪地方裁判所に移送しても、相手方らにとって不公平な結果を招くことはない。」と主張する。
 しかし、(1)(2)に述べた理由で当庁に管轄があると判断される以上、この主張の当否は問題とならない。(2)に述べた例で、一般論としてはB地の裁判所に管轄があるけれども、労働者が異議をとどめつつC地への配転命令に応じると、その段階でB地の裁判所の管轄がなかったことになるというのは、とうてい採ることのできない議論である。