全 情 報

ID番号 07973
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 日本ロール製造事件
争点
事案概要  塩ビパイプ等の製造販売を行う株式会社Yの従業員で組合員でもあったX1ら一七名が、経営不振等を理由に旅費規定の変更(支給対象の限定等)や各種手当(営業服務規定の外出時昼食補助、時間外食事代に関する時間外勤務要領の条項、夜勤手当に関する夜勤手当要領等)の廃止(組合は同意せず)を廃止されたことから、〔1〕右変更等は無効であるとして、旧規定による支払を請求し(X1を除く)、そのほか〔2〕X1及びX2が社宅の受渡しに伴い家具や引越し負担料等を負担する旨の組合とYとの合意が成立したとしてその支払を請求したケースで、旅費規定及び営業服務規定は労働基準法八九条一〇号に該当するものとしてXら・Y間の労働契約の内容になっていたというべきとし、また時間外勤務要領、夜勤手当要領等も労働基準法八九条の「就業規則」として労働契約の内容を構成するものとはいえないものの、当該規定による取扱いはYと従業員間で継続して行われ、Yがこの取扱いに反して手当を支給しないことはできず、かつ当該手当の支給についてYの従業員に周知されていたから、これも黙示的にXら・Y間の労働契約の内容になっていたものというべきであるから、これらの規定に基づく取扱いはいずれもX1ら一七名従業員の労働契約上の権利ないし法的利益になっているとしたうえで、いずれの手当も労働基準法一一条の「賃金」に該当し、その変更(廃止)は、これを受任させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいて合理的な内容のものである場合にその効力を生ずるものというべきであるとして、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の内容自体の相当性、代償措置そのほか関連する外の労働条件の改善条項、労働組合等との交渉の経緯について検討した結果、いずれも規定の変更(廃止)も無効であるとされてX1ら一七名の請求が認容され、〔2〕についてはX1についての請求のみ一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条10号
労働基準法93条
労働基準法11条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則と労働契約
賃金(民事) / 賃金の範囲
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
裁判年月日 2002年5月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 18252 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例832号36頁/労経速報1823号3頁
審級関係
評釈論文 ・労政時報3549号76~77頁2002年8月2日
判決理由 〔就業規則-就業規則と労働契約〕
(1) 旅費規定について
 「旅費規定(国内出張)」は、第2の1(2)ア(ア)のとおり就業規則44条に基づき規定され、第2の1(3)のとおり、被告肩書住所地の本社、機械ロール部門及びパイプ部門の各事務所に備え置かれ、求めにより閲覧できるものであることから、労働基準法89条10号の「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」に該当する同条の「就業規則」であり、原告らは、就業規則の存在及び内容を現実に知っているか否かにかかわりなく、当然にその適用を受け、原被告間の労働契約の内容を構成するものというべきである。〔中略〕
(2) 営業服務規定
 営業服務規定は、第2の1(3)のとおり、各営業担当部門に備え置かれ、求めにより閲覧できる状態にあったことから、労働基準法89条10号「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」に該当するものとして、原被告間の労働契約の内容となっていたものというべきである。〔中略〕
 夜勤手当要領に基づく取扱い、すなわち、交替勤務者で午後10時から午前5時までの間で2時間以上勤務した者に一回につき600円を支給するとの取扱いは、平成2年の実施当時から平成11年3月20日まで継続して行われており、この取扱いに反して夜勤手当を支給しないことはできず、かつ、この取扱いによる夜勤手当の支給については被告の従業員には周知されていたものといえるから(弁論の全趣旨)、夜勤手当要領に基づく取扱いは、少なくとも平成11年3月15日までには、黙示的に原被告間の労働契約の内容となっていたものというべきである。
 被告は、夜勤手当要領は被告の内部文書にすぎないから、これらにより被告が従業員に対し権利義務を生じることはなく、従業員が何らかの利益を受けることがあっても、反射的利益に過ぎないとするが、内部文書として従業員に開示されたことがなくとも、前記のとおり文書に基づく取扱い自体が労働契約の内容となり、従業員の労働契約上の権利ないし法的利益となる場合があるから、被告の主張は採用できない。〔中略〕
〔賃金-賃金の範囲〕
 労働契約は、労働者が労務を提供し、使用者はその対価を支払うものであるから(民法623条)、食事代は、営業接待、食事を伴う会議への出席等のように食事をすることが労務の提供そのものないし労務の提供の一部を構成する場合は格別として、そのような場合以外は、労務の提供のため必要な食事代であっても、労働者が本来負担すべき費用であるから(民法485条参照)、使用者が負担すべき業務上必要な経費とはいえず、その支給基準が明確である限りは、労働の対償として使用者が労働者に支払うものとして労働基準法11条「賃金」に該当するというべきである。しかるに、日帰り出張日当は、食事そのものが労務の提供そのものを構成する場合に支払われるものではなく、その支給基準は明確であるから、労働基準法11条「賃金」に該当すると解される。また、前記のとおり、日帰り出張日当に時間外手当の代償としての性格も含まれていることからしても「賃金」というべきである。〔中略〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯について検討したところによれば、旅費規定旧第5条から新5条への変更は、日帰り出張時の賃金という労働者(特に営業部門の労働者)にとって軽く見ることができない労働条件に関するものであるにもかかわらず、制定当時とかけ離れた現在の交通事情に合わせて変更するとの必要性を超えて支給条件を限定するもので、代償措置や関連する労働条件の改善も十分とはいえず、変更の合理性について組合及び従業員に対しての変更の必要性の説明も不十分で、これを受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものとは認められないから、無効と解すべきである。〔中略〕
 営業服務規定4条の廃止は、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関するものであるから、これを受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合には、その効力を生ずるものというべきである。〔中略〕
 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯について検討したところによれば、営業服務規定4条の廃止は、営業担当の労働者にとって軽く見ることができない外出時昼食補助というい(ママ)賃金を廃止する内容であるところ、外食代の補助との経済的目的に照らしても廃止の必要性があるとはいえず、労働組合や従業員に対する変更の必要性の説明も不十分で、その廃止に合理性があるとはいえず、無効と解すべきである。〔中略〕
 時間外食事代は、前記第2の1(2)ウのとおり、時間外労働をした場合に500円相当の食事または現金を支給するというものであること、社員食堂が休止される前は社員食堂での定食代がおよそ500円であったことから(〈人証略〉)、時間外労働のため夕食を事業所でとる場合の食事代補助を目的とするものであると認められる。そして、時間外食事代は、食事をすることが労務の提供そのものを構成する場合以外に食事代として支給されるもので、その支給基準は明確であるから、労働基準法11条の「賃金」に該当すると解される。〔中略〕
 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯について検討したところによれば、時間外勤務要領第7条に基づく取扱いの廃止は、労働者にとって軽く見ることができない時間外食事代という賃金を廃止する内容であるにもかかわらず、これを受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づくものとはいえないから、無効と解すべきである。〔中略〕
 夜勤手当は、前記第2の1(2)エのとおり、交替勤務者で午後10時から午前5時までの間で2時間以上勤務した場合に1回につき600円を支給するものであり、夜間勤務の対価として支払われるもので、その支給基準は明確であるから、労働基準法11条の「賃金」に該当すると解される。〔中略〕
 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯について検討したところによれば、夜勤手当要領に基づく取扱いの廃止は、労働者にとって軽く見ることができない夜勤手当という賃金を廃止する内容であるにもかかわらず、これを受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づくものとはいえず、必要性についての従業員に対する説明も不十分であるから、無効と解すべきである。