全 情 報

ID番号 07975
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本工業新聞社事件
争点
事案概要  日刊新聞の発行及び図書の印刷・発行等を業とする株式会社Yの経済記者で組合員でもあったXが、論説委員会論説委員となった後、その約二年後に販売・開発局の千葉支局長に配転を命じられたのに対し、これに異議をとどめつつ赴任したが、八か月にわたり一回八〇行の記事を出稿したのみで、支局長としての業務を行わず、一方で、Yに対し、反リストラ・マスコミ労働者会議・C委員会(リストラ労組)を結成した旨通告して、団体交渉の申し入れを行っていたところ(リストラ労組は本件配転が不当配転であり、会社が団交を拒否して組合への支配介入しているとして地裁に救済命令の申立てをしている)、YからXの行為は就業規則の懲戒解雇事由(異動命令その他業務上の必要に基づく会社の命令を拒否したとき)に該当するとして、懲戒解雇されたことから、Yに対し、本件懲戒解雇は不当労働行為に該当し、あるいは懲戒解雇事由が存在しないか、懲戒解雇権の濫用に当たり無効であると主張して、労働契約上の地位確認及び賃金の支払等を請求したケース。; 本件配転は経営合理化の一環としての必要性から生じたものであり、人事権を濫用した違法なものではないとしたうえで、本件懲戒解雇については解雇事由(業務命令拒否)があるということができ、出勤状況も不良であるなどその業務命令違反の程度、態様も全体としてみればむしろ重大であることからすれば、かかる解雇事由があれば解雇されることは十分にあり得ると認められ不当労働行為であるとはいえないとしつつ、就業規則の規定に従い本件懲戒解雇に当たり開催された賞罰委員会においては、その賞罰委員会規程において審議に加わることができないとされている者二人が委員として参加するという重大な手続違反があり、本件解雇はYが解雇権を濫用したものであり、無効であるとしてXの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条9号
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 2002年5月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 8380 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例834号34頁/労経速報1825号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 被告は、不況乗り切りのための経営合理化の一環として、首都圏における販売部数シェアの増加を図るため、編集局に論説委員会を統合するとともに、千葉支局を関東総局から分離昇格させ、同支局における活動態勢を強化することなどを計画し、編集局部長兼務の論説委員にならない原告について、異動を検討する必要があったものである(第4の3(2)、(3)、同4(2))。
 そして、被告は、原告の異動先として千葉支局長を選定したのであるが、原告が総・支局を編集主導型に転換すべきであるとの本件レポートを作成・提出していること(第4の2(2))や、千葉地区と横浜地区の発展性(両地区の発展性についての当時の被告の判断が誤りであることを認めるに足りる十分な証拠はない。千葉県経済が思わしくないとする甲63、64、67は、いずれも平成7年当時の新聞記事であるから、平成6年当時の被告の判断の誤りを裏付けるものとはいえない。また、甲119、原告本人によれば、平成6年当時の千葉県経済の実状は必ずしも明るいものではなかったことが認められるが、千葉は経済地域として重要であったのであり(第4の3(3))、将来の予測は必ずしも容易ではないことからすれば、これをもって被告の判断が誤りであるとするまでには至らない。)、原告の社歴等(第2の1(2)、第4の3(2)、同4の(2))を考慮すると、原告を千葉支局に配置換えする必要は高かったものといえ、これらを考慮してされた本件配転には業務上の必要性があるということができる。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
 労働者は使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するのであるから、使用者が業務の遂行のために労働者にした、その一定の範囲での労働力の処分に関する指示、命令については、それが業務の遂行のために必要なものであるときは、それに従う義務がある。したがって、いわゆる業務命令とは、権限ある上司など使用者と認められる者が労働者に対して発する、業務の遂行のために必要な指示、命令であると解するのが相当であるから、客観的にみてそのような指示、命令であればこれを業務命令と解して妨げないというべきである。業務命令は、そのようなものである限り、必ずしも職務上の直接の上司からの指示、命令でなくとも使用者の指示、命令と認められるものであれば足りるし、形式面については、口頭によるものであっても差し支えなく、文書による場合であっても、業務命令書と記載する必要はないし、発信人の肩書や押印がなくとも使用者からの指示・命令であることが分かれば足りるし、また、名宛人が支局長宛でなく、労働組合の抗議書、要求書への回答の形式をとっているため労働組合宛であっても、その内容面の記載と相まって業務命令の対象となる労働者宛のものであることが分かれば足りるし、送り先が職場か自宅であるか等を問わないし、ファックスという送付手段を用いるものであっても差し支えないというべきである。また、「命令する」との表現をとっていなくても、その内容からして、指示、命令と認められれば業務命令であるといえるから、文書において、「お願いします」、「お願いいたします」、「して下さい」、「下さい」などの表記がされていても、これを業務命令と解する妨げとなるものではない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 本件賞罰委員会は、その審議に加わることができないA及びBが加わってされたもので、賞罰委員会規程に違反するものというべきである。本件賞罰委員会では、委員7名中2名(A、B)に欠格事由があるが、そのうちBは、自ら原告を賞罰委員会に付議することを申請した上、付議事項を説明しているし、Aは委員長として賞罰委員会を召集して議長となり、同委員会を統轄し代表している(第4の6(1)、(2)ア、(3))。B、Aの本件賞罰委員会におけるこれらの立場からすれば、会社の恣意、独断を防止し、賞罰の公平を期すという賞罰委員会の規程の趣旨に照らし、この規程(14条)に違反してB、Aが加わった賞罰委員会の議によってされた本件解雇は、手続に重大な違反があるものといわざるを得ず、また、業務命令違反は懲戒解雇事由であるとともに懲戒休職事由ともなり得るのであって、業務命令違反があっても懲戒休職とされる場合があるから、被告において、長期にわたり原稿を出稿しない記者に対して依願退職とした例はあるが、懲戒解雇とした前例はないこと(〈証拠略〉によって認める。)も併せ考えると、賞罰委員会の委員の構成如何によりあるいは原告に対し懲戒解雇が選択されなかった可能性も全くないとはいえないことからすれば、この手続に違反してされた本件解雇は、被告が解雇権を濫用したものとして無効であるというべきである。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 本件解雇には重大な手続違反があり、本件解雇は被告が解雇権を濫用したもので無効であるから、被告との間で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める原告の請求は理由がある。