全 情 報

ID番号 07987
事件名 退職金等請求事件(5120号)、損害賠償請求事件(8610号)
いわゆる事件名 西尾家具工芸社事件
争点
事案概要  家具の製造販売等を主たる目的とする株式会社Yで経理課長の職にあったXは、社長から課長職以上の者が中心となって会社再建策を立案するよう指示を受け、その検討会議のなかでYの三期連続事業別損益計算書、予想資金繰表及び再建案を出席者に配布し、経営削減策を出し合うなどしていたが、社長が同会議に出席した際に突然役員従業員の昇格人事を発表したため、幹部従業員らが翌年春までその中止を申し入れたが、社長は当該昇格人事返上は謀反であるといい、その場で役員の退任届と役員手当カット申込書の提出を命じ、その後もXに対し従業員兼役員(社員役員)、部課長職に給与等のカット申出の書面を命じるなどしたため、Xは退職届を提出し退職予定日まで年休を取得していたところ、Yから〔1〕上司の許可なく経営機密資料を作成し会議にて会社に無断で配布した、〔2〕上司の許可なくXを含めた三名の中小企業退職金共済の退会手続を行った、〔3〕有給休暇を専断的判断で取得したこと等が就業規則の懲戒解雇事由に該当するとして懲戒解雇されたことから、(1)XがYに対し、懲戒権濫用に当たり無効であると主張し、また退職金規程による退職金の算定基礎となる基本給の内訳の減額変更は手続上の瑕疵、また当該不利益変更に合理性が認められないとして、旧規定に基づく退職金及び慰謝料を請求したのに対し(本訴)、(2)YがXに対し、Xらの非違行為により損害が生じたとして損害賠償したケース(反訴)で、(1)については本件懲戒解雇は懲戒解雇事由が認められず、解雇権の濫用に当たり無効で退職金請求権を有するとしたうえで、新規程に基づき計算した退職金の額及び慰謝料の請求が一部認容され、(2)については請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法89条3号の2
労働基準法89条9号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 守秘義務違反
裁判年月日 2002年7月5日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 5120 
平成13年 (ワ) 8610 
裁判結果 一部認容・一部棄却(本訴)、棄却(反訴)(控訴)
出典 労働判例833号36頁/労経速報1818号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-守秘義務違反〕
 上記認定によれば、原告を含む被告従業員の有志は、被告の経営状況を懸念し、自主的に再建策を検討する会合を予定していたところ、被告から再建案を策定するように指示され、同指示に基づき再建案を作成し、2度にわたってこれを検討する会議を開催し、その際、出席者である課長職以上の従業員に対して、原告が作成した上記再建案のほか、被告の決算関係の書類、資金繰表を配布したこと、上記決算関係の書類は3期連続事業別損益計算書で、株主や民間機関に対して開示されており、したがって、被告以外の第三者もその内容を十分知りうる可能性のある性質のものであることが認められるのであり、原告は、被告の指示に従って再建案を作成し、これにより検討を行っていたに過ぎないものであって、こうした原告の行為が懲戒解雇事由に該当するということはできない。〔中略〕
 被告の経営状況については、民間調査機関を通じて得意先や金融機関等が知ることは十分可能であり、(人証・証拠略)によれば、被告が取引先との取引を失ったことが認められるものの、これらがすべて原告の行為によるものであると認めるに足りる証拠はないし、また、原告の行為により被告に退職者が多く出たとの被告の主張も、(人証略)の証言によれば、推測の域を出ないものであり、いずれも原告の行為によるものと認めることはできない。
 (三) その他、通知書において、被告は解雇理由として有給休暇取得の件を挙げているが、仮に原告に有給休暇の届出について不手際があったとしても被告は結果として有給休暇取得を承認している(弁論の全趣旨)のであって、これを懲戒解雇事由とすることは相当とはいえない。また、通知書においては、賞罰委員会での原告の発言をとらえてその不誠実な態度を処分事由としてあげているが、そもそも賞罰委員会は事実を明らかにするとともに、処分にあたって処分対象者の弁解を聞く場でもあると考えられるところ、被告の主張によれば、原告が被告の主張する事実を認めない限り賞罰委員会での言動が懲戒解雇事由になるといわざるを得ない結果となり、これでは賞罰委員会の趣旨が没却されるといわざるを得ず、本件において原告の賞罰委員会の態度を懲戒解雇事由に挙げることは相当とは言い難い。また、この他にも被告は、原告の社印の無断使用等を懲戒解雇事由として挙げるが、原告の社印使用の経緯は明らかではなく、これが懲戒解雇事由に該当すると認めるに足りる証拠はない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 本件懲戒解雇は、懲戒解雇該当事由が認められず、したがって解雇権の濫用といわざるを得ないから無効というべきである。〔中略〕
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 本件懲戒解雇は無効であるから、原告は退職届に基づき平成13年2月20日に被告を退職したことになり、特段原告に退職金を不支給とすべき事情もないから、原告は、被告の退職金規程に基づく退職金請求権を有する。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 原告は、退職金算定にあたっての勤続年数にはA会社時代からの勤続年数が通算されると主張し、原告本人尋問においてもその旨を供述し、(証拠略)にもこれに沿う記載がある。しかし、A会社が被告の関連会社であるとしても被告との関係の詳細は明らかでないし、また、原告がA会社から被告において勤務することになった経緯も明らかではない上、(証拠略)によれば、被告の給与規程及び退職金規程を含む就業規則はいずれも「株式会社Y」として作成されており、これらには関連会社に在籍していた場合に勤続年数が被告のそれと通算されるとの規定はなく、被告の就業規則が関連会社にも適用されるかは不明である。他に両者の勤続年数が通算されると認めるに足りる的確な証拠はない。また、通算して計算されることが労使慣行になっていたと認めるに足りる証拠もない。
 したがって、原告の退職金の算出については、被告における勤続年数を基準に算出するのが相当である。