全 情 報

ID番号 07989
事件名 遺族補償費不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 新宿労働基準監督署長(映画撮影技師)事件
争点
事案概要  映画撮影技師(カメラマン)であったAがBプロダクションとの撮影業務(撮影期間約七か月間うち延べ五〇日の予定)に従事する契約に基づき映画撮影に従事中に、宿泊していた旅館で脳梗塞を発症してその後死亡したことについて、その子であるXが、Aの死亡は業務に起因するものであるとして、新宿労基署長Yに対して遺族補償給付の請求をしたところ、Yは労基法九条にいう労働者には該当しないとの理由で不支給処分としたため、右処分の取消しを請求したケースの控訴審で、Aには使用従属関係を疑わせる事情もあるが、撮影技師は監督の指示に従う義務があること、報酬の算定基準も労務提供期間となっていること、個々の仕事についての諾否の自由が制約され、時間的・場所的拘束性も高いこと、労務提供の代替性がないこと、撮影機材はほぼBプロのものであること、BプロがAの本件報酬を労災保険料の算定基礎としていうこと等を総合して考えれば、Aは、使用者との使用従属関係の下に労務を提供していたものと認めるのが相当であり、労災保険法の労働者に該当するとして、労働性を否定した原審の判断が取り消され、Xの控訴が認容された事例(なお、Aの死亡の業務起因性についての認定、判断は留保)。
参照法条 労働基準法9条
労働者災害補償保険法1条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 映画撮影技師
労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 労働者の概念
裁判年月日 2002年7月11日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (行コ) 42 
裁判結果 認容(原判決取消)(確定)
出典 時報1799号166頁/労働判例832号13頁
審級関係 一審/07705/東京地/平13. 1.25/平成10年(行ウ)186号
評釈論文 ・労政時報3557号72~73頁2002年10月11日/岡田健・平成14年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1125〕292~293頁/鎌田耕一・労働法律旬報1536号15~44頁2002年2月25日/高木紘一・判例評論533〔判例時報1818〕203~207頁2003年7月1日/織方承武・労働法律旬報1536号6~14頁2002年9月25日/水口洋介・労働法学研究会報53巻28号1~27頁2002年10月10日/長坂俊成・季刊労働法203号226~238頁2003年12月/矢部恒夫・日本労働法学会
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-労働者の概念〕
 労災保険法の保険給付の対象となる労働者の意義については、同法にこれを定義した規定はないが、同法が労基法第8章「災害補償」に定める各規定の使用者の労災補償義務を補填する制度として制定されたものであることにかんがみると、労災保険法上の「労働者」は、労基法上の「労働者」と同一のものであると解するのが相当である。そして、労基法9条は、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と規定しており、その意とするところは、使用者との使用従属関係の下に労務を提供し、その対価として使用者から賃金の支払を受ける者をいうと解されるから、「労働者」に当たるか否かは、雇用、請負等の法形式にかかわらず、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうかによって判断すべきものであり、以上の点は原判決も説示するところである。
 そして、実際の使用従属関係の有無については、業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、支払われる報酬の性格・額、使用者とされる者と労働者とされる者との間における具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、時間的及び場所的拘束性の有無・程度、労務提供の代替性の有無、業務用機材等機械・器具の負担関係、専属性の程度、使用者の服務規律の適用の有無、公租などの公的負担関係、その他諸般の事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-映画撮影技師〕
 映画製作においては、撮影技師は、監督のイメージを把握して、自己の技量や感性に基づき、映像に具体化し、監督は、映画製作に関して最終的な責任を負うというものであり、本件映画の製作においても、レンズの選択、カメラのポジション、サイズ、アングル、被写体の写り方及び撮影方法等については、いずれもC監督の指示の下で行われ、亡Aが撮影したフィルム(カットの積み重ね)の中からのカットの採否やフィルムの編集を最終的に決定するのもC監督であったことが認められ、これらを考慮すると、本件映画に関しての最終的な決定権限はC監督にあったというべきであり、亡AとC監督との間には指揮監督関係が認められるというべきである。
〔労基法の基本原則-労働者-映画撮影技師〕
 亡Aの本件映画撮影業務については、亡AのBプロヘの専属性は低く、Bプロの就業規則等の服務規律が適用されていないこと、亡Aの本件報酬が所得申告上事業所得として申告され、Bプロも事業報酬である芸能人報酬として源泉徴収を行っていること等使用従属関係を疑わせる事情もあるが、他方、映画製作は監督の指揮監督の下に行われるものであり、撮影技師は監督の指示に従う義務があること、本件映画の製作においても同様であり、高度な技術と芸術性を評価されていた亡Aといえどもその例外ではなかったこと、また、報酬も労務提供期間を基準にして算定して支払われていること、個々の仕事についての諾否の自由が制約されていること、時間的・場所的拘束性が高いこと、労務提供の代替性がないこと、撮影機材はほとんどがBプロのものであること、Bプロが亡Aの本件報酬を労災保険料の算定基礎としていること等を総合して考えれば、亡Aは、使用者との使用従属関係の下に労務を提供していたものと認めるのが相当であり、したがって、労基法9条にいう「労働者」に当たり、労災保険法の「労働者」に該当するというべきである。