全 情 報

ID番号 07997
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 オープンタイドジャパン事件
争点
事案概要  人材紹介会社から、被告会社Y(韓国所在のAグループに属し、日本企業に対しインターネットに関するサービスの提供事業等を行う会社)を紹介され、事業開発部長として年俸一三〇〇万円で採用する旨の採用決定通知を受領し、誓約書(試用期間中、本人の実務修習状況と素質を勘案して会社が辞退を勧告した場合は、無条件、即時辞退することといった内容が記載)に署名押印のうえ就労を開始した原告が、約二か月弱の間に、Xの業務適格状況の観察の結果、業務運営方針に適合しないとの理由(具体的には、業務遂行状況の不良、適性の欠如、職務経歴書の不実記載など)で本採用を拒否する旨の通知を受けたことから、Yに対し、本件解雇は無効であるとして、雇用契約上の地位確認及び解雇後の賃金の支払を請求したケースで、本件では試用期間の定めが有効に成立し、そして本件解約告知は、雇用から二か月経過してなされたものであり、Xの業務能力を把握し、その適性を判断するための合理的な期間内にされたものであるとしたうえで、Xの業務能力又は業務遂行が著しく不良又は、Xが事業開発部長として不適格であったと認めることはできず、本件解約告知は、試用期間中の本採用拒否として、客観的かつ合理的な理由があるとか、社会通念上是認することはできず無効であるとして、Xの請求が一部認容(判決確定後の賃金請求は却下)された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 2002年8月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 17072 
裁判結果 一部認容、一部却下(控訴)
出典 労働判例836号94頁
審級関係
評釈論文 原俊之・労働法律旬報1552号66~69頁2003年5月25日/渡邊絹子・ジュリスト1256号199~202頁2003年11月15日
判決理由 〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 原告と被告との間で、原告の事業開発部長としての業務能力を把握し、その適性を判断するための試用期間を定める合意が成立したものと認められ、この合意は、合理的理由に基づくものとして、有効というべきである(これに反する原告の主張は、以上の認定判断に照らして採用できない。)。そして、被告がした本件解約告知は、雇用から2か月弱経過してされたものであり、原告の業務能力を把握し、その適性を判断するための合理的な期間内にされたものといえる。
 ただし、本件解約告知が有効と認められるためには、上記試用期間の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認されるものであることが必要というべきである。〔中略〕
〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 証拠(証拠・人証略)によれば、原告は、同業務について、関係者を訪問する等して、関連情報や参考資料を入手する等するとともに、韓国企業との間で連絡を取り合い、業務の進捗状況を報告する、相手方製品の情報入手に必要な秘密保持契約を締結する、相手企業の求めに応じて事業計画を提示する等、同業務の遂行に必要な事項を実施しており、これらが不適切であったと認めるに足りる的確な証拠はない。
 そうすると、原告による訪問先の韓国企業への対応が不良であったと認めることはできない。〔中略〕
 証拠(証拠・人証略)によれば、業務進捗表は、被告の週1、2回の定期ミーティングにおいて、各社員が各自の業務遂行状況を説明するための参考資料として作成されたものであり、社員によってはこれを作成しなかったり、作成しても簡単なメモ程度のものであったことが認められ、これらを併せ考えると、業務進捗表に関する上記事実をもって、原告の業務遂行状況が不良であったと認めることはできない。〔中略〕
 さらに、被告は、原告が同製品の営業展開方針について提案しなかった旨主張するが、被告が原告に対しこのような提案をするよう命じ又は指示したことは、B社長の証言又は陳述の他に認めるに足りる証拠はない上、上記認定の事情に加え、同製品の販売業務について、原告とCが、必要に応じて相談する等して個別に業務を遂行し、それぞれB社長に報告していたこと(前記イ)に照らすと、原告が事業開発部長の職にあったことを考慮しても、原告が上記のような提案をしなかったことをもって、直ちにその業務遂行状況が不良であったと認めることはできない。〔中略〕
 これらの事実によれば、原告は、ブリッジング業務の一環としてD社の製品の販売に必要な覚書を締結するにあたり、契約内容をより有利にするために貢献したものと認められ、他方、原告が、同社製品の販売について、被告主張のような業務を遂行するよう命じ又は指示されたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告が被告主張のような業務をしなかったことをもって、その業務遂行状況が不良であったと認めることはできない。〔中略〕
 これまでに述べた原告の業務遂行状況に照らすと、仮に原告が事業開発部長として被告主張のような職責を果たすことを期待されていたとしても、原告が解雇されるまでの2か月弱の間にそのような職責を果たすことは困難であったというべきであり、また、その後に雇用を継続しても、原告がそのような職責を果たさなかったであろうと認めることもできない。
 したがって、原告が被告主張のような職責を果たさなかったことをもって、原告の業務遂行能力が不良であったと認めることはできない。〔中略〕
〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 前記(1)ないし(4)によれば、原告の業務能力又は業務遂行が著しく不良であるとか、原告が事業開発部長として不適格であったと認めることはできず、本件解約告知は、試用期間中の本採用拒否として、客観的に合理的な理由があるとか、社会通念上是認することができるものということはできない。
 したがって、本件解約告知は無効である。
 原告は被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、及び本件解約告知後の賃金として、後記3の金員の支払を求めることができる。