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ID番号 08006
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 大阪市シルバー人材センター事件
争点
事案概要  社団法人Yの会員として、Yの受注事業である動物園の清掃作業において、清掃班の一員として清掃業務に従事していたX(当時七一歳)は、就業中に副班長の訴外Aにこぶしで右眼付近を殴打されて負傷し、入院したが失明状態となった(もともとXは左眼も視力を失っていた(この事実はYも他の会員も知らなかった)ので結果として両眼とも失明)ため、Yに対し、YとX及びAとの間に雇用関係ないし、これと同程度の実質上の指揮監督関係があったと主張して、選択的に、使用者責任又は作業上の安全配慮義務に基づき、損害賠償を請求したケースで、Yと就業会員との関係は請負契約であったというべきであるが、Yは班長に班員の作業を指導・援助し、人の作業所状況を報告させることにより、Yは班長を通じて班員の作業時間、作業状況等を管理していたと推認されるから、班長の業務との関係においては、実質的な指揮監督関係があったとし、民法七一五条の使用者として被用者たる会員Aが第三者たる被害会員Xに与えた損害につき損害賠償の義務を負うとし、本件殴打事件と相当因果関係を有するXの損害のうち一部につき(Aが本件殴打事件に及んだ背景・動機のほか本件前事実関係を考慮してXは三割負担すべきとされた)認容された事例。
参照法条 民法709条
民法715条
民法716条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
裁判年月日 2002年8月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 10951 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例837号29頁
審級関係
評釈論文 秋田成就・労働判例843号5~12頁2003年5月1日/本久洋一・法律時報76巻1号115~118頁2004年1月
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
 被告と就業会員との関係は請負契約であったというべきところ、請負人は、その判断と責任において仕事を遂行するのが原則であるから、注文者との間には使用関係はないのが通常である(民法716条本文参照)が、注文者が請負人を直接間接に指揮監督して工事を施工させているような場合には、注文者と請負人の間には実質的な使用関係があるものとして、請負人の不法行為について、注文者は使用者責任を免れないと解するのが相当である。〔中略〕
 被告としては、会員への就業機会の提供が請負契約によるものであるからといって、単に会員に仕事を請け負わせるだけではなく、高齢者である就業会員が安全に仕事ができるように環境整備を図る必要があるうえ、集団的作業の現場においても、就業会員一人一人が勝手な作業をしないように秩序を保ち、相互に協力しあって円滑に仕事を進めさせ、仕事の質も良好に保つことによって関係取引先からの仕事の発注を維持拡大し、会員の就業機会と組織の財政基盤とを確立して、高齢者福祉の一翼を担うという使命を果たす必要があったと考えられる。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 暴行が、使用者の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為であるときは、その暴行は、使用者の事業の執行につき加えた損害に当たるというべきである(最高裁昭和44年11月18日・民集23巻11号2079頁参照)。〔中略〕
 本件殴打事件の契機は、班長代行としてのAが、原告の作業の指導という、被告に対して負っている班長としての任務を執行しようとした際に、原告がこれを聞き入れないかのような態度を示したことを契機として発生したものであり、被告の事業の執行につきなされたものと評価せざるを得ない。
 この点、被告は、本件殴打事件はAと原告の間の私闘である旨主張するが、本件殴打事件は、職務を離れた個人的な感情のもつれに起因するものではないから、事業執行性を完全に否定することは困難である。