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ID番号 08038
事件名 金員仮払仮処分命令申立ての却下決定に対する即時抗告事件
いわゆる事件名 秋保温泉タクシー(一時金仮払仮処分即時抗告)事件
争点
事案概要 タクシー業を営むYにおいて、昭和50年に締結されて以来自動更新される労働協約と、毎春の団体交渉を経た協定書により、昭和61年以来11年間にわたって基本給を算定基準とした夏期及び年末一時金が支給されてきたなかで、Yは平成11年4月の団体交渉において経営危機を理由に賃金体系の変更と、同年の年末一時金の支給について成果配分とする旨の提案をし、組合側の反対からYがこれを支給しなかったところ、組合員であるXらが、年末一時金を支給する内容の労働協約が成立したとしてその支給を求め仮処分を申し立てたところ却下されたため、Xらが即時抗告したというケースについて、従前と同様に一時金を支給する旨の合意が成立したことを前提とし、それが労基法14条の書面化の要件を満たしていないとしながらも、労働協約に基づく合意であることや平成11年の確認書の存在等から、当該合意がYらを拘束するとし、仮にその様な解釈が許されないとしても、平成11年の夏期一時金を支給しながら年末一時金を支給しないのは信義則に違反するとして、年末一時金の支給を被保全権利とし、その不支給はXらの生活に重大な影響を与えるものとして保全の必要性を認め、原決定を取り消して仮払いを認容した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働組合法16条
民法1条2項
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 2001年2月26日
裁判所名 仙台高
裁判形式 決定
事件番号 平成12年 (ラ) 46 
裁判結果 認容(異議申立)
出典 労働判例844号13頁
審級関係 控訴審/08112/仙台高/平15. 1.31/平成13年(ウ)25号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 相手方とA労組との間では、本件労働協約に基づく賃金協定として毎年春に行われるA労組(集団交渉が行われるようになってからは参加各組合)の統一要求に基づく団体交渉において、夏期一時金及び年末一時金を含めた交渉がなされ、賃金協定が締結されていたものということができる。そして、交渉の結果、各一時金を前年と同じ率で支給する旨の合意が成立した場合、その協定書を作成する際に、特に協定書にその合意内容を明記しないこともあったことが認められる。平成11年4月に行われた相手方とA労組を含む集団交渉においても、組合側から一時金の引き上げ要求がなされていたことは上記認定のとおりであって、一時金についての交渉がなされなかったとは到底考えられない。また、そうした合意をしないのなら、労使合意にいたった事項は、協定に参加した労使においてそれを遵守し誠実に履行する旨明記された平成11年確認書を作成する必要はなかったはずである。
 したがって、平成11年4月の集団交渉において、平成11年協定書に明記されなかったけれども、夏期一時金のみならず、年末一時金についても、従前と同様に、一律基本給の2.12か月分で支給する旨の合意が成立していたと認めるのが相当である。そして、当該合意内容がその後変更された事実は認められない(平成11年7月2日に、相手方からA労組に対し、年末一時金の支給について成果配分での支給を申し入れているが、A労組は上記申入れを拒否していることは上記認定のとおり。)。
 そうすると、相手方と抗告人らとの間に、平成11年の年末一時金を支給する旨の合意は存しないとの相手方の主張は採用できない。
 ところで、平成11年の年末一時金を支給する旨の合意が上記のとおり成立していたとしても、その合意内容は平成11年協定書に明記されていないのであるから、労働組合法14条の書面化の要件を満たしていない。このような場合の合意の効力については、いろいろな議論がなされているところであるが、当該合意は、本件労働協約に基づく合意であること、平成11年確認書の存在などからすれば、相手方を拘束する効力が認められてしかるべきものと解される。
 仮にそうした解釈が許されないとしても、相手方が抗告人らに対し、当該合意や平成11年確認書の合意に反して、平成11年の夏期一時金を支給しながら年末一時金を支給しないのは、信義則に違反するものと解さざるを得ない。〔中略〕
 よって、抗告人らには年末一時金の請求権があるというべきであるから、本件仮処分の申立てについて被保全権利の疎明があるということができる。