全 情 報

ID番号 08039
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 日本銀行セクシュアル・ハラスメント事件
争点
事案概要 銀行Y1の行員であったXが、支店長であったY2からセクシュアル・ハラスメントを受けたために精神的に不調をきたした等と主張し、〔1〕Y1に対して不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償、〔2〕Y2に対して不法行為に基づく損害賠償、〔3〕Y1、Y2に対して謝罪文の作成、交付及び掲示を求めたケースで、〔1〕〔2〕の請求は認められ、〔3〕は棄却された事例。
参照法条 民法709条
民法715条
男女雇用機会均等法21条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 2001年3月22日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 1467 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 時報1754号125頁/タイムズ1086号211頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
 前記一(二)、(四)で認定した事実によれば、被告Y2は、原告に対し、職場における上下関係を背景に、既に本件第一セクハラ行為による被害を受けており、嫌がる原告をしつこく食事などに誘い、原告をして、これを角の立つ形で断れば、自分の労働条件ないし労働環境の悪化を心配せざるを得ないというのっぴきならない立場に追い込み、精神的苦痛を与えたもので、典型的なセクシャル・ハラスメントの一種というべきであって、これが原告の人格権を侵害する不法行為に当たることは明らかである。とりわけ、本件においては、原告は、既に本件第一セクハラ行為の被害を受けているから、その後の誘いは、これに応じれば本件第一セクハラ行為と同様ないしそれ以上の被害を受けることを想像させるものであって、その苦痛は深刻なものであったと考えられる。〔中略〕
 本件第一セクハラ行為は、勤務時間外に、職場でなく、本件クラブで行われたものである。しかしながら、前記一(一)ないし(四)認定の事実によると、〔1〕被告Y2は、かねて職場内のコミュニケーションを図るためと称して女性職員と二人だけで食事に出かけており、「A」での食事の誘いもその一環としてのものであったと考えられること、〔2〕被告Y2は、原告を「A」での食事に誘った目的は「部下との意思疎通を図ることと、原告が書類整理で頑張ってくれたことに対する感謝の意を表すこと」であったと主張していること、〔3〕被告Y2は、勤務時間中に原告を支店長室まで呼び出して、日程を決めたこと、〔4〕原告が食事の誘いに応じた理由は、所属する京都支店の最高責任者である被告Y2に自分を理解してもらい、働きやすい環境をつくりたいと考えたためであること、〔5〕本件クラブは、都ホテルにとっての重要人物しか利用できない部屋であって、被告Y2は、被告銀行の京都支店長であるからこそこれを利用できたものであること、〔6〕被告Y2は、本件クラブを、仕事上の打ち合わせや接待、京都支店の行員らとの飲み会の二次会などに頻繁に使用していたことなどの事実を指摘することができ、これらの事情を総合勘案すれば、本件第一セクハラ行為は、被告Y2の京都支店長としての職務と密接に関連するものと認めるのが相当であるから、これによって原告が被った損害は、被告Y2が被告銀行の事業の執行につき加えた損害に当たるというべきである。
 (二) 本件第二セクハラ行為について
 本件第二セクハラ行為は、被告Y2が、勤務時間中に、京都支店内で、支店長室から京都支店の内線電話や電子メールシステムを利用して行ったものであることを考慮すると、被告Y2の職務と密接に関連するものと認めるのが相当であるから、これによって原告が被った損害は、被告Y2が被告銀行の事業の執行につき加えた損害に当たるというべきである。〔中略〕
 本件第一セクハラ行為は、被告Y2が京都支店で最高の地位にあることを背景にし、一従業員である原告にとってはその理不尽な要求に容易に抗い難い状況の中で行われた卑劣なものであり、その態様も悪質であったこと、本件第二セクハラ行為も、原告の精神状態を無視するか、若しくは全く理解せず、一か月余にわたってしつこく行われたものであること、これによって、原告は精神的に苦しむのみならず、身体的不調にまで陥り、挙げ句に被告銀行の退職のやむなきにまで追い込まれ、その人生設計に大きな狂いを生じたこと、その他本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、原告が被った精神的苦痛を慰謝するために金一五〇万円をもってするのが相当である。〔中略〕
 エ 謝罪文の交付及び掲示(争点3の(四))
 民法七二三条は、名誉が害された場合に、裁判所が被害者の名誉を回復するための適当な処分を命じることができる旨を定めているが、ここにいう「名誉」とは、人がその人格的価値について社会から受ける客観的評価をいうと解されるところ、被告Y2の本件各セクハラ行為によって原告の客観的評価が毀損したとは認められない。
 また、原告は、謝罪文の交付及び掲示を求める根拠として人格権を主長するが、人格権に基づいて謝罪文の交付及び掲示を求めることができるとしても、本件において、金銭による損害賠償のほかに謝罪文の交付及び掲示によらなければ回復し得ない損害を原告が受けたとまでは認められない。