全 情 報

ID番号 08063
事件名 地位確認等請求控訴事件(950号)、附帯控訴事件(3134号)
いわゆる事件名 カジマ・リノベイト事件
争点
事案概要 建造物の維持、改良の工事並びにコンサルティング等を業とするYの工務部において見積り、契約、出来高管理等の業務に従事していた女性従業員Xが、勤務成績や能率の悪さ等を理由に4回のけん責処分を受けたが始末書を提出せず、その後、全労共全国一般東京労働組合・女性ユニオン東京に加入した後、解雇されたところ、XがYに対し、本件解雇は、Xが(旧)労働省婦人少年室に相談に行ったこと、Yの法令違反行為を申告したこと及びXが労働組合に加入したことを理由とする不当労働行為であり、又本件解雇には合理的な理由がなく無効であるなどと主張して、労働契約上の地位確認及び、未払賃金及び解雇前の未払時間外手当・付加金の支払、並びに慰謝料の支払を請求したケースの控訴審で、一審は本件解雇は権利の濫用として無効であるとしていたが、控訴審は、企業全体として統一的・継続的な事務処理が要求される事柄についてのXの態度からすれば、本件解雇は権利の濫用とはいえず、また、Yの不当労働行為を肯定することもできないとしてYの控訴を認容し、原審を取り消した事例。
参照法条 労働基準法18条の2
労働基準法89条3号
労働基準法89条9号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇事由 / 従業員としての適性・適格性
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出
裁判年月日 2002年9月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成14年 (ネ) 950 
平成14年 (ネ) 3134 
裁判結果 原判決一部取消し、棄却(上告、上告受理申立て)
出典 労働判例849号129頁
審級関係 一審/07897/東京地/平13.12.25/平成10年(ワ)25339号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-従業員としての適性・適格性〕
 控訴人が本件解雇の理由として主張する事実については、〔1〕A部長、B副部長及びC部長に対する侮辱的発言(1ウ(ア)ないし(ウ))、〔2〕時間外労働制限の指示に対する不服従(1エ(ウ))、〔3〕控訴人において使用していない用語の使用(1オ)、〔4〕遅れて提出された下請からの請求書への受理年月日記載指示に対する不服従(1カ)、〔5〕パソコンの代わりに電卓を使用するようにとの指示に対する不服従(1キ、ク(イ))、〔6〕集計表の編てつ方法の指示に対する不服従(1ク(ア))、〔7〕新規工事入手報告書のコピー作成の拒否と同僚に対する侮辱的発言(1ク(ウ))、〔8〕現場や下請からの電話でC部長に無断で勝手なやり取りをすること(1コ(ア))、〔9〕取引業者(L)からの労務費請求に対し請求書が遅れたとしてC部長に無断で支払を翌月にする旨の連絡をしたこと(1コ(イ))、〔10〕被控訴人個人のパソコンのファックスモデムを社内に持ち込んでファックス送信を行ったこと(1セ)、〔11〕派遣社員の指導を誠実に行わなかったこと(2ア)、〔12〕収入印紙税額一覧表を上司に無断で下請会社に配付したこと(2ウ)、〔13〕優先的に作成する書類があるのに不急の注文書等を作成したこと(2エ)、〔14〕新入手工事概要報告書のコピー作成等の指示不服従(2オ)、〔15〕不要書類の無断作成(2カ)、〔16〕控えるように指示されている休憩時間中の作業(2キ)、〔17〕上司の机上書類を無断で読んだりすること(2ク)がいずれも認められる。
(2) これらの事実はこれを一つ一つ取り上げると比較的些細なものが多いように思われるが、企業全体として統一的・継続的な事務処理が要求される事柄について、被控訴人は独自の見解で合理的であると考えて上司の指示に従わず自己の事務処理方針を変えないという態度が顕著である。すなわち、〔3〕控訴人において使用していない用語の使用(1オ)、〔6〕集計表の編てつ方法の指示に対する不服従(1ク(ア))、〔15〕各種の不要書類の無断作成(2カ)、更には上司も黙認せざるを得なかったが会社が導入したパソコンの専用ソフトを使用せず使いやすいということで自己が使っていたソフトを使用し続けたこともその顕れである。これらは従業員一人一人が自分の好みで行うということになると企業全体としての統一性が保たれずに非能率、更には過誤にも通じるおそれがあるほか、人事異動の際に(休暇取得時等に他の者が代って仕事をする場合でも)支障が生ずるものであり、いずれも軽視することができないものである。
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 被控訴人には上記(1)ないし(3)のような行為があり、同人は日頃上司から注意を受けていたのにこれを聞き入れずほとんど改善することがなかったため4回にわたるけん責処分を受けたが、それでも被控訴人の態度に変化がなかったことから控訴人は本件解雇に至ったとみることができ、被控訴人については就業規則39条2号の「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき」に該当するものと認められる。そして、以上みてきたところからすると本件解雇が権利の濫用に当たるとみることもできない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-始末書不提出〕
 控訴人の就業規則によると、けん責は懲戒処分の1つでその程度において最も軽く、従業員に就業規則、諸規定の違反又は上司の指示に対する不服従等の事由があるときにされるものであり、その内容は始末書を取り将来を戒めるものとされている(前記争いのない事実、〈証拠略〉)。
 従業員に上記事由がある場合とは、換言すれば服務規律違反がある場合であり、従業員としての最も基本的な義務の違背がある場合ということができる。これを懲戒の対象とするのは広く企業秩序維持の要請から必要とされることであるが、きわめて軽微な違反の場合は口頭の注意で足りるのが普通であって、けん責処分の対象とされるのは、看過できない程度の違反があって口頭の注意では足りないような場合であると解される。一方、上記の事由に対しては別に、より程度の重い減給という懲戒処分も予定されていることからすると、けん責の対象となるのは上記の場合でしかも比較的軽微な違反に限られるというべきである。このような違反に対しては当該従業員がその事実を認めて反省し将来同様の違反をしないことを書面をもって確約した場合には、将来を戒める目的は達せられたものとして、企業罰である懲戒としてはそれ以上の不利益を課する必要はないとするのが、懲戒処分としてのけん責の本質的内容を成すものということができる。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-始末書不提出〕
 以上のとおり、第3けん責処分は始末書の不提出をその対象とするものであり、何ら被控訴人の組合加入と関りのないものである上、これに至る事実関係についての被控訴人の主張を考慮しても、第3けん責処分(第4けん責処分についても)の不当労働行為性を肯定することはできない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-始末書不提出〕
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 本件解雇はさきにみたとおり4回にわたるけん責処分及びこれに基づく始末書の不提出を理由にされたもので合理性のあるものであり、被控訴人の組合加入ないしこれに関連した行為を嫌ってしたものとは認められないというべきである。前示A証言にあらわれているように被控訴人の組合加入に結びつく三六協定に関するやり取りが動機の一部となっていたとしても、少なくとも被控訴人の組合加入ないしそれに関連した被控訴人の言動あるいは本件労働組合の団交申入れその他の組合活動を嫌ったことが本件解雇の主たる動機を成したと認めることはできない。