全 情 報

ID番号 08089
事件名 団交拒否損害賠償・雇用関係確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 明治学園事件
争点
事案概要 就労先を不法にあっせんしたとして入管法違反の罪により有罪判決(罰金刑)が確定したX1(原告、被控訴人)とX1が加入する労働組合X2(原告、被控訴人)が、中学校教諭として勤務していた学校法人Y(被告、控訴人)から、無給休職とされ、普通解雇されたため、X1の雇用契約上の地位の確認および無給休職期間中の未払賃金と本件解雇後の未払賃金等を求めたケースの控訴審で、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き解雇権の濫用として無効とした上で、無給休職についても無効としてX1らの請求を認容した原審に対して、本件解雇には合理性、相当性があり有効とし、無給休職についても有効として、一審判決のYの敗訴部分が取り消され、Yの主張が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条3号
労働基準法18条の2
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 名誉・信用失墜
休職 / 起訴休職
裁判年月日 2002年12月13日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 109 
平成13年 (ネ) 371 
裁判結果 認容(原判決取消、請求棄却)、同附帯控訴棄却(上告)
出典 労働判例848号68頁
審級関係 一審/08036/福岡地/平12.12.25/平成10年(ワ)672号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-名誉・信用失墜〕
 前認定の事実によれば、被控訴人X1は、入管法の不法就労あっせんの罪に基づき、逮捕・勾留された後、公訴を提起され、同罪につき、罰金30万円に処する旨の有罪判決が確定した(本件控訴審判決)。同罪は、在留外国人の不法就労を助長し国の出入国管理秩序の根本を侵すものであり、このような行為を故意に1年近くの長期にわたって反復継続してきた被控訴人X1の責任は重大であり、殊に被控訴人X1が社会科担当の現職の中学校教員の立場にあったことに照らして考えると、生徒や保護者からその適格性に疑念を持たれても止むを得ないものがあったといえる(現に〈証拠略〉等によれば、控訴人学園の保護者の間では被控訴人X1の職場復帰に反対する意見が根強いことが窺われる。)。また、控訴人学園も被控訴人X1の前記犯罪に関する捜査機関による捜索の対象とされ、このことが大きく報道されるなどした結果、控訴人の教職員や生徒、その保護者などの関係者に混乱を惹き起した。このような事情があったにもかから(ママ)わず、被控訴人X1は、前記有罪判決を受けたことにつき、特段反省の情を示すこともなかったばかりでなく、支援者と共に、平成8年12月以降はほぼ毎週のように控訴人学園に赴き、抗議活動を行ってきたのであるが、その抗議活動の態様は、文化祭バザーや入学試験当日に拡声器を用いて演説をしたり、シュプレヒコールを行うなど、生徒やその保護者をも巻き込むもので、控訴人学園の授業や行事に少なからぬ支障を生ぜしめるものであった。控訴人は、これらの事情を考慮した上で、中学校の社会科教諭(逮捕当時は、公民の科目を担当。)を務めていた被控訴人X1が教師としての適格性を欠くものと判断し、さらに、前記有罪判決が生徒に悪影響を与え、保護者の信頼やYの名誉等が失墜したものとして、被控訴人X1を普通解雇(本件解雇)に付したのであるが、被控訴人X1について生じた前記諸事情は、被控訴人の就業規則19条1号(本則その他学園の規則に違反し、又はこの規則前文に示される学園の教育方針に協力せず、本学園の教育事業遂行に支障が生じたとき)、5号(信用失墜行為があったとき)及び8号(学園の経営上やむを得ない事情及び前各号に準ずる事由の生じたとき)に該当すると解するのが相当であるから、控訴人がこれらの条項に基づいてした本件解雇(普通解雇)は、合理性、相当性があり、有効と解すべきである。
〔休職-起訴休職〕
 控訴人には、就業規則上教職員が起訴されたときに休職に付する、いわゆる明確な起訴休職制度の定めはないが、控訴人が被用者である教職員を休職に付することができる場合として、就業規則9条4号には「前各号の外休職させることを適当と認めるとき」と定められており、かつ、一般に、刑事事件で起訴された被用者をそのまま就業させておくと、職務内容又は公訴事実の内容如何によっては、使用者の職場秩序や社会的信用が害され、また、このような被用者の労務の継続的な給付や使用者の組織的活動に障害が生ずることもあるから、本件のように就業規則等に明確な起訴休職の定めがなくとも、前記就業規則9条4号に基づいて控訴人が起訴された教職員を休職に付することは可能なものと解せられる〔中略〕
 被用者が起訴されたという事実のみによって、直ちに使用者が被用者を休職扱いすることが認められるものではなく、休職に付することが許されるのは、当該被用者が従事する職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無など諸般の事情に照らし、起訴された被用者が引き続き就労することにより使用者の対外的信用が失墜し又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがある場合、あるいは当該被用者の労務の継続的な給付や使用者の業務の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合でなければならないというべきである。さらに、無給休職の場合には、休職によって被る被用者の不利益が極めて大きいから、その不利益の程度が起訴の対象となった犯罪行為の軽重と比較して著しく均衡を欠かないことをも要するというべきである。
 3 これを本件についてみるに、被控訴人X1は、本件あっせん行為によって逮捕された後長期間勾留され、控訴人学園自体も被控訴人X1の本件あっせん行為に関して捜索を受けた。また、現職の教員が被疑者とされたことから大きく報道されたこともあって、控訴人は、生徒の保護者や卒業生などから問い合わせを受けるなど、控訴人の業務に大きな混乱を生じたであろうことは、容易に推測することができる。さらに、被控訴人X1は、社会科を担当する教員であったことを考えれば、控訴人が被控訴人X1を職場に復帰させることが相当でないと判断したことには、充分な合理性、相当性があったというべきである。そして、被控訴人X1の犯した本件犯罪行為は、懲戒解雇事由に該当する可能性があることも否定することができず(被控訴人X1の行為は、控訴人の就業規則46条に該当すると解する余地もあった。)、本件無給休職と起訴の対象となった行為とが均衡を欠くものではなかったというべきである。以上判示の事情を考え併せれば、本件無給休職は、前記の要件を欠く無効なものであったということはできない。