全 情 報

ID番号 08132
事件名 給与等補給金返還請求控訴事件
いわゆる事件名 徳島健康生活協同組合事件
争点
事案概要  市民の共同出資によって創設され、病院、診療所などを営み、民主的医療活動に取り組んでいる生活協同組合Xが、Xに医師として採用され、Xの研修規程に基づきA病院での研修を受けていたYに対し、〔1〕主位的に、契約に基づき、Yの研修期間中に支給した補給金の返還を求め、〔2〕予備的に、Yの労働契約の債務不履行により補給金相当額の損害を被ったとして損害賠償を求めたケースの控訴審(Yが控訴)で、原審では、〔1〕について、研修期間中にYが受領した「賃金」は実質的に労働契約の対価であり、補給金の返還は「違約金」に該当すると考えられ、また、補給金はA病院で勤務するという業務遂行に必要な費用であり、Xが負担すべき費用であるから、研修規程11条(全体)が労働基準法16条に反するものとして無効である等として、Xの請求が棄却され、〔2〕について、研修後Yが勤務した5ヵ月半の期間では、到底それまでにXがYのXへの勤務を見越して支出した多額の金員に見合うだけの対価をYが払ったとはいえないから、Yの退職を労働契約の債務不履行と評価できるして、Xの請求が認容されたが、控訴審では、研修規程が就業規則と同様の性格を有し、労働契約の内容になっていたとした上で、研修規程11条は、研修受講者が、研修終了後Xにおいて勤務することを義務とする内容を定める範囲では有効であるが、勤務しない場合の賠償額を予定している部分は、労働基準法16条に該当して無効であるとして、〔1〕について、Xの請求が棄却され、〔2〕について、研修規程11条が勤務期間について何ら定めていないこと、XとYとの労働契約が期間の定めのないものであること、および、Yが約5ヵ月半Xに勤務したことから、「勤務しない場合」に該当しないとして、労働契約の債務不履行を認めず、Yの敗訴部分が取り消され、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法16条
体系項目 労働契約(民事) / 賠償予定
裁判年月日 2003年3月14日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 平成14年 (ネ) 430 
裁判結果 原判決取消、認容(確定)
出典 労働判例849号90頁
審級関係 一審/08059/徳島地/平14. 8.21/平成13年(ワ)454号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-賠償予定〕
 研修規程11条は「万一、研修終了後健康生協に勤務しない場合は、研修期間中健康生協より補給された一切の金品を、3か月以内に本人の責任で一括返済しなければならない。」と規定する。
 同条項は、研修を受ける者が研修終了後被控訴人において勤務することを、研修受講者に対する義務とするという内容を定める範囲では有効であるが、勤務しない場合の賠償額を予定している部分(研修期間中被控訴人より支給された一切の金品を返還するという部分)は、労働基準法16条(賠償予定の禁止)に該当し、無効である。〔中略〕
 一方、控訴人と被控訴人との間の労働契約が期間の定めのないものであることは、当事者間に争いのない事実であるところ、労働契約の契約期間の定めがない場合には、労働者はいつでも使用者に対して解約を申し入れることができることとなる。また、そもそも、労働契約の期間は、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、1年(労働基準法14条各号のいずれかに該当する労働契約の場合は3年)を超える期間について締結してはならないのであって(労働基準法14条)、本件が、期間の定めのない労働契約であること、及び、控訴人は約5か月半の間、被控訴人において勤務したことからすれば、控訴人は、研修規程11条にいう「研修終了後健康生協に勤務しない場合」に該当しないことは明らかである。
 (3) 被控訴人は、少なくとも2年以上は勤務しなければ勤務したことにはならないと主張する。しかしながら、研修規程には、11条の「勤務しない場合」の意味についての記載はないし、研修終了後の勤務期間につき明示の定めもないし、上記のとおり、控訴人と被控訴人との労働契約は、期間の定めのないものとして締結されていたのである。労働条件は明示されていなければならない(労働基準法15条)ので、明示のない以上、被控訴人の主張する、少なくとも2年以上の勤務期間を、控訴人と被控訴人との間の労働契約の内容とすることはできない。被控訴人の主張する勤務期間は、被控訴人自身の希望にすぎないといわざるを得ない。
 被控訴人の主張は理由がない。