全 情 報

ID番号 08167
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 金融経済新聞社(賃金減額)事件
争点
事案概要 新聞および雑誌の発行を主たる業務とする株式会社Yに雇用されており、組合の委員長、書記次長を務めているX1とX2が、組合員Aの配転問題に関し職場会(本件会合)を開いたことに対する懲戒処分(第一次処分)、それに伴う始末書提出命令違反に対する第二次処分により、X1は降職、役職手当が減額、削減されるとともに、X2は役職手当が減額されるとともに、減額査定により賃金減額されたことにつき、Yに対し、〔1〕違法な降職処分により役職手当が削られた、〔2〕違法な査定により月ごとの賃金および賞与が減額されたとして、差額賃金の支払または不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めたケースで、〔1〕について、就業規則で職務上無関係な集会の開催を禁止することは合理的で是認でき、組合活動による企業施設利用といえども使用者は当然受忍すべきであるとはいえず、本来的には使用者との合意に基づき行われるべきであるとした上で、本件会合は「職務上関係のない集会」にあたり、その開催は、懲戒事由にあたるとしながら、企業秩序維持義務違反の程度は極めて軽微であったとして、懲戒に付することは相当性がなく、懲戒権の濫用であり無効(第一次処分が無効である以上、第二次処分も無効)であるとして、X1には、降職処分が無効である以上、役付手当請求権があるとし、〔2〕について、人事評価および評価に基づく給与額の算定が行われたとは認められないとした上で、査定を行うことなく給与額の減額を行うことは労働契約違反であり、X1らに対する減給額の算定は、違法である(仮に査定があったとしても、減給額の決定方法に就業規則違反があり、違法)として、また、就業規則の定めからは、X1らとYとの労働契約は、合理的な査定により減給がされない場合には前年の賃金を支給するとしたものと解すべきであり、少なくとも前年度冬季賞与に会社の業績悪化による減額をした賞与額の賞与請求権があるとして、X1らの請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法34条3項
労働基準法89条9号
労働基準法2章
労働基準法3章
労働基準法89条2号
体系項目 休憩(民事) / 休憩の自由利用 / 自由利用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 2003年5月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 21845 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例858号117頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休憩-休憩の自由利用-自由利用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 使用者は、休憩時間を自由に利用させなければならない(労働基準法34条3項。休憩時間自由利用の原則)。他方、使用者には、企業施設に対する管理権があるから、労働者は、休憩時間中といえども、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規制に服するというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和52年12月13日判決、民集31巻7号974頁参照)。
 前記(1)イのとおり、本件会合は、休憩時間を利用し行われたものであるが、組合員が他の組合員に呼びかけて組合員の配転問題についての報告のため開催したものであり、組合活動としての集会を被告の許可なく事業所内で開催したものであると認められる。
 就業規則90条20号は、被告の許可なく職務上関係のない集会等を行ってはならない旨定めたものであるところ、使用者の事業所に対する管理権の行使として、職務上無関係な集会の開催を禁止することは、合理的であり是認できるものである。そして、組合活動による企業施設の利用といえども、使用者はこれを当然受忍すべきであるとはいえず、本来的には使用者との合意に基づいて行われるべきである。したがって、組合活動としての集会は、当該職員の職務上の行為とはいえず、「職務上関係のない集会」に該当するというべきである。この点、原告らは、「本件会合は従業員の配転問題についての集会であるから、職務上関係がある集会であった。」旨主張するが、職務関連性の有無は、各従業員の職務を基準に判断すべきであり、組合活動は当該従業員の職務上の行為ないし職務に関連する行為とはいえないから、採用できない。
 ウ このように、原告X1らが本件会合を開催したことは、懲戒事由に当たるというべきであるが、これを懲戒に付するのは相当性がないというべきである。
 すなわち、(1)イ、ウによれば、本件会合の際、Bが執務中であったことは認められるが、他方、就業規則上休憩時間とされた時間帯であり、B以外に執務していた従業員も、同じ部屋にいた従業員もいなかったこと、説明者が通常の話し声よりやや大きな声で交代で説明を行い、シュプレヒコールはなく、時間も10ないし20分間で短かったことからすれば、業務上の支障を生じたということも、業務上の支障が生じ得る可能性があったともいえないからである。また、Bから参加者に対し2、3回制止したのに、原告ら及び参加者がこれを聞き入れず本件会合を続けたことは認められるが、その際、Bが就業規則違反とは告げていなかったこと(証人Bは、これを告げた旨供述するが、〈証拠略〉にはその旨の記載がないことから、これを否定する原告ら本人の供述と対比して採用できない。)、原告ら及び参加者が、当時、本件会合は「職務上関係ない集会」に該当するとは考えていなかったこと((1)カ及び弁論の全趣旨)、本件会合自体が短時間で散会となったことから、上司の命令に服しない行為ではあるが、その企業秩序維持義務違反の程度は極めて軽微であったと認められるからである。
 したがって、本件会合について、懲戒に付するのは、相当性がなく、懲戒権の濫用というべきであるから、第1次処分は無効である。
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 被告が主張する人事評価に基づく給与額の算定が行われたとは認めがたい以上、原告らに対する減給額の算定は、原告らに対する評価如何にかかわらず、違法であるというべきである。すなわち、被告の就業規則には、「職務遂行能力及び勤務成績、勤務態度等を勘案して、・・・『勤続職能給表』により、・・・勤続職能給の定期昇(減)給を行う。」(給与規程10条)、「業績給は毎年4月、前年度における本人の職務遂行能力、勤務成績、勤務態度及び会社への貢献度を査定考課し、昇給又は減給を行う。」(同14条)、「役付手当は、・・・当該管理・監督者としての適否及び職務遂行能力を当該年度の4月に査定考課し、昇給又は減給する。」(同17条)、「賞与は、会社の毎決算期の業績に応じて、本人の職務遂行能力及び勤務成績等を考慮した賞与支給のための査定考課に基づき、毎期夏期及び冬期に支給する。」(同57条)と定められているのであるから、原告らと被告との労働契約においては、勤続職能給、業績給、役付手当及び賞与の減額は合理的な査定を行うことによって初めて可能であり、査定を行うことなく給与額の減額を行うことは労働契約違反というべきだからである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 被告は、年齢給や生活補助給を含めた月例基準内給与全体に査定によって得られた評価割合(減額割合)を乗じ、業績給及び勤続職能給を合計した減給額を決定し、その後、減給額を業績給及び勤続職能給に割り振る方法で減給を行っている。そうすると、就業規則上、査定による減額を予定しない年齢給や生活補助給(給与規程5条、8条、10条ほか)に評価割合を乗じて減給額を決定することとなり、実質的にはこれらについても査定による減給を行う結果となる。このような減給額の決定方法は、被告の就業規則が予定しているとはいいがたいものである。のみならず、被告は、勤続職能給及び業績給において、同じ4つの査定項目で考課し、その結果得られた減給額を、業績給と勤続職能給に割り振るとし、その割り振り方については、明確な基準はないとする(証人C。なお、乙68は、同人に対する証人尋問後供述の訂正等をするため作成された陳述書であるが、このような陳述書はその作成経過に照らし一般的に信用性が低いというべきである上、同書面によれば、業績給と勤続職能給に対する減給額の割り振りは、「勤続年数が増すごとに一般的に通常付加する職能の上昇に対して支給される勤続職能給とは違い、たゆまぬ自己研鑽と努力により『いかに会社の発展に寄与したか』を査定考課し、支給される」との就業規則(給与規程12条)の基準に、当人の査定結果を当てはめて行うというのであって、結局のところ、明確な基準はないことについては変わらない。)。
 このような減給額の決定方法は、業績給と勤続職能給とで異なる評価項目を予定する被告の就業規則に反し、違法であるというべきである。