全 情 報

ID番号 08224
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 PwCフィナンシャル・アドバイザー・サービス事件
争点
事案概要 コーポレート・ファイナンス、投資銀行サービスに関するコンサルティング、事業再興・再構築に関するコンサルティングを業とする株式会社Yでマネージャーの地位にあったXが所属部門閉鎖に伴い解雇されたことに対して、整理解雇の要件、能力不足を理由とした解雇の要件を欠き無効であるとして、Yに対し、〔1〕労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〔2〕過去および将来の賃金の支払を求めたケースで、X所属の部門を閉鎖し、業績向上を図ることには経営上の合理性があり、X所属部門の人員整理の必要性は認められるが、閉鎖部門へXを配置したことはYの経営判断であったこと、本件解雇に近接して新規採用を行っており、Y全体の経営が逼迫していたとは認めがたいことから、信義則上、高度の解雇回避努力義務が求められ、被解雇者選定の妥当性についても十分に吟味する必要があるとした上で、Xは客観的にマネージャーとしての能力が不足していたとは認められず、他部門への配転が不可能であったとすることはできないこと、Yの退職勧奨および割増退職金の提案は、他の解雇回避措置を取ることが困難な場合において、初めて、整理解雇を正当化する要素となる余地があることから、解雇回避努力義務および被解雇者選定の合理性のいずれの点においても、十分な努力および合理性があるとは認められず、また、能力不足を規定した就業規則の解雇事由に該当しないとして、客観的で合理的理由を欠き、解雇権の濫用として無効であるとして、Xの請求が、〔1〕につき認容、〔2〕につき、一部認容された(本判決確定日以降に履行期が到来する賃金の支払を請求する部分については訴えの利益を欠くとして棄却)事例。
参照法条 労働基準法18条の2
労働基準法89条3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2003年9月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成14年 (ワ) 21252 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例863号19頁
審級関係
評釈論文 小畑史子・労働基準56巻6号29~33頁2004年6月
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 被告の経常利益は、平成13年7月以降減少し、期末の平成14年6月では、1億6000万円の損失を計上することとなったが、その原因は、IB部門の業績不良にあり、それは、IB部門が、CVC部門と分離した後、人員を増やし30名以上の人員を抱えていたことにあると認められる。したがって、被告が、広範な業務を取り扱うIB部門を閉鎖し、4部門に特化したM&AA部門を開設して、業績の向上を図ろうとしたことには、経営上の合理性が認められ、IB部門に所属していた者について、人員整理の必要性が認められると解するのが相当である。
 ただし、〔1〕IB部門の業績不良は、未実現利益の存在が大きく影響しているところ(前記(1)イ)、当該未実現利益は、未だ収益の項目に計上されており、そのすべてが実現不可能であるとは解されないこと、〔2〕CF&IB部門がCVC部門及びIB部門に分割された後、IB部門所属の社員数が増大しているが(前記(1)ウ)、それは被告の経営判断によるものであること、〔3〕被告は、本件解雇に近接して7名を新規採用しており(前記(1)エ)、被告全体の経営が逼迫していたとは認め難いことからすると、被告に対しては、信義則上、高度の解雇回避努力義務が求められ、被告解雇者選定の妥当性等についても、十分に吟味する必要があるというべきである。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件解雇については、人員整理の必要性は認められるものの、解雇回避努力義務及び被解雇者選定の合理性のいずれの点においても、十分な努力及び合理性があるとは認められないというべきである。したがって、本件解雇は、解雇手続の相当性について判断するまでもなく、就業規則15条c)に該当する事由があるとすることはできず、解雇権を濫用したものとして、無効である。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 原告がマネージャーとしての能力をおよそ発揮できなかったといえないことは、前記2(1)のとおりであり、客観的に見て、就業規則15条b)(就業態度若しくは能率が著しく不適当であると認められた場合)、d)(その他前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき)のいずれにも該当しないというべきである。したがって、この点においても、本件解雇は、客観的で合理的な理由を欠き、解雇権の濫用として、無効である。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 原告と被告の雇用契約書(〈証拠略〉)には、「当社は日本においては比較的新しい分野において事業を開始したばかりである。この分野とは、世界の資本の流れ、様々な日本の資産の取引、世界経済の状況によって、成功が左右される分野である。従って、社員の雇用の確保はこれらの要因によるものである」との記載がある。
 しかし、このようなコンサルティング業界に身を置く者であるとしても、賃金により生計を立てている以上、キャリアアップに適した転職の機会が訪れるまでの間、会社に在職することについて合理的期待を抱いているというべきであり、その者を解雇するに当たって、客観的で合理的な理由が必要であることは、他の業界の場合と異ならないというべきである。そして、前記のような被告の雇用形態及び原告の年収額を考慮したとしても、本件において認定することができる事実をもって、本件解雇に客観的で合理的理由があるということができないのは、前記(2)のとおりである。