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ID番号 : 08461
事件名 : 雇用関係不存在確認本訴事件、地位確認等反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 : 大成学園(大成高校)事件
争点 : 本訴である雇用関係不存在確認の訴えの利益と雇用契約上の地位確認等反訴が争われた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 教員Yを解雇したX学園(A高校を設置する学校法人)が、Yとの雇用関係が存在しないことの確認を求め(本訴)、これに対しYが雇用契約上の地位確認と解雇後の未払賃金の支払い等を求めた(反訴)事案である。
 A高校が生徒指導緩和の方針を進める中、バスケットボール部顧問を務めるYには、平成14年ころに部員複数に対して体罰を加えたことがあったが、これが平成15年5月になって表面化し、C校長は保護者等から事情聴取する一方、職員会議で体罰禁止の訓示を行うことで沈静化するかにみえた。ところが、6月になるとC校長はYに対し数次の事情聴取を行い、Yが体罰を否認すると、Xは信頼関係の崩壊を理由にYを解雇した。
 第一審東京地裁八王子支部は、本訴は反訴の反対形相としての消極的確認の訴えであり確認の利益を欠くとし、また、体罰等を理由とする解雇は処分として均衡を欠くとして解雇権の濫用により無効としたうえで、解雇期間中の未払賃金額について職務手当等を精勤とみなして支払いを命じた。Xが控訴。第二審東京高裁も一審判決を維持した。
参照法条 : 民法627条
労働基準法18条の2
学校教育法11条
体系項目 : 賃金(民事)/賃金請求権の発生/無効な解雇と賃金請求権
解雇(民事)/解雇の自由/解雇の自由
解雇(民事)/解雇事由/暴力・暴行・暴言
解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用
裁判年月日 : 2006年1月26日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)4851
裁判結果 : 棄却(上告)
出典 : 労働判例912号32頁
審級関係 : 一審/東京地八王子支/平17. 9.21/平成15年(ワ)2254号
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
〔解雇-解雇の自由-解雇の自由〕
〔解雇-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕
〔解雇-解雇事由-暴力・暴行・暴言〕
 1 当裁判所も、控訴人の本訴請求は確認の利益がないので却下すべきであり、被控訴人の反訴請求は原審が認容した限度で理由があるものと判断する。〔中略〕
 「控訴人は、被控訴人がA校長らの説得にもかかわらず体罰を否認し続けたのは悪質であって、本件解雇の有効性を判断する上では、この点も重要である旨主張し、被控訴人が控訴人の事情聴取において、一貫して体罰の事実を否認していたことは前記認定のとおりである。
 しかしながら、生徒に体罰を加えたことを理由とする本件解雇が被控訴人に対する処分として均衡を欠いており、普通解雇であるとしても苛酷に過ぎるものであることは、前記説示のとおりである。結局のところ、控訴人の上記主張は、本件解雇は、体罰のみを理由とすれば合理性に欠けるとしても、事実調査の過程における被控訴人の態度(否認の態度)を考慮すれば正当な理由があるということに帰するが、妥当とは思われない。すなわち、控訴人は平成15年3月に発表した新年度の校内人事で主要人事を一新したことから、同月24日、教員の一部によって組合が結成され、被控訴人は副委員長に就任し、組合と控訴人との交渉が続けられていたこと、4月にはAが校長として着任し、5月に体罰絶対禁止の訓示(本件訓示)をし、(過去は問えないが)今後は処分もあり得る等の発言をしていたことなどは前記認定のとおりであって、このような状況の下において、被控訴人が6月17日ないし20日に行われた事情聴取及びその後の事情聴取において、A校長らの調査に警戒心を抱き、体罰の事実を否認したことには、無理からぬ面があったというべきである。控訴人は、被控訴人はA校長らの説得にもかかわらず体罰を否認し続けたとして非難し、H副校長が7月14日の事情聴取の際、被控訴人に対し、事実を認めれば処分が軽くなる趣旨の発言をしたことは前記認定のとおりである(当審付加部分(3))。しかし、前記認定のとおり(当審付加部分(2))、控訴人は7月2日の理事会において、被控訴人には処分の可能性が十分にある旨の確認をしているところ、処分事由の調査において、事実を認めれば処分が軽くなるなどと述べて供述を求める方法は妥当でないのみならず、Aの原審証言によれば、H副校長の上記発言は同副校長の個人的な意見にすぎないというのであるから、この点からも相当な説得方法ということはできない。上記のとおり、控訴人は被控訴人の処分の可能性を検討していたのであるから、本件においては、賞罰委員会が組織されるべきであった。
 以上のとおりであって、被控訴人が事実聴取において体罰の事実を否認していた点を考慮しても、本件解雇には、これを正当とするほどの合理的な理由があるということはできない。」