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ID番号 : 08525
事件名 : 福祉年金請求控訴事件
いわゆる事件名 : 松下電器産業グループ(年金減額)事件
争点 : 電気機器会社の退職者が、福祉年金の給付減額を違法無効として差額の支払を求めた事案(原告敗訴)
事案概要 : 電気機器製造会社及びそのグループ会社の退職者が、会社の運用する福祉年金制度において、業績低迷の対応策として給付利率を下げて支給したことは年金契約に違反し違法無効であるとして差額の支払を求めた事案である。
 第一審の大阪地裁は、請求を棄却したため、原告らは控訴した。
 控訴審の大阪高裁は、退職者の在職中に年金制度の説明を聞く機会があったこと、説明において経済情勢や社会保障制度に大きな変動があったときは規定にも大きな改定がありうることが説明されていたこと、改定後の減率は一般金融市場より高く相当範囲内であること、また改定手続にも瑕疵は認められないことから、改定は年金受給者の生活を図るという目的を害する程度のものではなかったとして、控訴を棄却した。
参照法条 : 民法703条
民法656条
体系項目 : 賃金(民事)/退職金/退職年金
賃金(民事)/賃金・退職年金と争訟/賃金・退職年金と争訟
裁判年月日 : 2006年11月28日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)3134
裁判結果 : 棄却(上告(後上告不受理))
出典 : 時報1973号62頁/タイムズ1267号224頁/労働判例930号26頁
審級関係 : 一審/08437/大阪地/平17. 9.26/平成15年(ワ)4986号
評釈論文 : 根本到・労働法律旬報1650号6~12頁2007年6月25日森信雄・労働法律旬報1650号13~16頁2007年6月25日川角由和・労働法律旬報1650号17~28頁2007年6月25日畑中祥子・労働法学研究会報58巻6号18~23頁2007年3月15日
判決理由 : 〔賃金-退職金-退職年金〕
〔賃金-賃金・退職年金と争訟-賃金・退職年金と争訟〕
 (4) 以上のとおり、本件改廃規定が規定する経済情勢、社会保障制度に大幅な変動が存することが認められる。もっとも、上記のとおり、被控訴人は、本件改廃規定が規定する要件が認められれば、自由に本件規程を改定できる訳ではなく、本件利率改定内容の必要性、相当性を必要とすることは、事柄の性質上明らかである。また、本件利率改定に当たり、本件制度は退職労働者の福祉政策の一環として労働組合との協議のうえ発足したものであるから労働組合に対し理解を求めることが必要であるし、また、本件年金受給者は退職して労働組合員ではないから、不利益を受ける本件年金受給者に対しても、本件利率改定に対し理解を求める努力をする等手続の相当性が必要である。
 以下、この利率改定内容の必要性、相当性、本件利率改定手続の相当性につき順次検討することとする。
 2 本件利率改定の内容の必要性、相当性について
 上記1で認定したところによれば、被控訴人は、業績低迷の対応策として、被控訴人従業員に「キャッシュバランスプラン」を導入し、当面年三・五%の給付利率での支給が開始されており、本件基本年金の既受給者の受給額と現役従業員が退職後に受給しうる年金額との間に大きい格差が生じていること、従業員や取引先にコストダウン施策の協力を要請し、株主に対する配当減少も余儀なくされている一方、本件制度にかかる負担額が増大し、いわば、これら現在の従業員、被控訴人の取引先や株主の犠牲のもと、本件給付利率が高率を維持しているといっても過言でないこと、また、利率引下げ、解散をする厚生年金基金が急増していること、さらに、金融市場における利率、特に、平成一四年当時の長期プライムレートと比較すると本件制度の給付利率と大きくかけ離れていること、そもそも、本件制度は、未だ公的な社会保障制度の整備が不十分であった時代に、従業員の退職後の生活の安定を図り、退職金の運用先を提供する趣旨も含め、市場金利よりも若干有利な給付利率による年金を長期間に渡って継続的に支給し続けるということを目的とするものであり、現に、昭和四一年に本件制度が発足した際の給付利率一〇%は、当時の長期プライムレート年八・四%よりも若干高めの利率であったこと等を総合すれば、本件制度による給付利率を一律二%程度引下げる必要性があったこと、そして、引き下げ後の利率は、本件制度への加入時期に応じて、年五・五%ないし八%であり、一般金融市場における利率に比べ、なお相当程度高い利率であること等も考えれば、控訴人らの利益を著しく損なうものではなく、本件利率改定は相当な範囲のものであったと認めることができる。(したがって、将来、市中金利が本件給付利率と同程度かこれより高くなった場合は、本件給付利率も高く改訂されることが予想される。)。
 3 本件利率改定の手続の相当性について〔中略〕
 (3) 上記認定のとおり、被控訴人は、本件利率改定をするにあたり、本件規程の復刻版を作成するなどしてこれを既受給者に送付したうえ、松愛会定期支部総会後の会社説明会や事業場別説明会で既受給者に対し本件利率改定をするに至った経緯を説明して理解を求め、これにより、被控訴人は、既受給者の九四・六%の同意を得たものであり、本件利率改定の手続の相当性も認めることができる。