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ID番号 : 08526
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 東京自転車健康保険組合事件
争点 : 健康保険事業を代行する公法人による整理解雇につき、無効と違法を争った事案(労働者勝訴)
事案概要 : 国の健康保険事業全般を代行する公法人が健康相談室を廃止することに伴い、他の職務に転換させることが困難なためという理由で解雇された職員が、まず整理解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金・賞与の支払を求め、さらに整理解雇は違法であり、これにより精神的損害を被ったとして不法行為に基づく慰謝料の支払を求めた事案である。
 東京地裁は、整理解雇の有効性について、本件では人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、いずれの要素についても立証がされていないとして、無効であると判断した。
 次いで、〔1〕本件整理解雇は、公法人が退職金規程の改定、健康相談室廃止などの施策を実施しようとしたところ、これに反対する原告が外部機関に相談すること等を快く思わず、整理解雇の要件がないにもかかわらず強行したこと、〔2〕原告は本件整理解雇時妊娠しており、公法人はその事実を知っていたこと、〔3〕原告は本件整理解雇を撤回し、原職に復帰させるよう要求したが拒否されたことに照らすと、賃金の支払では償えない精神的苦痛が生じたと認めるのが相当として慰謝料の支払を命じた。
参照法条 : 労働基準法18条の2
民法709条
体系項目 : 解雇(民事)/解雇事由/企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の必要性
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
裁判年月日 : 2006年11月29日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)449
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 時報1967号154頁/タイムズ1249号87頁/労働判例935号35頁
審級関係 :  
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
 (1) 判断の枠組み
 整理解雇が有効か否かを判断するに当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性の四要素を考慮するのが相当である。被告である使用者は、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性の三要素についてその存在を主張立証する責任があり、これらの三要素を総合して整理解雇が正当であるとの結論に到達した場合には、次に、原告である従業員が、手続の不相当性等使用者の信義に反する対応等について主張立証する責任があることになり、これが立証できた場合には先に判断した整理解雇に正当性があるとの判断が覆ることになると解するのが相当である(同旨、東京高判昭和五四・一〇・二九判時九四八号一一一頁・東洋酸素事件、東京地判平成一五・八・二七判タ一一三九号一二一頁・ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件、東京地決平成一八・一・一三判時一九三五号一六八頁コマキ事件)。以下、このような観点から、本件整理解雇の有効性の有無について検討することにする。〔中略〕
 (5) 小括
 前記(2)ないし(4)で検討したとおり、本件整理解雇には、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性について、いずれの要素についても立証がされていないというべきであり、本件整理解雇は有効ということはできない。したがって、この点の被告の主張(抗弁)は、その余の点を判断するまでもなく理由がないということになる。〔中略〕
 イ 一般に、解雇された従業員が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実が認められるときにはじめて慰謝料請求が認められると解するのが相当である(同旨 東京地判平成一五・七・七労判八六二号七八頁・カテリーナビルディング事件)。
 ウ これを本件についてみるに、前記一(6)ウ、前記三、《証拠略》によれば、〔1〕本件整理解雇は、被告において、退職金規程の改定、健康相談室廃止などの施策を実施しようとしたところ、これに反対する原告が外部機関に相談すること等を快く思わず、整理解雇の要件がないにもかかわらず、本件整理解雇を強行したこと、〔2〕原告は本件整理解雇時妊娠しており、被告は当該事実を知っていたこと、〔3〕原告は被告に対し本件整理解雇を撤回し、原職に復帰させるよう要求したが拒否されたことが認められる。
 エ 以上によれば、原告は、本件整理解雇により、解雇期間中の賃金が支払われることでは償えない精神的苦痛が生じたと認めるのが相当であり、本件整理解雇の態様、原告の状況等本件証拠等から認められる本件整理解雇の諸事情に照らすと、その慰謝料額は一〇〇万円が相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。よって、原告の慰謝料請求は一〇〇万円の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することにする。