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ID番号 : 08531
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 国(在日米軍司令部・解雇)事件
争点 : 在日米軍勤務者が受けた休業処分・解雇に対し、地位確認と給与支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 日米地位協定に基づき国に採用されて在日米軍に勤務し、報道編集などに従事していた労働者が、休業処分とされた後、解雇されたことに対し、休業処分及び解雇が無効であると主張して労働契約上の地位の確認と未払給与の支払を求めた事案である。
 第一審の東京地裁は、休業処分も解雇も有効であったとして請求を棄却した。これに対し、労働者は控訴した。
 控訴審の東京高裁は、、被控訴人(国)の主張する不適格解雇事由の一部を肯定しつつ、基本労務契約(MLC)において、「その者の能力に相応する職務が得られるか否かを確認する」措置(相応職務確認措置)を経るべきことが定められているのに、本件ではそのような措置を経たとはいえず、休業処分も解雇も裁量権の範囲を超えていて無効であるとして、地位を確認し、未払給与の支払を命じた。
参照法条 : 日米安保条約第6条に基づく施設・区域・日本国内米軍の地位協定12条4項
労働基準法2章
労働基準法18条の2
体系項目 : 解雇(民事)/解雇事由/職務能力・技量
解雇(民事)/解雇手続/同意・協議条項
裁判年月日 : 2006年12月21日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)3848
裁判結果 : 一部認容、一部棄却、一部却下(確定)
出典 : タイムズ1242号201頁/労働判例936号39頁
審級関係 : 一審/東京地/平18. 6.30/平成15年(ワ)28099号
評釈論文 : 藤原淳美・志学館法学9号175~185頁2008年3月野崎薫子・ジュリスト1350号105~109頁2008年2月15日
判決理由 : 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 3 不適格解雇の手続要件充足の有無(争点(1)イ)について
 (1) MLC第10章4項(不適格解雇の手続)のa(予備措置)、b(解雇予定通知)によれば、HAPを実行した後、なおその者が十分に職務を遂行できない場合には、米国政府側(在日米軍司令部)は、「その者の能力に相応する職務が得られるか否かを確認するものと」し、「その能力に相応した職務が得られない場合又はその者が能力に相応した職務につくことに同意しない場合」に、その事情に関する報告書を契約担当官代理者に提出し、契約担当官代理者において事案を調査して解雇手続を開始するか否かの判断をすることとされている。〔中略〕
 ところで、MLCの定める予備措置は、解雇が従業員に与える影響の大きいことを配慮し、当該職務については不適格者であっても、他の職務についてまで不適格者とはいえないことから、米国政府側(在日米軍司令部)において、その者に適する職務を提供できるか否かを確認し、これを提供できる場合で、当該従業員がその職務への配置転換に同意するのであれば、在日米軍司令部でその配置転換を実行することで、解雇を回避しようとした手続ということができる。そうすると、米国政府側ですべき相応職務確認措置は、当該従業員が同意すれば配置転換を実行できるような職務を同従業員に提供できるか否かを確認すること、これを提供できる場合にはその情報を同従業員に提供することを意味するものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、前記1で認定したとおり、東京防衛施設局総務部労務対策官が控訴人に提供した情報は、インターネットで確認できるような一般的な求人情報にすぎず、在日米軍が控訴人の配置転換先として受入れを検討した職位の情報ではない(この程度の情報であれば、控訴人自ら収集し、その情報に基づき応募すれば足りるのであって、被控訴人ないし在日米軍の果たした役割は、ほとんどない。)。しかも、そこで提供された求人情報の多くは、募集締切日が経過したものや差し迫っていて応募が間に合わないものであったり、従前の控訴人の等級より高いものであるなど、控訴人が応募することが困難な職務についての情報であって、実際の配置転換先の候補になり得るものは、わずかなものにすぎなかったものである。以上の事実に照らすと、在日米軍司令部や被控訴人において、控訴人が同意すれば配置転換を実行できるような職務を控訴人に提供できるか否かを確認する措置をとったとは到底認められないのであって、被控訴人ないし在日米軍司令部が控訴人について相応職務確認措置をとったとはいえない。
 なお、控訴人は、被控訴人側に対し、横須賀や座間を希望せず、横浜ノースドック、次いで横田基地を希望すること、5等級よりも下の職位は希望しないことなどを述べていたものであるが、これはあくまでも希望の配置転換先を述べたのにとどまるというべきであるから、上記条件に反した職務の提供を受ける機会を放棄したとはいえないし、また、上記条件に合った配置転換先の有無の確認についても、十分に尽くされたとは認められない。
 (4) 以上のとおりであるから、本件解雇は、予備措置である相応職務確認措置を経たとは認められないところ、解雇を避けるための同措置の重要性にかんがみれば、同措置を経ていない本件解雇は、その余の点を判断するまでもなく、無効というべきである。
 4 休業処分の有効性(争点(2))について〔中略〕
 (2) これを本件についてみるに、前記1で認定したとおり、控訴人に対する休業処分は、平成14年6月25日付け「休業手当の通知」(乙14、47)によってされたものであるところ、同通知には、措置の理由として、控訴人がHAPを拒否し続けた結果によるものであること、適した職位を努力して見つけるための(援助計画への)参加を拒否しているためであること、そのため広報部における使命と生産性に思わしくない影響を与えることが記されている。
 なるほど、控訴人は、HAPの文書の受取りを拒否し、その理由を書いた書面(乙21)を在日米軍に宛てて出し、HAPを課されることへの不満を表現し、平成13年7月11日に、S(広報部長)、Q(メディア連絡事務所長)、J(374業務支援中隊民間人人事部労務課職員)とHAPに関する会合を持った際も、自己の主張を強くするあまり対立を深めており、真摯にHAPの実行に努力する姿勢はなかったという余地がないではない。しかしながら、控訴人は、HAPにのっとり、英語強化のための授業を修了しており、また、HAPの期間が経過した後に在日米軍側によりされた控訴人のHAPに関するマネージメントの観察/評価からすると、HAPで控訴人に課された各項目について、控訴人がこれを完全に拒否したとまではいえないというべきである。
 さらに、上記「休業手当の通知」には、控訴人が適した職位を努力して見つけるための(援助計画への)参加を拒否している旨記載されているが、前記3で検討したとおり、控訴人の適した職位の有無をまず確認すべきなのは在日米軍側であるが、在日米軍側においてそのような努力をした形跡がないのであって、控訴人に適した職位を努力して見つけるための参加を期待すべき状況になかったというべきである。
 以上の事情を総合すると、控訴人に対する休業処分は、事実の基礎を欠いており、また、社会通念上も著しく妥当性を欠くものというべきであるから、裁量権の範囲を超えていて無効と認めるのが相当である。
 5 以上のとおり、本件解雇及びその前提となる休業処分は、いずれも無効ということができる。そこで、控訴人が被控訴人に対し請求できる給与の額について検討する。〔中略〕
 6 結論
 (1) 以上によれば、控訴人の被控訴人に対する訴えについて、
 ア 控訴人が被控訴人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は理由があるからこれを認容すべきであり、
 イ 本判決確定の日までの給与に係る請求のうち、〔1〕 平成14年7月分から平成15年10月分までの未払給与額のうち223万3508円、平成15年12月の年末手当69万8208円及び平成16年6月の夏期手当65万6588円の合計358万8304円、〔2〕 平成15年11月分及び12月分の給与計76万3804円(上記〔1〕と〔2〕の総合計は、435万2108円)、〔3〕 平成16年2月から本判決確定の日の属する月の翌月まで毎月10日限り35万8774円の割合による給与の支払を求める部分は理由があるからこれを認容すべきであり、その余の部分は理由がないから棄却すべきであり、
 ウ 本判決確定の日の翌日以降の給与の支払請求に係る部分は、これを却下すべきである。
 (2) よって、これと異なる原判決を上記(1)のとおり変更することとし、主文のとおり判決する。