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ID番号 : 08537
事件名 : 地位確認等請求控訴、附帯控訴事件
いわゆる事件名 : 空知土地改良区事件
争点 : 酒席での暴言を理由に降職処分を受けた土地改良区元事務部門長が地位の確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 土地改良区の費用で設けられた酒席での、監事・理事らへの暴言を理由に降職処分を受けた元事務部門長が、違法な降職処分により4階級降格させられたとして、地位の確認、減額分給与分の支払等を求めた事案である。
 第一審の札幌地裁滝川支部は、不適切な言動の存在を認定したものの、勤務時間中に行われたものではなく、職務執行との関連性が希薄な場面において行われたものなどとして、処分は裁量権を逸脱したもので違法無効であると判断し、訴えをおおむね認容した。これに対し土地改良区は控訴した。
 札幌高裁は、第一審と同様に、懇親会等における監事・理事に対する不適切な言動の存在を認定した上、Xの言動が極めて不穏当であり、事務部門の長として部下職員を指導監督し、上部団体等との折衝をする職務を担う総務部長として必要な適格性を欠き、職場秩序を乱すものと判断して、処分を適正妥当なものとし、土地改良区の控訴を認容した。
参照法条 : 民法1条3項
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/暴力・暴行・暴言
裁判年月日 : 2007年1月19日
裁判所名 : 札幌高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)137
裁判結果 : 破棄自判(上告受理申立)
出典 : タイムズ1246号162頁/労働判例937号156頁
審級関係 : 一審/札幌地滝川支/平18. 3.29/平成17年(ワ)10号
評釈論文 :
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 2 本件降職処分について
 (1) 被控訴人は、前認定のとおり、平成16年7月23日の慰労会の2次会において、春野監事に対し、監査の指摘により改良区も改良区職員の立場もがちゃがちゃにされてしまった、今までのような発言をしていたら、後ろから石をぶつけられるぞ、お前の後継者の立場や家庭の将来もないようにするぞ、お前は世間ではどうにもならない人だと言われておるから、死んでも葬式に出る職員は一人もいないなどと発言し、また、同年8月19日の北空知管内土地改良区運営協議会における懇親会終了後、夏川理事に対し、理事会において職員の給与に関して不利益な発言をしているとして、お前は理事を辞めろ、お前は次期改選時には出てくるなと発言した。被控訴人の春野監事及び夏川理事に対するこれらの発言は、極めて不穏当であり、事務部門の長として部下職員を指導監督し、上部団体又は関係団体との折衝をする職務を担う総務部長として必要な適格性を欠き、職場秩序を乱すものと評価せざるを得ない。したがって、服務規程第4条1項3号に定める「職務に必要な適格性を欠く場合」に該当するものといえる。
 被控訴人は、それまでに、昭和59年2月1日付けで降職処分を受けたことがあるほか、平成10年8月21日付けで役員に対する発言について始末書を提出しているのであって、その上での上記発言は、管理職としては不適切といえるから、管理職からの降職処分は避けられないものといえる。
 (2) 被控訴人は、昭和43年から37年間控訴人の職員として勤務しているのであるから、職務に必要な適格性を有していると主張する。しかし、被控訴人は、これまでに、降職処分を受けたり、役員に対する発言で始末書を提出しているところ、被控訴人の春野監事及び夏川理事に対する上記発言は、これまでの処分歴と同種の非行といえるから、矯正可能性は乏しいものと言わざるを得ない上、総務部長は、控訴人の事務部門の長として、部下職員を指導監督するほか、上部団体又は関係団体との折衝をする職務を担う管理職であるから、上級役職員に対する不穏当な発言を繰り返す者にはその適格性がないものと言うべきであって、勤続年数だけで適格性が認められるわけではない。被控訴人の主張は採用できない。
 被控訴人は、春野監事に対する発言は、酒席の場における発言であるから職務と関連性が乏しく、発言があったとしても、職務に必要な適格性を欠くことにはならないと主張する。しかし、控訴人においては、前認定のとおり、懇親会、2次会とも控訴人の費用で運営されている上、酒席における出席者も控訴人の理事、監事及び控訴人の職員に限定されていることからすれば、職務執行に関連性がないとは言い難い。しかも、酒席とはいえ、どのような発言をしても責任を免れるものではなく、とりわけ、控訴人の事務部門の長である総務部長には、酒席においても、節度ある言動が求められるのであるから、被控訴人の主張は採用できない。
 被控訴人は、本件降職処分が、総務部長、次長、課長、課長補佐、係長という控訴人の組織上、4階級降格となって、極端な処分であり、控訴人の裁量の範囲を超えると主張する。しかし、被控訴人の上記発言は、部下職員を指導監督する総務部長としてばかりでなく、管理職としても相応しくない非行行為であるので、管理職から外すかわりに、給与については、総務部長の月額約47万円から係長相当の月額約36万円ではなく、月額約43万円と比較的少額の減額に留めていることからすれば、合理性を欠く降職処分とはいえず、控訴人の裁量の範囲内の処分というべきである。
 被控訴人は、本件降職処分の事実が広報誌に掲載されて、大きな屈辱感を味わったと主張する。しかし、控訴人がその管理職員の異動を広報誌に掲載するのは当然であって、しかも、本件降職処分が適法かつ相当な処分である以上、被控訴人はその不利益を甘受すべきである。
 (3) 本件降職処分が適法かつ相当な処分である以上、被控訴人の総務部長及び出納責任者の地位にあることの確認、既払給与の不足額の支払請求及び慰謝料請求は理由がない。〔中略〕
 5 以上のとおり、被控訴人の請求のうち、当審口頭弁論終結後の給与差額の支払請求に係る訴え及び退職給与規程の一部改正の無効確認に係る訴えについて不適法であって却下は免れず、その余の請求は理由がないから棄却すべきところ、これと結論を異にする原判決は変更する必要がある。本件控訴は理由があり、本件附帯控訴は理由がない。