全 情 報

ID番号 : 08543
事件名 : 各地位確認請求事件
いわゆる事件名 : 東京海上日動火災保険RA制度廃止訴訟第一審判決
争点 : 損保会社の外勤従業員が、職種限定契約廃止等は無効として地位確認を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 損保会社の契約係社員(「RA」)である外勤の従業員(X)らに対し、会社が〔1〕RA制度を廃止し、〔2〕代理店開業を前提に退職の募集を行い、〔3〕継続雇用を希望する者に対しては職種を変更する、とする方針を文書で提案・通知したのに対し、Xらが、右提案・通知は既存の労働契約に違反し、かつ不合理な不利益変更で無効であると主張して、RAの地位にあることの確認を求めた事案である。
 東京地裁は、まず確認の利益を肯定したうえで、当該労働契約はRAとしての職務に従事することを内容とする職種限定契約であると認定した。そして、RA制度を廃止し、XらをRAから他職種へ職種変更することについて正当性があるとはいえないとして、会社の主張を斥け、請求を認容した。
参照法条 : 民事訴訟法134条
労働基準法89条
労働基準法90条
体系項目 : 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の限界/配転命令権の限界
裁判年月日 : 2007年3月26日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)2001
裁判結果 : 認容(控訴)
出典 : 時報1965号3頁/タイムズ1238号130頁/労働判例941号33頁
審級関係 :  
評釈論文 : 榎本英紀・経営法曹155号23~29頁2007年12月佐藤敬二・日本労働法学会誌111号140~149頁2008年5月三井正信・判例評論587〔判例時報1984〕190~194頁2008年1月1日石田信平・同志社法学60巻1号271~294頁2008年5月長谷川聡・労働法学研究会報59巻6号18~23頁2008年3月15日道幸哲也・法学セミナー53巻2号128頁2008年2月武井寛・法律時報80巻8号120~124頁2008年7月
判決理由 : 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界-配転命令権の限界〕
 被告がRA制度廃止を言明している時期まであと五か月ほどを残すのみである現時点(口頭弁論終結時)において、原告らには、平成一九年七月一日以降のRAとしての地位について危険及び不安が存在・切迫し、それをめぐって被告との間に生じている紛争の解決のため、判決により当該法律関係の存否を早急に確認する必要性が高く、そのことが当該紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切な方法であると認めることができる。また、仮に、原告らの確認請求を認容する判決がされた場合には、被告においてもRA制度廃止の方針・内容につき再考する余地も期待することができ、RAの廃止をめぐる現在の紛争の解決のほか、廃止後の条件等をめぐる将来の紛争の予防にもつながる可能性が十分に認められる。そうだとすると、本件訴えは、確認対象の選択の点で不適切であるとはいえず、即時確定の利益についても欠けるところはないものというべきである。〔中略〕
 エ 以上みてきたとおり、RAの業務内容、勤務形態及び給与体系には、他の内勤職員とは異なる職種としての特殊性及び独自性が存在し、そのため被告は、RAという職種及び勤務地を限定して労働者を募集し、それに応じた者と契約係特別社員としての労働契約を締結し、正社員への登用にあたっても、職種及び勤務地の限定の合意は、正社員としての労働契約に黙示的に引き継がれたものと見ることができる。それゆえ、被告と原告らRAとの間の労働契約は、原告らの職務をRAとしての職務に限定する合意を伴うものと認めるのが相当である。〔中略〕
 三 争点(3)(RA制度を廃止して原告らを他職種へ配転することの正当性の有無)について
 (1) はじめに
 労働契約において職種を限定する合意が認められる場合には、使用者は、原則として、労働者の同意がない限り、他職種への配転を命ずることはできないというべきである。問題は、労働者の個別の同意がない以上、使用者はいかなる場合も、他職種への配転を命ずることができないかという点である。労働者と使用者との間の労働契約関係が継続的に展開される過程をみてみると、社会情勢の変動に伴う経営事情により当該職種を廃止せざるを得なくなるなど、当該職種に就いている労働者をやむなく他職種に配転する必要性が生じるような事態が起こることも否定し難い現実である。このような場合に、労働者の個別の同意がない以上、使用者が他職種への配転を命ずることができないとすることは、あまりにも非現実的であり、労働契約を締結した当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。そのような場合には、職種限定の合意を伴う労働契約関係にある場合でも、採用経緯と当該職種の内容、使用者における職種変更の必要性の有無及びその程度、変更後の業務内容の相当性、他職種への配転による労働者の不利益の有無及び程度、それを補うだけの代替措置又は労働条件の改善の有無等を考慮し、他職種への配転を命ずるについて正当な理由があるとの特段の事情が認められる場合には、当該他職種への配転を有効と認めるのが相当である。そして、当該正当な理由(以下「正当性」という。)の存否を巡って、使用者である被告は、〔1〕職種変更の必要性及びその程度が高度であること、〔2〕変更後の業務内容の相当性、〔3〕他職種への配転による不利益に対する代償措置又は労働条件の改善等正当性を根拠付ける事実を主張立証し、他方、労働者である原告らは、〔1〕採用の経緯と当該職種の特殊性、専門性、〔2〕他職種への配転による不利益及びその程度の大きさ等正当性を障害する事実を主張立証することになる。以下、本件を上記のような観点からみてみることにする。〔中略〕
 オ 被告の職種変更についての正当性についての立証
 上記イないしエによれば、被告は、RA制度を廃止しそれに伴い原告らRAの職種を変更することについて、経営政策上首肯し得る高度の合理的な必要があること、被告が原告らRAに対しRA制度廃止後に継続雇用を希望している者に提示している業務内容はこれまでの経験、知識を活かすことのできる業務であって不適当なものとはいえないことを立証することができている。そうだとすると、原告らにおいて、RA制度廃止に伴う不利益が大きい等の正当性を障害する事実を立証することができない限り、被告の職種変更についての正当性を認めることになる。そこで、以下では、RA制度廃止に伴う不利益の大きさ等の正当性を障害する事実の存否等について検討することにする。〔中略〕
 ク まとめ
 以上の検討結果によれば、被告がRA制度を廃止して原告らを他職種へ配転することに、経営政策上、首肯しうる高度の合理的な必要性があること及び他職種の業務内容は不適当でないことが認められる。しかし、他方で、RA制度の廃止により原告らの被る不利益は、原告甲野太郎を含む原告らの生活面においては職種限定の労働契約を締結した重要な要素である転勤のないことについて保障がなく、原告甲野太郎を除く原告らの生活の基礎となる収入の将来的な不安定性が予想され、とりわけ職種変更後二年目以降は、月例給与分が保障されるのみで賞与相当分につき大幅な減収となることが見込まれる。そうだとすると、被告が原告らに提示した新たな労働条件の内容をもってしては、RA制度を廃止して原告らの職種を変更することにつき正当性があるとの立証が未だされているとはいえない現状にある。
 以上によれば、原告らと被告との間で職種を限定する合意が認められ、原告らが他職種に転進することに同意をしていない本件にあっては、現時点で職種変更につき正当性が認められるような特段の事情が立証されていない以上、被告の主張は理由がないということになる。