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ID番号 : 08584
事件名 : 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 : 鞆鉄道(賃金規程等変更)事件 
争点 : 自動車運送会社の労働者らが新就業規則等を無効として従前の算出方法による時間外手当等の支払を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 会社鉄道部門の労働者ら66名が、制定・施行された新就業規則及び賃金規程は無効であるとして、従前の算定方法による時間外手当ほか各種手当の支払等を求めた事案である。 広島地裁岡山支部は、会社の経営状況に鑑みれば経費削減の要請は大きく、その手段として、新就業規則等の制定の必要性は大きいものといえ、賃金規程等及びその運用自体が違法又は著しく不合理なものではなく、新就業規則等の制定及びそれに伴う運用の変更についての高度の必要性が認められるとした上で、労働者らが被る不利益への代償措置が十分とはいえない点もあるが、労働組合との相応の交渉を経た上で制定されており、労働者らが被る不利益も受忍限度内と認められることから、賃金算定の根拠としての効力を有する規範は新就業規則等であるとして労働者らの請求をいずれも棄却した。
参照法条 : 労働基準法89条
労働基準法32条
労働基準法37条
労働基準法2章
体系項目 : 労働時間(民事)/時間外・休日労働/時間外労働、保障協定・規定
就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/労働時間・休日
賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 : 2007年7月11日
裁判所名 : 広島地福山支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成15(ワ)139、平成17(ワ)309
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例952号45頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)-時間外・休日労働-時間外労働、保障協定・規定〕
〔就業規則(民事)-就業規則の一方的不利益変更-労働時間・休日〕
〔賃金(民事)-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
2 争点1について 法定休日労働について 本件賃金規程等において,法定休日手当と休日手当が併存していることに鑑みると,本件賃金規程等における法定休日とは,労働基準法35条の定める休日を指し,法定休日労働とは,同法35条に定める休日に労働することを意味すると解するのが相当である。そして,原告らが法定休日労働に従事したことを認めるに足りる証拠はなく,法定休日労働に基づく原告らの請求は理由がない。 休日代休,法定休日代休手当の発生する労働について 休日代休手当又は法定休日代休手当が発生する場合については,本件労働協約等の被告及び本件組合との合意等をみても明確な定義は見あたらないものの,争いのない事実(第2の1)に記載のとおり,これらの手当とは別に休日労働手当及び法定休日労働手当等が支給される場合が定められ,平成13年度以前においては,休日労働の一部に対し,休日労働手当等とは別に休日代休手当又は法定休日代休手当の支払がなされていたものと認められることなどに鑑みると,被告主張のとおり,休日労働の代償措置として,事後に特定の労働日の労働義務を免除する「代償休日」が付与された場合に,当該労働日に対し発生する手当とみなすのが相当である。そして,平成13年度以降に代償休日が付与されたことを認めるに足りる証拠はなく,休日代休,法定休日代休手当の発生する労働の提供に基づく原告らの請求は理由がない。 3 争点2について 〔中略〕 ウ小括 上記とおり,被告の経営状況に鑑みれば,経費削減の要請は大きく,その手段として,被告は会社分割等の手段をとったが,それでもなお人件費等の削減をもたらす新就業規則等の制定の必要性は大きいものと認められる。そして,本件賃金規程等及びその運用自体が違法又は著しく不合理なものとまでは認められないものの,前記の被告の経営状況等も加味すれば,新就業規則等の制定当時,時間外労働時間等につき,その基準を明確化し,適法な範囲において割増賃金の対象となる時間外労働時間の算定を行う必要性も高いものと認められる。 以上のとおり,被告には,新就業規則等の制定及びそれに伴う運用の変更についての高度の必要性が認められる。 〔中略〕 カ小括 以上のとおり,新就業規則等においては,高速手当の支給につき,所定労働時間を超えた場合に限るとした点は不合理であり,また,新就業規則により原告らが受ける不利益に対しての代償措置も十分とはいえない点はあるが,本件組合との相応の交渉を経た上で制定されており,同業他社と比較しても格別不利益ではない,概ね合理的な内容の規定となっていること,及び,原告らが新就業規則等の制定により受けた不利益について受忍限度内と認められることより,新就業規則等については,内容の合理性が認められる。 以上のとおり,新就業規則等の制定については,高度の必要性及び内容の合理性が認められるから,原告らがこれに同意していなくても,規範性が認められる。 よって,平成13年度から平成15年度における原告らの賃金算定の根拠としての効力を有する規範は,新就業規則等となる。 4 争点3について 本件自動昇給の合意においては,争いのない事実(第2の1)に記載のとおり「次年度の自動昇給については・・・」と定められていることから(甲16),その文言上,本件自動昇給の合意がなされた平成11年3月26日の翌年度である平成12年度の昇給を定めたものと解するのが相当であり,その後の自動昇給についても規定している旨の原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。そして,争いのない事実(第2の1)に記載のとおり,本件自動昇給の合意が平成12年度以降に更新されていないことに鑑みれば,原告らの請求のうち,自動昇給を理由とする部分については理由がない。 5 まとめ 以上の次第で,本件賃金規程等及び自動昇給の合意をその請求の根拠としている原告らの請求は,これらが規範性を有しないため,その余の点について判断するまでもなく,いずれもその理由がない。