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ID番号 : 08625
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : キャノンソフト情報システム事件
争点 : プログラマーが、病気休職期間明けに退職扱いとされたことを違法として地位の確認等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : コンピューター利用技術の開発・販売等を業とする会社プログラマーが、自律神経失調症及びクッシング症候群により病気休職中のところ、会社が再三にわたるプログラマーの復職要請を無視しておきながら休職期間満了後に退職扱いとしたことは理由のない就労拒絶であり違法であるとして、地位の確認、賃金支払等を求めた事案である。 大阪地裁は、「休職期間満了までに債務の本旨に従った労務の提供をしたといえるか」について、プログラマーは書面などにより継続して復職の意思を明確にし、また、休職の原因となった疾病等についても、それぞれ診断書を提出して医学的見地から答えようとしていたにもかかわらず、会社は交渉することなくプログラマーの復職を認めないと述べて調停を不成立としたり、プログラマーが発症前に在籍した部署での残業に耐え得ないというだけで、残業時間の少ないサポート部門に配置するといった配慮を検討した事情も窺がえなかったとして、遅くとも休職期間満了時には、プログラマーからの債務の本旨に従った労務の提供があったということができるとした。そして、休職期間満了をもってプログラマーを退職としたことは就業規則の適用を誤ったもので、無効とした。
参照法条 : 民法536条2項
労働基準法2章
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/債務の本旨に従った労務の提供
休職/傷病休職/傷病休職
解雇(民事)/解雇事由/就労不能
裁判年月日 : 2008年1月25日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)7388
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例960号49頁
労経速報2002号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
〔休職-傷病休職-傷病休職〕
〔解雇(民事)-解雇事由-就労不能〕
ウ 以上の事実を総合してみれば、遅くとも平成17年7月9日の休職期間満了時には、原告の病状は、被告における就労が可能な程度にまで十分回復していたということができ、原告からは債務の本旨に従った労務の提供があったということができる。 〔中略〕   しかし、上記医師の意見書は、原告を実際に診察することなく、専ら被告からの報告に依拠して作成されたものであるから、にわかに採用できない。そして、他に、原告の健康状態が開発部門で最低限要求される就労に耐えうるまでに回復していないとする証拠はない。  しかも、被告が開発部門での業務に特殊なものとして主張するところは、主に残業の多さであるが、労働者は当然に残業の義務を負うものではなく、雇用者は雇用契約に基づく安全配慮義務として、労働時間についての適切な労務管理が求められるところ、残業に耐えないことをもって債務の本旨に従った労務の提供がないということはできない。  (イ) また、労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実状及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である(最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決参照)。  そして、雇用契約上、原告に職種や業務内容の特定はなく、復職当初は開発部門で従前のように就労することが困難であれば、しばらくは負担軽減措置をとるなどの配慮をすることも被告の事業規模からして不可能ではないと解される上、被告の主張によればサポート部門は開発部門より残業時間が少なく作業計画を立てやすいとのことであり、サポート部門に原告を配置することも可能であったはずである。  この点、被告は、サポート部門は原告自身が向いていないと述べて同部門での業務を嫌っていたと主張するが、その根拠とするところは平成11年当時の自己申告書(書証省略)であり、これを7年以上経過した休職期間満了時の資料とする価値は乏しく、また休職期間満了時までに被告が他部門における原告の就労可能性を具体的に考慮した事情も窺えない。    オ したがって、休職期間満了時に原告から債務の本旨に従った労務の提供はなかったとの被告の主張は採用できない。   (5) 以上によれば、遅くとも平成17年7月9日の休職期間満了時には、原告から債務の本旨に従った労務の提供があったということができる。  3(1) したがって、平成17年7月9日に休職期間が満了したことをもって退職としたことは就業規則27条1項、29条5号(書証省略)の適用を誤ったものとして無効であり、原告はなお被告の従業員としての地位を有しているというべきである。   (2) また、原告は、被告が復職を認めず、休職期間満了による退職として扱ったため、平成17年7月10日以降の労務に服することができなかったのであるから、原告は同日以降の賃金等請求権を喪失しないというべきである(民法536条2項)。〔中略〕   (3) 慰謝料  証拠(省略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が理由なく復職を拒否し、違法に休職期間満了をもって退職としたことにより、被告における従業員としての地位を奪われ、その回復に多大な時間と労力を余儀なくされたこと、この間、社会的・経済的に不安定な立場に置かれた上、コンピュータープログラマーとして現場での作業を通じてスキルアップする機会を奪われたことが認められ、これによって原告が被った精神的苦痛を慰謝するには50万円が相当と解する。