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ID番号 : 08629
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 : テクノアシスト相模・大和製罐事件
争点 : 注文者工場内において負傷、死亡した者の遺族が注文主・請負人の双方に損害賠償を求めた事案(遺族勝訴)
事案概要 : 注文者工場内において作業台から転落して脳挫傷等の負傷を負い、約3か月後に死亡した請負人会社従業員の遺族らが、請負人会社とその代表者に対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償とともに、請負契約により従業員の派遣を受け入れていた注文者に対しても損害賠償を求めた事案である。 東京地裁は、安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであるとし、元請の従業員でない労働者が元請企業との間で特別な社会的接触の関係に入ったか否かを判断するには、〔1〕元請が管理する設備、工具を用いているか、〔2〕事実上元請の指揮監督を受けて稼働しているかの2点を重視するとした。その上で、請負人会社及び注文者の従業員に対する安全配慮義務について検討し、注文者は雇用契約上の信義則に基づき当然に、また、注文者についても上記2要件を満足することから安全配慮義務を負い、従業員の負傷・死亡に安全配慮義務違反が認められるとして、双方の損害賠償責任を認めた。
参照法条 : 民法415条
民法709条
労働基準法2章
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約
裁判年月日 : 2008年2月13日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)23367、平成18(ワ)6805
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(23367号)、棄却(6805号)(確定)
出典 : 時報2004号110頁
タイムズ1271号148頁
労働判例955号13頁
労経速報2004号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 根本到・NBL881号32~38頁2008年5月15日
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔労基法の基本原則(民事)-労働者-委任・請負と労働契約〕
4 被告テクノの責任(請求原因(3)について) (1) 被告テクノは、一郎との間の雇用契約上の信義則に基づき、使用者として労働者の生命、身体、健康を危険から保護すべき義務(安全配慮義務)を負う。  そこで、その義務違反の存否について検討するに、 上記認定事実によれば、本件検蓋作業は、約89cmの高さのある本件作業台の上で、40cm四方の足場に立ったまま、約8時間にわたり作業を行うというもので、しかも、従業員から暑さに対する対策を求められるほどの高温の中での作業であったというのであるから、本件検蓋作業を行うに際して、熱中症や体調不良などの異常が生じた場合に、作業者が転落する可能性が十分考えられたというべきである。  そうすると、このような状況下においては、被告テクノは上記安全配慮義務の具体的内容として、転落の危険を避けるために、転落防止の措置が施された転落の危険のない適切な作業台を使用すべき義務を負っていたと解するのが相当である。しかるに、被告テクノは、転落防止の措置が施されていない本件作業台を一郎に使用させたというのであるから、上記安全配慮義務に違反したものというべきである。  したがって、被告テクノは、原告らに対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。また、上記義務違反は被告テクノの不法行為にもあたるので、不法行為に基づく損害賠償責任も負う。 (2) 労働安全衛生規則518条1項は、事業者に「高さが2メートル以上の箇所で作業を行う場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるとき」に足場を組み立てる等の方法により作業床を設ける義務を課し、同条2項は、上記場合に作業床を設けることが困難なときは、労働者に安全帯を使用させる等の義務を課しているところ、被告テクノは、2mに満たない本件作業台の作業については、墜落により労働者に危険を及ぼすおそれがあったとはいえず、安全帯、命綱、安全網等を使用させる義務を負わない旨主張する。しかしながら、同条の規定は、高さ2mの作業に着目して、類型的に労働者に危険がある場合の最低基準を定めた趣旨であって、高さ2m未満の場合の転落防止の義務を一切免除する趣旨ではないことは明らかであり、作業の内容、作業の様子、作業場所の状況、日時、季節及び気温などによって、安全配慮義務の具体的内容も異なるものというべきである。したがって、労働安全衛生規則518条1項を根拠に、被告らが安全配慮義務を負わないということにはならない。 5 被告大和製罐の責任(請求原因(4)アについて) (1) 上記認定事実によれば、一郎は、被告テクノに雇用されていたものであって、被告大和製罐に雇用されていたわけではなく、被告大和製罐が注文者、被告テクノが請負人となる請負契約を前提として、被告テクノの従業員として被告大和製罐の本件工場において検蓋作業をしていたものである  (2) ところで、安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として、信義則上、認められるものである。そして、注文者と請負人との間における請負という契約の形式をとりながら、注文者が単に仕事の結果を享受するにとどまらず、請負人の雇用する労働者から実質的に雇用契約に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合、すなわち、注文者の供給する設備、器具等を用いて、注文者の指示のもとに労務の提供を行うなど、注文者と請負人の雇用する労働者との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合には、その間に雇用契約が存在しなくとも、注文者と請負人との請負契約及び請負人とその従業員との雇用契約を媒介として間接的に成立した法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入ったものとして、信義則上、注文者は、当該労働者に対し、使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものと解するのが相当である。 (3) しかるに、上記認定のとおり、本件検蓋作業は、被告大和製罐の工場内の、被告大和製罐が所有する機械・設備が設置された場所で行われ、作業の内容も、被告大和製罐が所有するナンバー3ラインのライン上を流れる缶蓋の検査であったことに加え、作業台も被告大和製罐の所有物であったことからすれば、注文者の供給する設備、器具等を用いて作業をしていたということができる。  また、被告大和製罐のBは、作業台を準備した上で、被告テクノのAに対し、本件検蓋作業の内容、手順などを詳細に説明しており、これを踏まえて、被告テクノのAが被告テクノの従業員に対し、Bの説明通りに指示を与えていたこと、本件検蓋作業のラインの稼働を管理していたのは、被告テクノではなく被告大和製罐であり、被告大和製罐がそのラインを止めたとき、被告テクノの従業員は、ラインの近くで待機していたことは上記認定事実のとおりであって、これらの事実に照らすと、被告テクノの従業員は、実質的には被告大和製罐の指示のもとに労務の提供を行っていたと評価するのが相当である。 (4) 以上によれば、被告大和製罐と被告テクノの従業員との間には、実質的に使用従属の関係が生じているものと認められるから、被告大和製罐は、被告テクノの従業員に対し、信義則上、安全配慮義務を負う。  その具体的内容については、被告テクノの場合と同様であるところ、被告大和製罐は、転落防止の措置が施されていない本件作業台を一郎に使用させたものであるから、安全配慮義務に違反したものというべきである。したがって、被告大和製罐は、原告らに対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。また、上記義務違反は被告大和製罐の不法行為にもあたるので、不法行為に基づく損害賠償責任も負う。