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ID番号 : 08631
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 熊坂ノ庄スッポン堂商事事件
争点 : 食品加工販売会社社員が、就業指示違反や欠勤を理由とする懲戒解雇の無効と地位確認等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : スッポン、マムシ等を原料とする食品の製造販売等を業とする会社の販売員が、2度の就業指示違反と欠勤を理由とする懲戒解雇の無効と地位確認等を求めた事案である。 東京地裁は、「就業指示1」は出張命令としては有効だが、12月23日の販売員の欠勤届に何ら異を唱えていないので撤回ないし凍結されたものと認められるとし、「就業指示2」のうち、本部での打合せ、本部での研修、豊川店への45日間の出張は有効な出張命令と評価できるとした。また、Xの業務命令違反について、販売員は12月26日以降就業しておらず形式的には「就業指示2」違反となるが、診断書による歯科治療期間が3月31日まであり、それ以降は正当な欠勤事由は認められないとした。その上で、「就業指示2」発出の経緯について、〔1〕「就業指示1」が撤回されたと思われる日以降何ら指示をせず、2月9日のXからの就労指示申し入れにも何ら回答することなく突然これを発出し、違反した場合は懲戒解雇とするなど唐突な印象を免れず、〔2〕業務命令への説明不足、労働局の斡旋や団体交渉を無視したこと等の事情も考慮して、本件解雇は解雇権の濫用であり、無効とした。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/業務命令拒否・違反
裁判年月日 : 2008年2月29日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)15116
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例960号35頁
労経速報1998号20頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
以上のように,原告に対する本件就業指示1は出張命令として有効と解されるが,前記認定によれば,Bは1月23日に原告が提出した欠勤届に対し何ら異を唱えていないことが認められるから,ここにおいて本件就業指示1は撤回ないし凍結されたものと認めざるを得ない。原告は,上記2において認定した,販売員の欠勤時の要件を満たしてはいないが,原告がBの指示に従い欠勤届を出し,これにBが異を唱えていない以上,そのように解さざるを得ない。    イ 本件就業指示2について  本件就業指示2が発せられた時点においては,営団新橋駅店は再度開店はしていたものの,女性向きの店舗として改装されていたというのであり,原告に対する出張指示の必要性については12月20日の時点と基本的に変わるところはないというべきであり(乙第15号証によれば,例年2月半ばまでの豊川での催事営業が,この年は5月まで延長されることが認められ,この時点においても豊川店でしか研修を実施することができなかった事情に変わりはなかったことが認められる。),本件就業指示2のうち,<1>本部での打合せを命ずる部分,<2>本部での研修を命ずる部分,<3>豊川店への45日間の出張を命ずる部分については同1と同様有効な出張命令と評価することができる(もっとも,<5>は,原告が挙げてもいない集団業務ができないことについても診断書の提出を求めるものであり,この部分は相当とはいい難い。)。  4 業務命令違反の存否について  原告が12月26日以降就業していないことは前記のとおり当事者間に争いがないから,形式的に本件就業指示2違反となることは間違いない。そして,原告の提出した医師作成の書面によっても,歯科治療に必要な期間は3月31日までであり,それ以降の治療の必要性については何ら主張立証がないから,少なくとも,4月1日以降の就業指示については正当な欠勤の事由は認められない。  5 本件解雇の効力について  本件就業指示2のうち<1>ないし<3>が業務命令として適法であり,少なくとも4月1日以降の就業指示に対して正当な欠勤の事由が認められないことは前記のとおりである。しかし,これが発せられた経緯についてみると,被告は,本件就業指示1が撤回されたものと認められる12月23日の後,何らの指示もせずに放置していたばかりか,2月9日の同月16日以降の就労の指示を求める旨の原告の申入れにも何ら応答せず,その間に申し立てられた労働局のあっせんの期日にも出席せず,本件就業指示2の発出に際しては,もしこれに違反したら懲戒解雇するなどといきなりこれを命じているばかりか,<5>のような不当な命令も併せて命じている。この点,被告の立場からすれば,本件就業指示1違反が継続する中で発せられたものということになるが,そのように解することができないことは上記1で認定したとおりであり,そのような中で発せられた本件就業指示2はかなり唐突な印象を免れない。  また,<1>ないし<3>について,この時期においても引き続き豊川店でしか研修が実施できない事情も含めたその必要性について原告に十分説明したとはいい難く,豊川店での勤務が終了した後の勤務地がどこであるかについても説明がなかった(本件就業指示1においては,発出の際に口頭で東京周辺での勤務に戻すとの説明があったことは上記2認定のとおりであるが,本件就業指示2においてこれがされたとの証拠はない。)。  さらには,本件就業指示2が労働局へのあっせん申立て後にされたものであり,かつ本件就業指示2の後の団体交渉の申入れを無視して本件解雇に至ったこと,「本就業指示書に従わなかった場合は,何らの通知等することなく,同通知書到達後30日経過した日をもって懲戒解雇する」旨の文言により,仮に指示違反があったとしてもそれについて何ら弁明の機会を与える余地のない形式で懲戒解雇に至っていること等の事情をも考慮すると,原告の業務命令違反が,正当な事由のない欠勤という労働契約上の義務の根幹に関わるものであることを考慮してもなお,本件解雇を有効とするには相当の躊躇を覚えざるを得ない。  なお,以上とは異なり,仮に,上記1において,本件解雇の理由として,本件就業指示1違反についても考慮し得るとの立場に立ったとしても,上記3のとおり12月23日の時点で本件就業指示1は撤回ないし凍結されたものと認められる以上,その違反を観念する余地はないから,結論には何ら影響しない。  以上の諸事情を考慮すると,原告には少なくとも4月1日以降の欠勤について本件就業指示2違反が成立するものの,これを理由として懲戒解雇することは,懲戒解雇権を濫用したものとの評価を免れないというべきである。  6 未払賃金の額について  まず,12月分は12月25日までの分であり,この中には本件で問題となっている欠勤は含まれていないから,減額について理由があるとは認め難い。B証人は,5万円を減額する理由についてるる述べるが〔中略〕,同証言は何ら客観的根拠を伴うものではないから,同証言は採用することができない。  次に,12月26日から2月15日までの分は,病気とはいえ私傷病による欠勤であり,ノーワークノーペイの原則により賃金請求権は発生しないというべきである。  これに対し,2月16日以降(2月25日までの分及び3月分以降)は,原告は,被告に対して就労の意思を表明しているから,これによって履行の提供をしているにもかかわらず被告がこれを受け入れていない状況にあると認められるから,同日以降は賃金請求権を失わず,本件解雇が無効であることは前記のとおりであるから,解雇の後も同様である。  したがって,原告が支払を求め得るのは,12月分の5万円,2月分(2月16日から同月25日まで)の6万4516円(欠勤の場合の減額の規定が明らかでないため,同期間(31日)の日割り計算(1円未満切り捨て)によった。)及び平成17年3月分以降の毎月20万円である(請求の趣旨2項に対応する金額は別紙2記載のとおり351万4516円となる。)。