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ID番号 : 08634
事件名 : 退職年金額確認等請求事件
いわゆる事件名 : りそな銀行ほか事件
争点 : 銀行の厚生年金基金受給者らが、給付額が減額となる規約変更の効力確認・差額支払等を求めた事案(原告敗訴)
事案概要 : 銀行の厚生年金基金受給者及びその承継人らが、給付額が減額となる規約の変更の効力を争って、変更前の給付額による老齢年金給付を受給する権利の確認及び差額の支払等を求めた事案である。 東京地裁は、まず〔1〕年金支給契約の成否について、各基金との間に年金支給契約が成立していたとする原告らの主張を否認し、〔2〕規約変更による年金支給額の不利益変更の可否については、厚生年金保険がその財政的裏付けを欠く場合に、安定的、継続的運用を確保する措置として給付の額を消費者物価指数の変動に応じて改定できるものとするなど、厚生年金法は保険給付の支給額が事後の社会経済的な情勢に応じて変動(増・減)することを想定しているといえ、厚生年金基金は、厚生年金法所定の手続に従って規約を変更することにより、受給者等の年金給付支給額を変更することができるとした。その上で、〔3〕本件規約変更が原告らに対する効力を有するか否かについては、規約変更時の基金の財政状況は存続すら危うい状況にあったこと、規約変更に先立ち、受給権者に二度の説明会、数次にわたる資料提供を行ったこと等を考慮すれば、本件認可が無効であるとはいえない。
参照法条 : 厚生年金法
労働基準法2章
労働基準法89条
体系項目 : 賃金(民事)/退職金/退職年金
就業規則(民事)/就業規則と協約/就業規則と協約
就業規則(民事)/就業規則と適用事業・適用労働者/就業規則と適用事業・適用労働者
裁判年月日 : 2008年3月26日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)12995
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例965号51頁
労経速報2007号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-退職金-退職年金〕
〔就業規則(民事)-就業規則と協約-就業規則と協約〕
〔就業規則(民事)-就業規則と適用事業・適用労働者-就業規則と適用事業・適用労働者〕
 2 争点(2),<1>・規約変更による年金支給額の不利益変更の可否について〔中略〕   (2) ところで,前提となる事実(4),ウ,(ア)及び(イ)並びに前記1,(1)のとおり,厚年法が厚生年金基金が支給する老齢年金給付の仕組みにつき,政府が支給する厚生年金の給付と同様の仕組みを採用していることを勘案すると,厚年法が定める厚生年金基金制度は,政府管掌の公的な社会保険制度である厚生年金保険のうちの,老齢厚生年金に係る運用業務の主要部分の遂行を,公法人たる厚生年金基金に委託するものと解することができ(厚生年金基金側の視点からは「代行」ということになる。),そうだとすると,厚生年金基金が行う年金給付もまた,政府が管掌する厚生年金保険と同様の構造・性質を有すると評するのが相当である。そして,このことに上記(1)の点を併せ勘案するならば,厚生年金基金が支給する老齢年金給付は,厚年法による保険給付(老齢厚生年金)と同様,事後の社会・経済的な情勢に応じて,その支給額が変動することが想定されているとみるのが相当であり,厚年法115条2項が,年金給付額の不利益変更も含まれ得る「保険給付に関する事項」の規約変更につき特段の制約を加えていないことや,同条項所定の厚生労働大臣の認可の基準を定めた本件通達の第三,7,(5)(別紙2)が,給付設計の変更日における受給者等の支給額を不利益に変更する場合を想定して,諸々の認可基準(要件)を定めていることも,かかる理解を前提とするものと解される。  そうだとすると,厚生年金基金は,厚年法所定の手続に従って規約を変更することにより,受給者等の年金給付支給額を変更することができるといえる。〔中略〕  3 争点(2),<2>・本件規約変更が原告等に対する効力を有するか否か〔中略〕 本件規約変更当時,Y基金の財政が設立企業による多額の資金援助を要する状況にあったことは否定できないから(もとより,本件全証拠によっても,本件規約変更当時,Y基金が負う年金債務の増加傾向に歯止めないし改善が生じる可能性を窺わせる事情も見当たらない。),Y基金が設立企業による多額の支援を抜きにして,その年金財政を維持することは極めて困難であったというほかない。〔中略〕  (イ) 次に,Y基金の設立企業の「大部分において経営状況が著しく悪化している」といえるかにつきみると,Y・HD,被告銀行,埼玉Y銀行などを設立企業とする連合設立型の基金であるY基金にとって(甲18),被告銀行がYグループの中核的存在であったことは,別紙4のYグループを形成する各企業の財務状況からも明らかといえる。  そして,被告銀行の前身であるa銀行,b銀行の合併前の平成13年3月期,同14年3月期の各決算はともに赤字に陥っていたばかりか,被告銀行の平成15年3月期決算では自己資本比率4%を大きく下回るに至り,そのため,本件支援を受けて,事実上,国の管理下に置かれるに至ったことは,前記(2),イ,(ア)及び(イ)のとおりである。また,Yグループ全体,ないし,その頂点に立つY・HDの平成13年3月期から平成15年3月期決算も,上記のような被告銀行の業績悪化の影響を受けて巨額の赤字を計上し,さらに,本件規約変更の直後のY・HDの平成16年3月期決算で計上された経常損失及び当期損失が,いずれも1兆円を超えていたことも前記(2),イ,(ウ)のとおりである。このことからすれば,設立企業の経営状況は著しく悪化しているというに十分であるといえる。〔中略〕  (ウ) 以上によれば,本件規約変更当時のY基金の財政状況は,設立企業の顕著な業績の悪化を契機として,「基金の存続」が問題となるような状況にあったと評すべきであり,また,このことに加えて,本件規約変更による本件減額の幅や,前提となる事実(7),イの事実,同ウ記載のように,これが大多数の受給者にとって受け容れられる内容であったことなどをも併せ考慮すれば,本件規約変更が「基金の存続のため受給者等の年金の引下げが真にやむを得ないと認められる場合」には当たらないということはできない。〔中略〕  (ア) 前記(2),ウ及びエの経緯に加えて,証拠(乙4の3の4,4の3の5,4の3の6,4の3の7,9,11~16,30)を総合すると,本件規約変更に先立ち,Y基金及びY・HDは,受給者等に対する2度にわたる説明会と数度にわたる資料提示を行い,その資料の中には,Y基金の財政状況の悪化を示すだけでなく,アンケートや説明会などを通じて,原告らを含めた受給者等から出された,「今期は資産運用が好調だと聴いている。運用が回復するなら引下げの必要は無いのではないか」,「『退職給付信託』というものがあり,これを処分すれば引下げの必要は無いという意見があるが,どうか」,「年金は退職金の分割払いであり,労働債権である。当然に株主や一般債権者(預金者等)よりも優先して守られるべきとの声があるが,どのように考えているのか」などといった本件減額についての疑問点を相当程度拾い上げて受給者等に開示し,また,これに対する応答を示すなどの対応をしていたと評することができる。加えて,本件減額については,総受給者等の3分の2を超える受給者等から同意書が提出されていることは前記(2),ウのとおりであること,また,その後に,これらの本件減額に同意した受給者等からY基金などに対し,同意の無効を理由とする請求や苦情などが頻発しているといった事情も見当たらないことからすると,Y基金は,本件規約変更につき受給者等の同意を求める際,Y基金は受給者等の同意・不同意の判断をなし得る程度の情報を十分に開示していたと評することができる。〔中略〕    エ 以上によれば,本件認可には,本件認可基準に照らしても,その効力を無効とするほどの瑕疵があったとはいえないから,本件認可が無効であるということはできない。   (4) 以上の次第で,本件認可が無効であるとはいえないから,本件規約変更及びこれに基づく本件通知により,本件各裁定で決定された原告等の老齢年金給付の額は別紙7のとおり減額されたこととなる。  4 争点(3)・被告銀行に対する請求の可否  前示のとおり,Y基金の老齢年金給付は厚生年金保険制度の一つとして,厚生年金基金制度の枠組みにより給付されるものであって,その支給根拠は,原告等とその使用者であるa銀行,c銀行,b銀行,被告銀行との労働契約にあるものではない。したがって,原告らと被告銀行(原告X11との関係では直接の使用者であり,その余の原告らとの関係では,同人らの使用者の権利義務を承継した者となる。)との間で,老齢年金給付に関する法律関係が生じると解すべき根拠はない。  よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告銀行に対する請求はいずれも理由がない。