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ID番号 : 08636
事件名 : 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 :
争点 : 急性心機能不全により死亡した麻酔科医の母が安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた事案(原告勝訴)
事案概要 : 病院勤務の麻酔科医が急性心機能不全により死亡したことにつき、病院での長時間かつ過重な業務が原因であるとして、麻酔科医の母が安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償の支払を求めた控訴審である。 第一審大阪地裁は、麻酔科医の死亡(突発性心筋症による急性心機能不全)につき、業務と死亡との間の相当因果関係を認め、病院に安全配慮義務違反があったとして請求を認容し、病院が控訴した。これに対し第二審大阪高裁は、死因につきブルガダ症候群による死亡であるとの病院の主張を排斥し、死亡原因となった突発性心筋症も原因不明としつつ、麻酔科医の時間外労働時間を詳細に認定した上で、担当業務の具体的内容や勤務形態その他の要素から当該業務は質量ともに過重であったと認定し、一審判決同様、麻酔科医の死亡に業務起因性を認め、病院に安全配慮義務違反があったとして債務不履行責任を肯定した。しかし、損害額の認定につき、一審判決が病院に10パーセントの過失割合を認めたのに対し、麻酔科医自らも健康管理を怠ったとして35パーセントの過失を認めて過失相殺を拡張する判断を下し、一審判決を一部変更した。
参照法条 : 労働基準法41条3号
労働基準法32条
労働基準法施行規則23条
民法415条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/宿日直
裁判年月日 : 2008年3月27日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ネ)1378
裁判結果 : 一部変更(確定)
出典 : 時報2020号74頁
タイムズ1275号171頁
審級関係 : 一審/大阪地/平19. 3.30/平成16年(ワ)10734号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔労働時間(民事)-労働時間・休憩・休日の適用除外-宿日直〕
 以上の事実によれば、太郎の担当していた宿日直業務は、前記aの基準に照らしても、また、その労働の実態からしても、宿直時の仮眠時間や宿日直時の食事等の休憩時間を除き、その性質上、断続的業務とは言い難く、平日出勤日の麻酔科医の業務と同様に評価すべきであると解されるから、太郎の時間外労働時間の算定にあたっては、宿日直業務に従事した時間も時間外労働時間に含めて算定すべきである。〔中略〕  (エ) 以上を合計し、1週あたり40時間を超える、太郎の時間外労働時間は、死亡前6か月間につき、別紙5記載のとおり(ただし、平成7年10月分及び平成8年1月分は5週間分であり、その余は4週間分である。)であり、死亡前3か月間の平均値は1か月あたり103時間15分、死亡前6か月間の平均値は1か月あたり116時間7分30秒と認められる。〔中略〕  オ 以上の各要素を総合考慮すると、太郎の本件業務は、本件当時においては過重であったというべきである。   (5) 以上によれば、突発性心筋症による急性心機能不全で死亡した太郎の直接の死因は不明であるものの、既に認定した太郎の本件業務の内容、勤務形態、時間外労働が極めて長時間にわたっていること、宿日直等の状況、業務そのものの過重性等を総合考慮すると、太郎の担当していた本件業務は質量ともに過重であったというべきであり、既に認定したとおり、太郎には健康診断においても特に異常が認められず、増悪要因となる基礎疾患の有無も証拠上不明であることに鑑みれば、本件において、太郎の本件業務と太郎の死亡との間には相当因果関係があるものと認められる。  4 安全配慮義務違反について〔中略〕 以上の事実及び本件に顕れた事情を総合考慮すると、太郎の死亡を含む何らかの健康状態の悪化を予見できたのに、太郎の負担軽減を図ったり(後記のとおり医師の業務執行については大きな裁量が認められることを考慮してもなお、太郎の業務に対する姿勢等から窺われる、割当日を超えて又は割当内容を超えての自主的な業務への従事に対し、控訴人において、これを控えるよう根気よく指導すべきであったし、研究活動への取組み方についてもこれを見直すよう指導をしたり、限られた時間で休養を取って健康管理を図ることについても指導をしたりすべきであったと考えられる。)、人員体制を見直したりする等の具体的方策を採ることのなかった控訴人には、A病院麻酔科の現場において二宮部長の指導の下、既に認定したとおり、限られた人員の中で、原則として前日の宿直医を翌日の予定手術の担当麻酔科医に割り当てない、ICU当番の担当者をその週の予定手術や宿直から外す等の、麻酔科医の健康に対するさまざまな配慮がなされてきたことを考慮しても、使用者として太郎に対する安全配慮義務違反があったものと認められる。〔中略〕   (2) 過失相殺〔中略〕  以上によれば、前記認定のとおり、太郎が突発性心筋症の発症により死亡するに至ったことについては、その原因は、前記認定のとおり、職場での過重な長時間労働の従事による負担を基本としながらも、これに自宅における研究活動の従事による負担も加わって、それらの総体としての負担による疲労の蓄積の結果によるものといいうるところ、前記のとおり、太郎の職場及び自宅での各負担の増大につき、太郎自身の業務等に対する姿勢や行動が大きく寄与しているということができる。  以上認定した事実及びその他本件に顕れた一切の事情を総合考慮するとき、太郎の突発性心筋症の発症による死亡につき、控訴人に65%の割合による過失があるのに対し、太郎には35%の割合による過失があるというべきである。