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ID番号 : 08652
事件名 : 労働契約関係存在確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : アイレックス事件
争点 : プリント配線板製造会社における整理解雇について、従業員らが解雇権濫用を争った事案(労働者勝訴)
事案概要 : プリント配線板製造などを営む会社における整理解雇について、解雇権の濫用であるとして、労働者らが労働契約存在確認及び未払賃金支払を請求した事案である。 第一審の横浜地裁は、整理解雇の時点における経営状態は著しく悪化しており、この時点において損失を解消し利益を上げるための方法の1つとして人員削減を行う必要があったとしても、希望退職や臨時社員の削減を努力も十分尽くしてないこと、手続でも相当な説明がされていないことから、当該整理解雇は社会通念上相当として是認できないとして請求を認めた。これに対して会社側が控訴。 第二審の東京高裁は、第一審の判断を引用した上(一部補正)、会社が予備的解雇に関する主位的解雇と異なる事情等を主張した点について、会社は、予備的解雇においても解雇回避の努力が十分でなく、被解雇者の選定方法の合理性に欠けるうえ、主位的解雇の意思表示の後に行った被解雇者との面談及び組合との団体交渉の中で、退職の時期・方法なども含めた協議の可能性を示したことはなく、解雇の必要性・対象者選定基準などについての説明を補充してその受入れを求めていたにすぎないから、解雇の手続において相当な説明や協議が尽くされたものとは認め難く、解雇権濫用として無効になるとして、会社の控訴を棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事)/整理解雇/協議説得義務
裁判年月日 : 2007年2月21日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)5048
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例937号178頁
審級関係 : 第一審/横浜地/平18. 9.26/平成16年(ワ)4251号
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
〔解雇(民事)-整理解雇-協議説得義務〕
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も,原判決中,被控訴人の請求のうち,労働契約上の地位の確認を求める部分並びに本判決確定の日までの給与及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分は理由があると判断する。
 その理由は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中,「第3 当裁判所の判断」の1及び2に説示するとおりであるから,これを引用する。
 1 12頁26行目の「原告本人」の次に「。書証については枝番号が付されたものを含む。」を加える。
 2 13頁5行目の「34億6705万円」の次に「(平成16年9月30日当時)」を加える。
 3 16頁26行目の「1日」を「5日」に改める。
 4 18頁21行目の「42時間」を「42.5時間」に改める。
 5 18頁23行目の「なお」の次に「,控訴人の集計によれば」を加える。
 6 19頁4行目の「4000万」の次に「円」を加える。
 7 19頁7行目の「計8名の」及び同頁9行目の「3名の」の次にそれぞれ「正社員の」を加える。
 8 20頁16行目の「製造部門の従業員が突然」を「証人Eの供述によれば,製造部門に他社から出向していた設備保全担当の従業員が」に改める。
 9 21頁10行目の「しかしながら」の次に「,前記認定のとおり,控訴人は平成13年には基本給の3か月分相当額の退職金の上乗せ等を条件として希望退職者60名の募集を行っており,平成16年6月にこれと同様の条件を設定することは困難であったとしても,証人Eの供述によれば,同月に解雇の対象とした21名の1か月分の給与の合計額は600万円前後であったというのであるから」を加える。
 10 23頁19行目の「考えられるところ」から同頁20行目の「しかし」までを「考えられる。しかし,控訴人の集計によれば,被控訴人の時間外労働時間は,平成15年3月当時,製造1課積層工程に従事する正社員のうち下から3番目,同年10月当時,同工程に従事する正社員のうち最下位であったと認められることは前記認定のとおりであるが,上記の時期における同工程に従事する従業員らの平均的な時間外労働時間がどの程度であり,それと被控訴人の時間外労働時間とでどの程度の差異があったのかは,本件全証拠によっても明らかではない。被控訴人の平成16年における時間外労働時間は,月平均でも30時間を超え,最も多い月には59時間に及んでおり,控訴人が平成17年11月に設備保全担当の正社員の新規募集をした際の求人票(〈証拠略〉)の就業時間欄に「時間外あり/月平均30時間」と記載されていることと照らしても,一般的にみて必ずしも少ないとはいえない。その他,本件全証拠によっても,被控訴人の人事考課における査定が合理的なものであったことについて十分な裏付けがあるということはできない。また」に改める。
 11 24頁10行目の「先立つ」から「及び」までを「先立ち,被解雇者として選定した被控訴人に対し整理解雇の必要性及びその時期,規模,方法等について納得を得るための説明を行い,被控訴人との間において十分な協議をした上で解雇を決定するという手順を踏むことなく,平成16年6月29日の被控訴人との個別面談において,受注減による控訴人の窮状を説明するのと同時に,被控訴人を解雇するという結論を告げており,その際,」に改め,同頁20行目の「説明」の次に「や協議」を加える。
 12 24頁25行目の「主張する」から25頁3行目までを「主張し,本件主位的解雇と異なる事情として,控訴人は,本件主位的解雇の意思表示をした後,本件組合との団体交渉等を通じて,解雇に関する説明義務を尽くしたと主張する。しかし,本件予備的解雇についても,解雇回避の努力が十分でなく,被解雇者の選定方法の合理性に欠けることは,本件主位的解雇について説示したところと同様である。そして,証拠(〈証拠略〉,証人E,被控訴人本人)によれば,控訴人は,平成16年6月29日に本件主位的解雇の意思表示をした後の被控訴人との面談及び本件組合との団体交渉の中で,被控訴人側から解雇の撤回を求められたのに対し,退職の時期,方法等も含めた協議の可能性を示したことはなく,解雇の必要性,対象者選定基準等についての説明を補充して,その受入れを求めていたにすぎないと認められるから,解雇の手続において相当な説明や協議が尽くされたものと認め難いことは,本件主位的解雇についてと異ならない。したがって,本件予備的解雇についても,本件主位的解雇と同様に,解雇権の濫用として無効となるというべきである。」に改める。