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ID番号 : 08654
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 独立行政法人理化学研究所事件
争点 : 2年2か月で雇止めを受けた任期制の研究所職員が地位確認と賃金支払等を請求した事案(労働者敗訴)
事案概要 : 科学技術の試験・研究等の業務を行う独立行政法人研究所Yにおいて、契約期間を2か月とする雇用契約を締結し、更に期間1年の雇用契約を2回更新した後に雇止めされた任期制職員Xが、契約は更に2年間の継続が見込まれていたものであり、雇止めは解雇権の濫用であるとして、2年後までの地位確認と賃金支払等を請求した事案である。 東京地裁は、任期制職員の雇用契約期間が1年とされていること及び雇用契約を更新するか否かはチームリーダーなどが総合的に判断するとされていることには予算制度上も研究業務の運用上も合理性が認められること、Xは雇用契約が期間1年であることを十分認識していたこと、同人の業務は研究の進捗状況や諸条件により流動的に変化していく性質上、常用性があるとはいえないことなどから、雇用継続についての期待が合理的であるとはいえないとして、Xの請求を棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2007年3月5日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ワ)26603
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例939号25頁
労経速報1974号10頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
被告等における任期制職員であるテクニカルスタッフの地位について,予算制度上も研究業務の運用上も(前記(1)ア,イ(ア)),任期制職員の雇用契約期間が1年とされていること及びその雇用契約を更新するか否かは予算や研究事業の展開状況に応じてチームリーダー等が研究への貢献度や適格性等から総合的に判断するとされていることには合理性が認められる。そして,このようなテクニカルスタッフの地位と当初の任用前のBチームリーダー及びA室長の説明(前記(1)エ(ア))並びに原告が署名押印している当初の雇用契約から本件契約までの各契約書(甲1~3)の契約期間及び更新に関する特約についての記載内容(前提事実(2))が合致していることからすれば,原告は,雇用契約があくまで期間1年の単年度契約であることを十分認識の上,当初の雇用契約を締結し,その後もかかる認識のもとにこれを更新して本件契約を締結したと認めることが相当である。〔中略〕
原告の業務は,研究業務であるバイオインフォマティクス解析業務が中心であるというべきであり,研究の進捗状況や諸条件により流動的に変化していくというその性質上,直ちに常用性があるとはいえない。〔中略〕
 しかし,被告の予算制度,被告における任期制職員の任用及び雇止めの状況等に関する認定事実(前記(1)ア(イ),イ)並びに当初の雇用契約から本件契約までの各契約書に期間として1年間及び特約として原告と旧理研の協議の上双方の合意があったときにのみ更新できる旨記載されている事実(前提事実(2))(以下,これらの事実を一括して「被告における任期制職員の任用に関する認定事実」という。)に照らせば,1年の契約期間が予算単年度主義による建前であるとは認め難く,原告の上記主張は採用できない。〔中略〕
そうであるとすれば,例え,当初の任用前のBチームリーダーの電子メールに「今年度は妥協してもらわないといけないかもしれません。来年度以降には,給与の再考をします」,「今年度はこれで許して下さい。後は,Xさんの働き次第で変動するので,期待しておいてください」との記載があること(甲12の19,23)及びBチームリーダーから翌年又は次年度以降増える業務について説明がなされたこと(甲33)などが認められるとしても,それはあくまで前記アのとおり雇用契約期間が1年間であることを前提とするものであり,原告もその認識であったというべきである。その他A室長及びBチームリーダーが上記のような説明を行ったことを認めるに足りる客観的かつ的確な証拠はなく,原告の上記主張を採用することはできない。〔中略〕
 しかし,原告が任用された時点におけるプロジェクト期間が4年2か月という比較的短期であったことを考慮しても,わずか2回という更新回数及び合計2年2か月という契約期間は,被告における任期制職員の任用に関する認定事実からすれば,原告の雇用継続についての期待が合理的であることを基礎付けるには足りないというべきである。〔中略〕
 しかし,乙30によれば,1回目の契約更新は,当初の雇用契約締結のわずか2か月後であって,当初の雇用契約と同じ更新条件であり,原告,被告とも改めて交渉が必要であったとは認められない。2回目の契約更新は,Bチームリーダーが,平成14年11月ころから平成15年1月ころまでの間,原告と面談して,原告に対し,他の研究員と協調していかなければ次年度の契約を更新しない旨通告した上,同年3月5日,次年度の更新条件と業務内容を伝えていること(前記(1)エ(ウ))から,交渉がなされたといえる。仮に契約書の取り交わしが更新された雇用契約の期間開始後になされたとしても,わずか2回にすぎず,しかも,原告が1年間の期間及び原告と旧理研の協議の上双方の合意があったときにのみ更新できる旨明記されている各契約書に基づいて雇用契約を更新している以上(前提事実(2)イウ,前記ア),直ちに原告の雇用継続についての期待が合理的であることを基礎付け得るものではない。
   ウ 以上,検討したところに加え,被告等における任期制職員の雇用契約の更新状況(前記(1)イ(イ)),原告は,Bチームリーダーから,平成14年11月から平成15年1月までの間に,業務遂行能力を改善し,他の研究員等と協調していかなければ,次年度は契約を更新しない旨通告され(前記(1)エ(ウ)),さらに,同年6月及び同年11月,上記の点が改善されていないなどとして,次年度は契約を更新しない旨通告されたが,いずれの際も契約の更新を求めなかったこと(前記(1)エ(オ))並びに原告が本件雇止めの通知を受けた後に退職に向けた準備を行い,他の研究チームの公募に応募したこと(前記(1)エ(カ))を踏まえれば,原告には雇用が継続されることについて合理的な期待があるとの原告の主張は,採用できない。
 2 したがって,本件契約は,被告がその更新を拒絶した以上,その契約条件のとおり,平成16年3月31日,期間満了により終了したというべきであり,その余の争点について判断するまでもなく,原告が,被告に対し,同年4月1日から平成18年3月31日まで,本件チームのテクニカルスタッフとしての地位にあったことを前提とする本件賃金支払請求は,理由がない。