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ID番号 : 08659
事件名 : 各賃金請求事件
いわゆる事件名 : 日本航空インターナショナル事件
争点 : 深夜業免除制度の適用により給与を減額された航空会社客室乗務員が賃金の支払等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 深夜時間帯の勤務を免除される趣旨の「深夜業免除制度」に基づき、月平均10数日間の不就業日無給を適用され、給与を減額されていた航空会社Yの客室乗務員(X1~X4)が、同適用は不当として賃金の支払(予備的に無給日にかかる休業手当の支払)を求めた事案である。 東京地裁は、まず、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律19条1項は、深夜業免除申請により、深夜時間帯が所定労働時間内であるか否かにかかわらず、深夜時間帯における労働者の労務提供義務が消滅することを明らかにしたと解するのが相当である、との趣旨を確認した。 その上で、深夜業免除者であるX1らには深夜時間帯における労務提供義務はないのであるから、客室乗務員の労務が深夜勤務を中核とするものであったとしても、X1らのした深夜業を含まない乗務による労務の提供は債務の本旨に従った労務の提供として欠けるところはないため、会社は無給日において客室乗務員らが提供した債務の本旨に従った労務の受領を拒絶したものであるとして請求を認容した(休業手当は棄却)。
参照法条 : 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律19条
労働基準法2章
労働基準法26条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/就労請求権・就労妨害禁止
賃金(民事)/賃金請求権の発生/就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
賃金(民事)/賃金請求権の発生/仕事の不賦与と賃金
裁判年月日 : 2007年3月26日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ワ)13320、平成16(ワ)20010、平成17(ワ)4968
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例937号54頁
労経速報1967号15頁
審級関係 :
評釈論文 : 山本圭子・労働法学研究会報58巻12号22~27頁2007年6月15日 浅倉むつ子・早稲田法学83巻3号183~234頁2008年3月 緒方桂子・法律時報80巻9号119~122頁2008年8月
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕
〔賃金(民事)-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
〔賃金(民事)-賃金請求権の発生-仕事の不賦与と賃金〕
JALFIOに所属する深夜業免除者に対して乗務がアサインされた日数を超える部分については「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にあたると認めざるを得ないとしても、当該日数に至るまでの日数については「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと認めるのが相当である。
  そうすると、本件MSHのうち、「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと判断される日数は、別紙(7)の認容額一覧表の「JALFIOとの差」欄記載のとおり(なお、前提事実(3)によれば、原告P3は、平成16年5月、平成17年1月、同年4月、同年8月及び同年10月に、いずれも産前休職を取得していることが認められるから、このような事情を斟酌すれば、当該月においてMSHと指定された日数のうち、別紙(7)の認容額一覧表の「JALFIOとの差」欄に記載した日数についてのみ「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと認めるのが相当である。)となる。
  (4) なお、原告らは、賃金規定14条3号(就業規則15条11号・就業規則解釈運用基準15条10項H号)に基づく上記のような取扱いが従来にはなかった不利益な取扱いであるとも主張するようであるが、そのような事実を認めるに足る証拠はない。
  (5) そうすると、「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと判断される日数については、被告の受領拒絶による原告らの債務の履行不能は被告の責に帰すべき事由に基づくものであるというべきである。
 3 争点(3)について
  被告は、原告らが深夜業免除の申請をしたことによって、「事業計画に基づき作成された乗務パターンのうち、深夜勤務にかからない日帰りの乗務パターン」以外の日(所定の休日等を除く)に賃金が支払われないことに同意したと主張するが、少なくとも、原告らが、「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないにもかかわらず、被告がMSHと指定した日についてまで賃金が支払われないことに同意したと認めるに足る証拠は何ら存しない。〔中略〕
  被告は、争点(4)の(被告の主張)のとおり主張するが、被告が主張するような事情が認められたとしても、「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないにもかかわらず、被告がMSHと指定した日についてまで、被告の受領拒絶を正当化し得るものとは解されない。〔中略〕
  確かに、前提事実(2)のとおり、客室乗務員に対しては乗務手当一般保障の支給があったところ、客室乗務員諸手当規程16条1項8号が新設されて、原告らがその支給を受けられなくなったというのであるから、いわゆる就業規則の不利益変更にあたると解する余地はある。
  しかしながら、乙41、証人P6の証言によれば、被告は、深夜業免除申請者を多く受け入れることを前提とした被告の深夜業免除制度を維持するために、既に多額のコストを負担していることが認められる。
  これに対して、原告らは、自らの意思で深夜業免除の申請をしている上、争点(2)において検討したような事情からすれば、自ら選択した職務の特殊性の故に、昼間勤務自体が限られているという状況の中で、結果的に不就業を余儀なくされるに至ったにすぎないといわざるを得ないのであって、乙57、弁論の全趣旨によれば、原告らが被る不利益も、1か月あたり、65時間分の乗務手当相当額から実際に乗務した時間分の乗務手当相当額を控除した金額、すなわち、原告らが実際には乗務していない時間にかかる乗務手当相当額にすぎないことが認められる。
  しかも、乙41によれば、乗務手当一般保障は、客室乗務員に対して1か月65時間の乗務を指定することが期待できることを前提として、実際にアサインされた乗務時間の不公平を是正するための制度であるから、そのような前提を欠く深夜業免除者にこの制度を適用することはそもそも合理的なものではない。
  のみならず、被告に勤務する全客室乗務員の約85パーセントにより組織されているJALFIOが、上記規定及びこれに従った取扱いに合意していることは、前提事実(2)のとおりであるし、乙32、41、証人P7の証言によれば、被告は、多数回にわたって、客乗組合との間で団体交渉等を行っており、被告のこの間の対応が不誠実なものであったと認めるに足る証拠もない。
  そして、前記のとおり、育介法が、就労を免除された深夜時間帯の勤務についてすら有給であることを保障してはいないことをも併せて考慮すれば、客室乗務員諸手当規程16条1項8号は合理的なものであると認めるのが相当である。
  したがって、争点(2)において、「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にあたると判断された日数については、業務手当一般保障が停止されることとなる。〔中略〕
被告は、基準内賃金について、本件MSHの日数分の日割相当額を翌月の賃金から控除したことが認められるから、争点(2)において「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと判断された日数分(別紙(7)の認容額一覧表の「JALFIOとの差」欄記載の日数分)の日割相当額(同「未払基準内賃金」欄記載の金額)の支払義務を負うこととなる。〔中略〕
被告は、争点(2)において「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと判断された日数分(別紙(7)の認容額一覧表の「JALFIOとの差」欄記載の日数分)についても乗務手当や乗務手当一般保障を支払っていないことが認められるから、被告は、当該日数分の乗務手当一般保障の金額を上回ることが明らかな、1日あたり4時間として計算された当該日数分の乗務手当額(同「未払乗務手当」欄記載の金額。ただし、請求額を上限とする。)について支払義務を負うこととなる。〔中略〕
被告は、「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと判断された日数分(別紙(7)の認容額一覧表の「JALFIOとの差」欄記載の日数分)につき1日4時間あたりの乗務付加手当(同「未払乗務付加手当」欄記載の金額)を支払ってはいないから、これについて支払義務を負うこととなる。〔中略〕
被告は、「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと判断された日数分(別紙(7)の認容額一覧表の「JALFIOとの差」欄記載の日数分)につき1日4時間あたりの先任付加手当(同「未払先任付加手当」欄記載の金額)を支払ってはいないから、これについて支払義務を負うこととなる。〔中略〕
勤務反映期間中の本件MSHのうち、争点(2)において「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にはあたらないと判断された日数分(別紙(7)の認容額一覧表の「JALFIOとの差」欄記載の日数分)を欠勤日数として扱うことは相当でないこととなるから、原告らに支払われるべき臨時手当差額分は次のとおりとなる。〔中略〕
前記2において「客室乗務員が深夜業の免除を請求し、不就業が発生した場合」にあたると判断された日について、被告が休業手当の支払義務を負うかどうかが問題となるが、前記2及び5で検討したような事情を斟酌すれば、原告らの不就業が被告に起因する経営、管理上の障害によるものということはできない。
  したがって、原告らの予備的請求は理由がない。