全 情 報

ID番号 : 08662
事件名 : 配転無効確認等請求事件
いわゆる事件名 : NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件
争点 : 新雇用制度に応じなかったため配転された電信電話会社の従業員らが慰謝料を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 電信電話会社Yにおいて51歳以上の従業員に対して実施された、〔1〕会社を退職して、会社の業務を委託する新規設立の子会社に再雇用され、月例給与は20パーセントから30パーセント低下するが勤務地はその府・県内に限定されるという形態で勤務するか、あるいは〔2〕勤務地を問わず会社において引き続き業務に従事するかを選択させるという新たな雇用制度に対し了承しなかった組合の組合員であったXら23名が、いずれも選択をしなかったため「60歳満了型」を選択したものとみなされ、遠隔地や異職種への配転命令を受けたことは不法行為に当たるとして慰謝料を請求した事案(X4のみ地位確認請求等も請求)である。 大阪地裁は、新雇用制度は必要であり、配転命令が直ちに違法とはいえず、また、配転命令は業務上の必要性のために行われており、他の従業員への見せしめ目的やXら所属の少数組合への反組合的意思で行われたとは認められないが、配転が権利濫用であったかどうかをXらの個々の事情に基づいて判断すべきである、とした。 その上で、両親を介護していたX5、糖尿病に罹患して通院加療中だったX6、妻ががんの手術を受けていたX18については権利濫用に当たるとして慰謝料の支払を命じ、残りの者については請求を棄却した(X4の地位確認請求等については訴えの利益を欠くとして却下した)。
参照法条 : 労働基準法3条
労働組合法7条
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律26条
民事訴訟法134条
体系項目 : 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用/配転命令権の濫用
裁判年月日 : 2007年3月28日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成14(ワ)11728、平成15(ワ)1209、平成15(ワ)11239
裁判結果 : 一部却下、一部棄却(11728号)、一部認容、一部棄却(1209号)、棄却(11239号(控訴)
出典 : 労働判例946号130頁
審級関係 : 控訴審/大阪高/平21. 1.15/平成19年(ネ)1401号
評釈論文 :
判決理由 : 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕
旧電電公社及び被告のいずれの就業規則においても、業務上必要があるときは、勤務地又は担当する職務を変更されることがある旨が明記されていたことは、前提事実(4)アのとおりである。
 また、本件全証拠を検討しても、旧電電公社において採用された際に勤務地や職種を限定する旨の合意がされていたと認めるに足りる証拠はないし、一定地域外への配転や職種の変更について同意を要する旨の慣行が形成されていたと認めるに足りる証拠もない。
  そうすると、原告らの同意なく本件配転命令が行われた〔中略〕からといって、直ちにそれが違法となるものではない。〔中略〕
旧電電公社の当時から本件配転命令の当時に至るまで、職員ないし従業員の配置転換についての内部規程があり(被告においては、平成11年7月1日付け人事部長作成の「社員の配置転換について」と題する書面)、同規程においては、〈1〉 配置換えについて従業員の同意を要する旨の規定がないこと、〈2〉 職種変更についても、事務(営業業務を含む。)、通信、機械、線路、データ、研究開発の各職掌間における配転については、従業員の同意を要しないとされ、医療や自動車運転手などの特殊な職掌間での一定範囲の配転についてのみ、従業員の同意を要するものと定められていたにすぎないことが認められる。
  以上の各事実に加え、被告の就業規則の内容(前提事実(4))を総合すると、原告らについて勤務地や職種の限定があったものと認めることはできない。
  (3) 以上によれば、本件配転命令が、原告らの同意なく行われたこと自体をもって、それを違法と認めることはできない。〔中略〕
本件計画は、固定電話をとりまく経営環境の変化に被告の事業構造を適合させるために必要な措置であったと認められるのであって、本件配転命令の前提として、被告がOS会社に対して業務委託(アウトソーシング)を行うこととしたこと自体を不当と言うことはできない。
  そうすると、本件配転命令の違法性の有無を論じるについては、被告がOS会社に対して業務委託を行ったために、従前は被告本体が行ってきた業務の多くの部分が失われる結果となったことを前提とした上で、そのような実情の下で行われた本件配転命令が権利の濫用に当たるかという観点から判断されるべきであると考えられる(前記1(3)参照)。〔中略〕
(4) この他、本件全証拠を検討しても、本件配転命令が不当労働行為に該当することをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠は見当たらない。
 そうすると、本件配転命令について、不当労働行為意思ないし支配介入意思があったと認めるには足りず、本件配転命令が通信労組の組合員に対する不利益取扱い(労組法7条1号)や支配介入(同条3号)の不当労働行為に当たると認めることはできない。 〔中略〕
(ウ) 前記(イ)で認定したところをまとめると、本件配転命令3の当時、原告Eの実父が介護を要する状況にあり、実母についても頻繁に世話をすることが必要な状況にあったが、原告Eの他にその介護を行う余力のある者が家族の中にいなかったことが認められる。
 以上の事実によれば、育児介護休業法26条の趣旨も踏まえて検討すれば、本件配転命令3は、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものと認めるのが相当である。
 なお、被告は、原告Eに対し、新幹線通勤を認めているが、これにより転居(単身赴任)を避けること自体はできたものの、通勤時間に長時間(片道約2時間25分)を要するため、結局は、実父母の介護を行うことは困難となったのであるから、上記判断を左右するには至らないというべきである。
 したがって、原告Eに対する本件配転命令3は権利濫用に当たるものであり、前記(イ)で認定した諸般の事情を考慮すると、本件配転命令3による精神的損害を80万円と認めるのが相当である。〔中略〕
たしかに、証拠〔中略〕によれば、本件配転命令3の当時、原告Fの糖尿病の症状が安定していたことが認められるし、糖尿病の通院や治療自体に、地域的な差があるとは考えにくい。
 しかし、本件配転命令3に伴い、家族を伴って転居することの困難な事情がある以上(一般的に転居には負担が伴う上、上記証拠によると、原告Fには同居の長男がいること、原告Fの定年までの年数を考えた場合、一家による転居が容易でないことが推認できる。)、単身赴任にしろ、新幹線通勤にしろ、原告Fの自宅と配転先の勤務場所の距離や通勤時間を考えた場合、糖尿病の通院や治療自体に支障があるといわざるを得ない(新幹線通勤の場合、往復約2時間程度通勤時間が加算され、通院や治療時間を確保することが困難となるという支障がある上、身体的な負担も軽くない。他方、単身赴任の場合、食事療法などの点において、支障があるというべきである。)。このことは、原告Fが、平成17年4月1日、再び、被告大阪支店ソリューション営業本部へ再配転されるまでの間、幸いにも、糖尿病が特に悪化することがなかったからといって、左右されるものでもない。
 (ウ)そうすると、本件配転命令3は、原告Fに対し、糖尿病の通院や治療に支障を来し、あるいは、そのことについて不安を抱かせたということができ、通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせたというべきである。
 したがって、原告Fに対する本件配転命令3は権利の濫用に当たるものであり、前記(イ)で認定した諸般の事情(特に、糖尿病の悪化を招来することなく、新幹線通勤を終了することになったこと)を総合考慮すると、本件配転命令3による精神的損害を40万円と認めるのが相当である。〔中略〕
本件配転命令3の当時、原告Rの妻は、肺ガンの摘出手術を受け、結果は良好であったものの、未だ1年4か月が経過しただけで、再発を心配することをしなくてよいといわれる5年は経過しておらず、少なくともその間は、夫である原告Rが妻と同居し、家事による負担を軽減させるとともに、ガンの再発に不安を抱きながら生活する妻を精神的にサポートし、さらには、その日々の健康状態を子細に見守る必要性が高かったというべきである。
 そうすると、本件配転命令3は、原告Rにとって、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであると認めるのが相当である。
 したがって、原告Rに対する本件配転命令3は権利濫用に当たるものであって、前記(イ)で認定した諸般の事情を考慮すると、本件配転命令3による精神的苦痛を80万円と認めるのが相当である。〔中略〕
本件における原告Dの訴えのうち、まず、被告大阪支店(茨木)(すなわち、本件配転命令1によって勤務を命じられた被告大阪支店ソリューション営業本部大阪北ソリューション営業部第13営業担当)に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認の訴え〔中略〕については、前提事実(3)イ(別紙経歴表の4参照)のとおり、原告Dは、本件配転命令1の後、大阪支店(茨木)とは別の被告大阪支店ソリューション営業本部大阪北ソリューション営業部第11営業担当へ、さらには、被告本社マーケティング部マーケティング推進部門への配転命令を受けていることを考えると、この確認の訴えは過去の法律関係を確認しようとするものにすぎないものと認められる。
そうすると、この確認の訴えは不適法であって、却下すべきこととなる。〔中略〕
また、本件における原告Dの訴えのうち、被告大分支店において勤務すべき地位にあることの確認の訴え(前記第1の1(1)イ)については、原告Dが、被告に対し、被告大分支店において就労する権利を求めることはできないというべきであるし、被告に対し、これに対応する義務を認めさせる利益もないというべきであり、この確認の訴えについても、不適法であるとして却下すべきこととなる。