全 情 報

ID番号 : 08666
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : セコム損害保険事件
争点 : 職場秩序を乱したことなどを理由に解雇された損保会社元従業員が解雇無効の確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 礼儀と協調性に欠ける言動・態度により職場秩序を乱したことなどを理由に損害保険業を営む会社Yに解雇された元従業員Xが、同解雇は懲戒解雇であるとして、無効の確認と賃金相当額の支払を求めた事案である。 東京地裁は、懲戒解雇の意思表示のなかには普通解雇をも包含するものと解釈することが可能であり、普通解雇は通常の民事契約上の契約解除事由の1つとして位置づけられ、就業規則に逐次その事由が限定列挙されていなければ行使できないものではないとした。その上で、Xの職場における言動は、会社という組織の職制における調和を無視した態度で周囲の人間関係への配慮を著しく欠くものであり、同人の勤務態度は客観的にみて自己中心的で、職制・組織無視の考え・行動が著しく、非常識かつ度を越したものと評価せざるをえないレベルにあり、社内における組織規律違反が顕著であることと、そのことによる従業員としての適格性の欠如が顕著であることから、懲戒事由に当たるものを普通解雇したものと考えることができ、同普通解雇を解雇権の濫用として無効とすべき事情は見当たらないとして、Xの請求をいずれも棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒解雇の普通解雇への転換・関係/懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/風紀紊乱
裁判年月日 : 2007年9月14日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)3618
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例947号35頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-風紀紊乱〕
このような原告の職場における言動は,会社という組織の職制における調和を無視した態度と周囲の人間関係への配慮に著しく欠けるものである。そして,原告がこのような態度・言辞を入社直後からあからさまにしていることをも併せ考えると,原告自身に会社の組織・体制の一員として円滑かつ柔軟に適応して行こうとする考えがないがしろにされていることが推認される。換言すれば,このような原告の言動は,自分の考え方及びそれに基づく物言いが正しければそれは上司たる職制あるいは同僚職員さらには会社そのものに対してもその考えに従って周囲が改めるべき筋合いのものであるという思考様式に基づいているものと思われる。〔中略〕
 上記のような原告の問題行動・言辞の入社当初からの繰り返し,それに対する被告職制からの指導・警告及び業務指示にもかかわらず原告の職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると,原被告間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず,少なくとも平成18年3月末時点ではもはや回復困難な程度に破壊されているものと見るのが相当である。
 それゆえ,被告による原告に対する本件解雇は合理的かつ相当なものとして有効であり,解雇権を濫用したことにはならないものというべきである。〔中略〕
ここで原告の言動として問題とされているのは,原告と会社の他の人間あるいは会社側のいずれの方がその当時言っていることが正しいかということではなく,原告の言い分がある程度正論であったり,あるいは会社を良くするためという意思に発したものだとしても,その物の言い方なり,会社批判あるいは職制批判さらには自分の所属部署の上司に当たるC,Bについて人事のDにあからさまに苦情・報告する行動態度にある。自分の言っていることが間違ったことでなければ何を言ってもいいことにならないのは社会人として常識であるところ,原告の勤務態度は客観的に見て自己中心的で職制・組織無視の考え・行動が著しく,非常識かつ度を超したものと評価せざるを得ないレベルにある。〔中略〕
職場の上司に対する物の言い方というものがあるはずであり,何よりも原告における入社当初からの自己の考えを前面に出した物の言い方には,およそその職場あるいは会社に適合して職制なり職場の状況の様子を見据え一旦はその環境を受け容れた上での自己の意見の表明とはほど遠く,攻撃性が顕著であり,平成18年になってからのトイレ発言のようなもはやお互いの対立的な相容れない状況がある程度明らかになってきてからの売り言葉に買い言葉といった状況を呈している状況では上司部下といった関係を尊重した人格的な信頼関係の基礎が崩れている。繰り返しになるが原告による被告の組織体制を顧みない言動や人間関係を無視した言動は,人事への言及となって職制からも原告からも持ち込まれ,前記認定事実(2),カにおけるDによる度重なる指導につながっているもので,事態は組織統制,服務規律の維持の上で重大といわざるを得ない。〔中略〕
 確かに,被告が,当初は懲戒事由を示して本件解雇を原告に通告していることからすると,解雇以前に他の懲戒処分を選択して原告の問題行動への警告なり段階的な処分を得て解雇に至ることが望ましいといえる面はある。しかし,被告が何等の警告・指導もせずして本件解雇に至っているとしたら問題であるが,本件では懲戒処分という形ではないにしても職制を通じた通告書による指導,業務指示,あるいは人事部門や上位職制である業務部長からも指導・警告を受けるに至っている状況に照らすと,被告が他の懲戒処分を経ていないことの一事をもって適正手続違背であるものとは評価しがたい。何よりも,原告のそれまでの言動が,被告の職場の特定個人との相性の悪さとか人的確執の積み重ねによるものではなく,原告の仕事なり職場に対する考え方や世界観に発した組織と相容れないものから導かれていることからすると,本件解雇時点で,他の懲戒処分を試みる必要性に乏しく,原告の言動の修正は平成18年3月末時点においてはもはや期待できない状況にあったものと考えられる。また,当初懲戒解雇と通告しておきながらその後普通解雇であると主張しているところには,処分の性格の就業規則に照らしたあいまいさが残るものの,本件解雇の趣旨は,懲戒解雇の意思表示の中には普通解雇をも包含するものと解釈することも可能であり,本件解雇が懲戒解雇ではなく普通解雇として何等効力を持ち得ないものとまではいうことができない。解雇事由としても本件解雇時までのものとして双方が攻防を展開しているところにしたがって判断した場合に,本件解雇を懲戒解雇ではなく普通解雇として原告が受け止めたとしても攻撃防御上の支障が生じているとは考えがたい。なお,懲戒解雇としては就業規則に明示されたものでなければ原則として当該規則に則った処分をすることができないものというべきところ,普通解雇は通常の民事契約上の契約解除事由の一つとして位置づけられ,就業規則に逐次その事由が限定列挙されていなければ行使できないものではない。本件で被告は就業規則の第53条5号の制裁のため必要なときを解雇事由としているところ,要は原告の社内における組織規律違反が顕著であることとそのことによる従業員としての適格性の欠如が顕著であることから懲戒事由に当たるものを普通解雇したと考えることができる。それゆえ,原告の上記主張は当たらないものといわなければならない。
  (4) その他,本件証拠上,本件解雇が解雇権の濫用として無効とすべき事情は見当たらない。
 3 以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく原告の被告に対する請求にはいずれも理由がないものといわなければならない。したがって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。