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ID番号 : 08683
事件名 : 賃金請求事件
いわゆる事件名 : バズ(美容室副店長)事件
争点 : 美容室を営む会社の元副店長が、時間外手当、遅延損害金、付加金を請求した事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 美容室を営む会社Yの副店長を経て退職した美容師Xが、勤務時における時間外手当等を請求した事案である。 東京地裁は、まず「管理監督者性」について、Xは、Yの経営・人事・労務管理等に副店長としてある程度関与していたといえるもののその関与は限定的であり、副店長としての処遇といえるほどの処遇も受けておらず、また、仕事に裁量性は認められるものの経営・人事・労務管理等へ関与は限定的で、格別の金銭的処遇を受けていたわけでもないとして、労基法41条2号にいう「管理監督者」ではないとした。 次に時間外手当の不支給合意の有無について、基本給と歩合給という賃金体系が美容師業界において一般的であり、Xが歩合給に同意していたとしても時間外手当の支払を免れるものではなく、歩合給の中に時間外手当が含まれているとか、賃金に当たる部分と時間外手当に当たる部分とを判別できるに足る証拠もない以上、仮に合意が成立していたとしても労働基準法13条により無効であるとして、Yの主張を退けた。しかし、付加金支については、Yが時間外手当を支給しなかった態様が悪質であるとまではいえないとしてXの請求を退けた。
参照法条 : 労働基準法37条
労働基準法114条
労働基準法41条2号
体系項目 : 労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
労働時間(民事)/裁量労働/裁量労働
裁判年月日 : 2008年4月22日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)28069
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例963号88頁
審級関係 :
評釈論文 : 平松真二郎・季刊労働者の権利275号66~69頁2008年7月
判決理由 : 〔労働時間(民事)-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
〔労働時間(民事)-裁量労働-裁量労働〕
原告は、自らの業務内容について、その内容及び時間を決定する上で裁量があり、副店長兼トップスタイリストとして、被告代表者、店長に継ぐ地位にあり、店舗経営(サロンワーク)に関しては、被告代表者ともに中心的な役割を担っていたといえるけれども、被告の経営、人事、労務管理等へ関与は限定的であり、格別の金銭的処遇を受けていたわけでもなく、自らの労働時間についても被告による出退勤管理を受けていたものであるから、労働条件の決定その他労務管理について経営者である被告と一体的立場にあるとまでいうことはできない。
 したがって、原告は、労働基準法41条2号にいう「管理監督者」ではないというのが相当である。〔中略〕
基本給と歩合給という賃金体系が美容師業界において一般的に使用されているとしても、歩合給の賃金体系をとって、それに同意していることをもって労働基準法37条の時間外手当の支払を免れることができるものではない(労働基準法37条1項、4項、労働基準法施行規則19条1項6号は、歩合給であっても時間外手当の支払があることを予定している。)。そして、被告が原告に対して支給した歩合給(ないし職務手当)について、そのなかに時間外手当が含まれているとか、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外手当に当たる部分とを判別することができるといったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、仮に被告主張の合意が成立していたとしても、労働基準法13条により無効であるから、被告の前記主張は失当というほかない。〔中略〕
 そうすると、被告が、歩合給の賃金体系が美容師の労務の特殊性から導かれる必要的かつ合理的な賃金算定方法であるという認識のもと、被告が時間外手当を支給しなかった態様が悪質であるとまではいえず、付加金という制裁を課すことが相当でない事情があると認められる。
 したがって、被告に対し、労働基準法114条に基づく付加金の支払を命ずることはしない。