全 情 報

ID番号 : 08687
事件名 : 退職金等請求事件(18945号)、損害賠償請求事件(7850号)
いわゆる事件名 : インフォーマテック事件
争点 : 整理解雇された会社の元従業員が退職金と損害賠償を、会社がビラ配付等に対する損害賠償をそれぞれ請求した事案(労使双方の請求を認容)
事案概要 : マーケットリサーチ会社Yから業績悪化を理由に整理解雇された元従業員Xが、退職金規程に基づく退職金と違法な解雇による損害賠償を求め、一方、Y及びYの代表者らが、Xの加盟していた組合が行ったビラ配布行為により名誉を毀損されたとして損害賠償を請求した事案である。 東京地裁は、まず退職金規程の存在について、就業規則の体裁で退職金に関する規程が作成され、Yの従業員Y2(Yの代表者Y1の妻)の押印がされているとして規程の存在を肯定し退職金の支給を認めた。また、人員整理自体の必要性はあったものの、解雇回避の努力がされていたとは認められないとして、不法行為も認定した(金額は請求額を大幅に減額)。 一方、Yらの反訴請求については、Xら組合側の取引先へのビラ配布行為が、あたかもY1らが横領をしたかの印象を持たせるものであり、表現の自由や団結権を理由に保護されるものではないとしてXらの不法行為を認定し、損害賠償を命じた。
参照法条 : 労働基準法2章
労働基準法89条
労働基準法90条
民法709条
体系項目 : 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
賃金(民事)/退職金/退職金請求権および支給規程の解釈・計算
就業規則(民事)/就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立/就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働者の損害賠償義務
裁判年月日 : 2007年11月29日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)18945、平成19(ワ)7850
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例957号41頁
審級関係 : 控訴審/東京高/平20. 6.26/平成20年(ネ)200号
評釈論文 : 小宮文人・法学セミナー54巻6号133頁2009年6月
判決理由 : 〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔賃金(民事)-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
〔就業規則(民事)-就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立-就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
退職金制度の創設により、退職金支払義務を従業員に対して負ったために、そのための引当金を計上して、その証憑として本件規程を税務署に提出したのであるから、その段階で、本件規程は、被告会社代表者の内部的取扱基準ではなく、少なくとも外部的には成立しているものと解するべきである。
〔中略〕当該就業規則が、外部的に成立して従業員に実質的に周知された段階で、本件規程は、労働者に対する客観的な準則になったものであると解するのが相当である。そうすると、平成6年11月段階で従業員である乙事件原告月子に、平成12年9月段階で、代表者である乙事件原告一郎の主観的意図はともかく、客観的には、被告会社の取締役によって、その余の全従業員にも周知されているのであるから、本件規程は、労働者の権利義務を画する意味での就業規則として成立したという結論になる。〔中略〕
平成11年11月30日に本件規程を廃止したとの被告会社の主張を採用する余地は全然存しない。〔中略〕
人員整理の必要性自体は、これを肯定できる。〔中略〕被告会社の売上は、資料が提出されている限度で判断すれば、遅くとも平成15年事業年度以降の3年間は、一貫して減少し、平成17年事業年度には、平成14年事業年度の売上の半分になっているのだから、どの時点でどのような規模の人員整理をするかはともかくも、一定の人員整理の必要性自体は肯定できる。上記認定事実のとおり、原告は、給与を月額10万円にすることを迫られた段階から、整理解雇の受入を視野においた交渉をしていたのであり、原告としても、被告会社の事業を見限る態度が認められるのであり、その意味でも、人員削減の必要性自体は肯定できる。ただし、〔中略〕被告会社は創業から極めて順調に業績を上げてきたのであり、別途積立金や、解約により多額の営業外収益が見込まれる保険料の計上額が多額なのであるから、平成18年3月という本件解雇時において、他の解雇回避努力を尽くし、被解雇者の選定等に関して、被解雇者の理解のプロセスを経るだけの余裕は十分にある経営状態であったものと認められる。
 被解雇者として原告を選定したことについて、両当事者が問題にするのは、従業員である乙事件原告月子との比較であるが、乙事件原告月子が代表者である乙事件原告一郎の妻であるという以上に、どれだけの仕事をしているかについての客観的な証拠は全くないことから、被解雇者の選定として、原告以外にあり得なかったというだけの根拠が立証されているとはいえない。
 〔中略〕被告会社が、特に解雇回避努力をとった形跡は存しない。被告会社が解雇回避努力として主張する内容は、被告会社の代表者である乙事件原告一郎の役員報酬の削減、家賃支出の削減、原告の雇用確保のため給与を月額10万円にすることの提案である。しかし、〔中略〕乙事件原告一郎の役員報酬は年度によってまちまちで、定額の役員報酬の削減とは次元の異なるものである。むしろ、被告会社のほとんどの株式の保有する代表者である乙事件原告一郎は、業績に応じた役員報酬を得ていたものと認められるのであり、乙事件原告一郎の役員報酬が減っていることを解雇回避努力とは評価できない。家賃支出の削減は一般的な経費削減というべきであるし、原告の賃金を大幅に減額する提案を解雇回避努力と評価するのは困難である。
 さらに、本件解雇が行われた平成18年3月8日までのプロセスを見て特徴的なことは、20年以上被告会社に就労して特に責めに帰すべき事情の見当たらない原告に対し、被告会社が整理解雇を行うについて、その理解と納得を得ようとした形跡が認められないことである。〔中略〕A取締役は、当初から整理解雇をするのが適当であるとの思いを持って、賃金を70%減額するという提案をし、不正確な被告会社の業績に基づく説明をし、10日余りの交渉の中で、会社の客観的な状況の説明を客観的な資料に基づいて説明することなく、解雇の時期についての原告の提案に理解を示すこともなく、上記判断のとおり、明らかに支払義務を負うべき退職金の支払まで拒絶するというものであって、その一貫した態度は、対等の契約当事者として、整理解雇を行う際の使用者の態度とはかけ離れているものといわなければならない。
 以上のような本件解雇をした際の被告会社の状況、解雇の経緯からすれば、本件解雇自体が権利濫用に該当するものであり、不法行為に該当するという評価を受けることは明白であるといわなければならない。〔中略〕
 原告は、違法な本件解雇により、約20年間続いてきた被告会社からの収入を絶たれ、その年齢から見ても再就職が困難な状況に置かれたことを考慮すれば、退職時の給与の6か月分を以て、被告会社による違法な本件解雇との相当因果関係があると解するのが相当である。
 被告会社は、失業手当の給付を受けているから、その分を損害額評価に反映すべきであると主張するが、失業手当は、社会政策上の理由から、退職の理由を問わず認められる制度であることから、被告会社の上記主張を採用することはできないし、損害額の評価を動揺させる事情ではない。また、被告会社は原告に対し、いったんは、1か月分の給与相当額を支給したものの、これは原告が返却し、被告会社がこれを受領したことは当事者間に争いがないのであって、これも損害額の評価を左右する事情ではない。
 原告は、本件解雇により精神的苦痛を受けたとして、慰謝料の請求をする。しかしながら、本件解雇は違法であるとしても、原告は、自己責任の帰結として、被告会社との間で自らの意思によって雇用契約関係を締結しているのであり、上記判断のとおり、本件解雇後の相当期間の得べかりし利益の損害賠償が肯定される本件において、さらに精神的苦痛を損害賠償として認めるのは相当でない〔中略〕
 本件ビラの内容について、原告は、乙事件原告らが被告会社の資産を私物化し、横領したことの調査を回避する動機として本件解雇をしたという事実を摘示したのであり、横領等をしたという事実自体を摘示したのではないと主張する。しかし、通常の一般人として本件ビラを読むと、乙事件原告らが横領又はそれに近似する犯罪行為を行ったかのような印象を受ける内容であり、むしろ、その印象を植えつけることを意図したビラであるとの評価は免れない。してみると、被告会社の大半の株式を保有する乙事件原告一郎とその妻である乙事件原告月子の行為を横領と評価し得るかについて、真実性やそう信じるについての相当性の立証を果たしていると評価することはできない。さらに、ことさらに上記判断のとおりの印象を受ける本件ビラを、被告会社の取引先に郵送し、乙事件原告らの自宅の近隣の郵便受けに投函するという行為態様は、狡猾かつ悪質といわざるを得ず、これを表現の自由とか、団結権の保障の一環として保護する対象の行為と評価をすることはできないものである。前記判断のとおり、本件解雇が違法なものであるとか、解雇後の団体交渉で思うような進展がなかったとか、当該行為は1回行ったのみで、仮処分手続で和解成立後は行っていないというような事情は、慰謝料額の算定においては考慮する余地があるものの、不法行為の成否にとっては、影響を及ぼす事情とはいえない。そして、原告は、組合によるこれらの行為に共謀の上、重要な役割を担ったのであり、原告についての不法行為責任は免れない。
 本件ビラの被告会社の取引先への郵送により、被告会社は、顧客に関する情報が外部に流出したことが取引先に判明し、信用の一端を毀滅したことは疑う余地はない。また、特に乙事件原告月子は、被告会社の一従業員の身でありながら、本件解雇に際して、名誉を毀損される被害を受けたのであるし、乙事件原告一郎も被告会社の代表者として、本件解雇をめぐる行動には落度が認められるにしても、真実か否かはともかくも、横領をしたかのような本件ビラの配布により、名誉が毀損されるという結果が生じたものと認められる。