全 情 報

ID番号 : 08693
事件名 : 賃金請求事件
いわゆる事件名 : 日本構造技術事件
争点 : 会社で希望対退職募集に応じた元従業員らが賃金凍結措置に対する差額支払等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 建設コンサルタントを主たる業務とする会社Yで希望対退職募集に応じた元従業員(X1~X19)らが、退職前の賃金凍結措置(5~15%削減)に対する差額支払及び時間外割増賃金を求めた事案である。 東京地裁は、まず賃金減額について、減額の合意はなかったとしつつ、それが一時的な凍結か確定的な減額かは明らかでなく、また就業規則の変更もなされておらず、実施の仕方が公平になされていないことから法律的な根拠を欠く違法・無効なものであるとして、差額賃金支払義務があるとした(時間外賃金も認定したが、Yの消滅時効の主張を一部認容)。
参照法条 : 労働基準法9章
労働基準法3章
労働基準法4章
体系項目 : 賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 : 2008年1月25日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)29846
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例961号56頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
当事者間において、賃金減額についての合意は成立していないものというべきである。〔中略〕
就業規則の不利益変更に関する合理性の要件を検討するまでもなく、被告による原告らへの賃金カットは法律的な根拠を欠く違法・無効なものであるといわざるを得ず、原告らの被告に対する別紙5の給与凍結額内訳の正規給与額と支払額との差額である凍結額欄記載の未払賃金が発生していることになる。〔中略〕
原告Aについては、別紙5の「給与凍結額内訳」の従業員分の平成16年7月分以降の合計額によるべきである。この点、上記経営者会議に参画していることから、原告Aは、従業員分の給与の減額にも同意していると考える余地もある。しかし、原告Aが取締役会議において参画したのはあくまで取締役としてであり、同人が取締役であったのは平成16年10月25日までであったことが弁論の全趣旨から明らかであることからすると、少なくとも平成16年11月以降の従業員としての賃金分については別紙5「給与凍結額内訳」の凍結額賃金の合計額に対して同意があったものとまではいえないものというべきである。〔中略〕
取締役当時のAを除く原告らはいずれも管理監督者とはいえないものというべきである。〔中略〕
原告Aについては、証拠〔中略〕及び弁論の全趣旨からすると、平成16年10月25日までは取締役であったのであり、その間従業員を兼務していたとしても、経営者と一体にある管理監督者として残業代は発生しないものと考えるのが相当であり、被告に請求できるのは、取締役を退任した後である平成16年11月以降についてはさらに経営者と一体と認められるような特段の事情のない以上は他の原告らと同様に時間外労働賃金が発生するものと考えるのが相当である。〔中略〕
被告における作業時間集計方法に従ってインプットされたデータを被告のコンピュータから打ち出したものが、平成15年4月から平成17年3月までの原告ら各人の所定時間外労働時間として甲第5号証のとおり(原告ら以外の者らを除く)のものである。
 これによると、原告らの上記期間に対応する時間外割増賃金は、別紙3の時間外割増賃金一覧表中の「時間外労働時間」のとおりとなるところ(前提事実のとおりこの点は当事者間において争いがない)、これから課長補佐以上の役付手当を当該期間中に受給している者につき月当たり30時間分の時間外労働分の賃金が上記役付手当に仮に含まれているとして月々の時間外労働時間から30時間を超える分を未払時間外労働時間として考えて割増賃金額を計上したものが(ここでは、原告らが役付手当分を月30時間分としているが、そのような固定残業代として認定できるかどうかは別にして、便宜、原告らがあえて30時間分を控除して請求しているものと考えて、これに従うこととした。)、別紙3の時間外割増賃金一覧表中の平成15年4月から平成17年3月までの「割増賃金額」のとおりであり、その他の一般職の者には前記認定事実(4)のとおり、平成16年2月支給分の給与以降、被告から残業の上限を月当たり40時間と制限されていることから、同月以降の既支給された月額40時間を超える分を未払時間外労働時間として考えて割増賃金額を計上したものが、別紙3の時間外割増賃金一覧表中の平成16年2月から平成17年3月までの「割増賃金額」のとおりである。
 この点、原告らは、課長補佐以降の原告らを除く原告G、同H、同I、同J、同K、同L、同Oについて、平成16年1月までの間は60時間以下の時間外労働時間について割増賃金が支払われていて、別紙3はその分を前提に未払時間外労働時間及び割増賃金額を計上しているものの、後記のように同原告らの割増賃金請求は平成16年6月以前のものは時効消滅しているものと考えられるので、ここではそのような取扱の実態があったか否かについては認定判断の要を認めない。〔中略〕
平成16年2月以降の賃金カットによる未払賃金については、別紙5の「給与凍結額内訳」のうち、原告ら各人につき、平成16年7月分以降の合計額が未払賃金債権として権利行使できることになり、時間外割増賃金については、別紙3の「時間外割増賃金一覧表」中の平成16年7月以降発生分の合計額が未払時間外割増賃金として権利行使できることになり、原告ら各人ごとに本件で請求可能な未払賃金及び時間外割増賃金は、別紙「計算表(未払賃金)」及び別紙「計算表(時間外割増賃金)」のとおりとなる。
 これらを取りまとめると、原告ら各人ごとに被告に請求できる賃金債権としては、別紙「合計支給額(未払賃金合計+時間外賃金合計)」のとおりとなる。
5 以上によれば、時間外労働によるものを含めた被告の原告らに対する未払賃金は別紙の「合計支給額(未払賃金合計+時間外賃金合計)」のとおりになるところ、これらに対する各遅延損害金を合わせた範囲で原告の請求には理由があるので認容することとし、その余は理由がないので棄却することとして、主文のとおり判決する。