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ID番号 : 08754
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 東和システム事件
争点 : ソフトウェア会社社員が時間外手当等の支払と将来の各請求権の存在確認を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : ソフトウェア開発会社の課長代理の職位にあった後、職制改革時に旧待遇を受け、その後課長補佐に任命されたシステム・エンジニアらが、〔1〕時間外手当及び付加金、〔2〕新職制下と旧職制下の職務手当の差額を求め、併せて、〔3〕時間外手当請求権、〔4〕新職制下での課長職としての職務手当請求権、〔5〕管理職にのみ支給される特励手当請求権、〔6〕管理職扱いでの計算による退職金請求権、の各存在確認を求めた事案である。 東京地裁は、〔1〕まず時間外労働の時間について主張どおり認定し、特例手当(旧精励手当)は時間外手当見合いのものであり、課長補佐らが労基法41条2号にいう管理監督者であるとの会社の主張に対しては、課長補佐らは統括的な立場になく裁量権も与えられていないとしてこれを斥け、特例手当てを時間外手当算定の基礎に加え、時間外手当と付加金を命じた(ただし、過去2年を超えた請求分については会社主張を容れて時効消滅を認めた)。一方、〔2〕課長職についたことはないから職務手当を請求し得る根拠はなく、差額の請求も理由がないとし、また〔3〕未だなしていない時間外労働に対する時間外手当請求権の確認請求は不確定な訴えであって不適法であり、確認の利益がないとして認めず(〔6〕についても同様)、〔5〕将来の特例手当についても確認の利益がないとして認めなかった。
参照法条 : 労働基準法37条
労働基準法41条
労働基準法115条
民事訴訟法134条
体系項目 : 労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
賃金(民事)/割増賃金/支払い義務
裁判年月日 : 2009年3月9日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)6975
裁判結果 : 一部認容、一部却下、一部棄却
出典 : 判例タイムズ1307号164頁
労働判例981号21頁
労働経済判例速報2036号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 中山慈夫・ジュリスト1392号196~199頁2010年1月1日
判決理由 : 〔労働時間(民事)-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
〔賃金(民事)-割増賃金-支払い義務〕
4 争点3(原告らは労基法41条2号にいう管理監督者か)について
(1) 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。具体的には、〈1〉職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、〈2〉部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、〈3〉管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、〈4〉自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること、以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
 以下では原告らにつき、これらの要件を満たすかを検討する。
(2)ア 部門全体の統括的な立場にあるか否かについて
 被告は、原告らの職制上の地位「課長代理」でなく、特定の業務における地位である「プロジェクトリーダー」の権限等について、管理監督者であると主張するようである。しかしながら、証拠(〈証拠略〉、原告ら各本人)によれば、プロジェクトリーダーは、個々のシステム開発等の業務(プロジェクト)ごとに選任され、プロジェクトによっては、原告らよりも職制上上位にある者がプロジェクトに入っていても、適性等によっては、例えば原告らが、それを追い越してプロジェクトリーダーに選任されることがあり、原告らもやや大きめのプロジェクトチームになると、リーダーでなくメンバーとなることもあるなど、職制上の地位と不可分ではないことが認められる。とすれば、原告らが常にプロジェクトリーダーという地位にあるわけではないことから、プロジェクトリーダーという地位の管理監督者性を検討するのはそもそも疑問がある。それでも一応この点を検討すると、前記証拠及び証拠(〈証拠略〉、原告丙川、乙山各本人)によれば、プロジェクトの人数はプロジェクトリーダーごとに異なるが、被告従業員1名ないし案件によっては最大100名程度のものまであり、原告らは、最大でも4~5名のプロジェクトチームのリーダーに選任されることが多く、プロジェクトによっては、原告らよりも職制上上位にある者(統括部長、部長、次長等)がプロジェクト責任者に選任される。
 しかし、原告らは、プロジェクトチーム内ではリーダーとして存在しているが、プロジェクトチームの構成員を決定する権限もなく、パートナーと呼ばれる下請会社を決定する権限もなく、それは上記の職制上上位にある統括部長、部長、次長等が決定しており、また、原告らはプロジェクトのスケジュールを決定することもできず、こちらは被告の重要な顧客であるA会社が決定しており、作業指示もA会社の決定したマスター線表という計画表に沿って行われるものと認められる。このような状況下で、この程度の部門を統括することでは、部門全体の統括的な立場にあるということは困難である。
 イ 部下に対する労務管理上の決定権等について本件全証拠によっても、原告らが、その部下であるチーム構成員(作業担当者)の人事考課をしたり、昇給を決定したり、処分や解雇を含めた待遇の決定に関する権限を有していた事実は認められない。従業員の新規採用を決定する権限があるどころか、上記ア認定のように、プロジェクトチームの構成員を決定する権限すらない。被告が主張するように、原告らが部下の休暇の承認をしていたとしても(それすら、より上位の者の決裁を得ていたようであるが)、このような状況下では、原告らが経営者と一体的な立場にあるものということは、到底できない。
 また、証拠によれば、原告らが、前記スケジュールに拘束されて、出退勤の自由を有するといった状況で到底ない事実も認められる。
 以上検討したところによれば、その余の要素について検討するまでもなく、原告らは、管理監督者には当たらないというべきである。したがって被告は、原告らの時間外労働に対する手当の支払を免れないというべきである。〔中略〕
6 争点5(職務手当の請求の成否)について
 平成17年11月1日の被告の新職制導入前は、課長代理である原告らには、1万5000円の職務手当が支給されていたが、導入後も、旧職制のままその待遇は据え置かれ、同額の職務手当が支給された。さらに、平成20年11月1日の就業規則の変更後も、原告らの職務手当の額に変化はない。
 原告らは、原告らに支給されるべき職務手当の額が2万5000円であると主張し、実際に支給された額との差額を請求する。しかしながら、2万5000円という額は、新旧いずれの職制及び就業規則変更後を問わず、課長の職務手当であるところ、本件全証拠によっても、被告が原告らを被告の課長に任命した事実は認められない。そしてほかに、原告らが2万5000円の職務手当を請求し得る根拠は見当たらない。したがって、結局、原告らが上記額の職務手当を請求し得る根拠はなく、差額の請求も理由がない。
7 争点6(確認請求における確認の利益の有無)について
(1) 給与規程(平成12年4月1日改訂)22条に基づく時間外手当請求権の確認請求について
 既に判示したように、本件において、原告らの請求している時間外手当の請求は理由がある。同請求は過去の時間外労働に対する時間外手当の請求であるところ、この部分については、原告らは給付請求をしている以上、確認請求することは、確認の利益がなく、認められない。
 将来の時間外手当請求権の確認請求については、時間外手当は時間外労働の対価として発生するものであり、時間外労働をすることなく時間外手当が発生することはあり得ない。したがって、原告らが、まだしていない時間外労働に対する時間外手当請求権の確認請求をしているのであれば、そのような不確定な訴えは不適法であり、確認の利益がなく、認められない。〔中略〕
8 付加金の請求について
 本件において、被告は、原告らに対し時間外手当を支払わず、本件訴訟提起後も、和解において時間外手当を支払うとしつつ、特励手当を控除すると主張するなど、結局時間外手当を支払う姿勢が見られないから、付加金の支払を命ずるのが相当である。付加金の額は、各原告につき、別表1ないし3の「〈5〉付加金」の欄の最下段の合計欄(略)のとおりである。