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ID番号 : 08762
事件名 : 不当解雇損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 : 京電工事件
争点 : 電気通信設備工事会社を諭旨解雇された労働者が損害賠償、残業代等の支払を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 電気通信設備工事会社の労働者が、自主退職の名目で懲戒解雇同様の不利益処分を下されたとして、不法行為に基づく損害賠償の支払、また労働契約及び労働基準法に基づき、残業代の未払分の支払、並びに労働基準法114条所定の付加金の支払をそれぞれ求めた事案である。 仙台地裁は、労働者が度重なる過失により会社に重大な損害を与えたと評価でき、諭旨解雇処分を行うに足りる合理的な理由があったというべきであるが、本件処分は懲戒処分の一種であるから、処分を行う際には懲戒処分であることを明示した上で、その根拠規定と処分事由を告知すること、及び諭旨解雇事由のあることについて労基署長の認定を受けた場合のほかは、少なくとも30日前に予告をするか、又は平均賃金の30日以上の予告手当を労働者に支払う必要があったが、本件処分では、過失により上記手続がとられておらず違法といわざるを得ないとして、損害賠償を命じた。割増賃金については、請求された時間には実際就業していない時間が相当あることが窺われるが、タイムカードに打刻された時間は仕事に当てられたとの推定を覆すのは困難として、労働者の請求を認めた(ただし付加金の額は対象金額の5割と認定)。
参照法条 : 労働基準法2章
労働基準法114条
労働基準法20条
体系項目 : 雑則(民事)/付加金/付加金
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/職務能力
解雇(民事)/労基法20条違反の解雇の効力/労基法20条違反の解雇の効力
退職/任意退職/任意退職
賃金(民事)/割増賃金/支払い義務
裁判年月日 : 2009年4月23日
裁判所名 : 仙台地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)1560
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例988号53頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔雑則(民事)-付加金-付加金〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務能力〕
〔解雇(民事)-労基法20条違反の解雇の効力-労基法20条違反の解雇の効力〕
〔退職-任意退職-任意退職〕
〔賃金(民事)-割増賃金-支払い義務〕
 1 本件不法行為に基づく請求について〔中略〕
したがって、上記の経過で作成提出された本件退職届の存在をもって、原告が、任意かつ自主的に本件雇用契約の解消を決断したと評価することは困難といわざるを得ない。この点に関する被告の主張は採用できない。
  しかるところ、規則37条4号によれば、被告には懲戒処分の一つとして諭旨解雇が規定されており、その内容は、始末書を提出させ、説諭の上自発的に退職させるものとされている。上記の事実によれば、原告が平成19年6月29日に作成提出した6.28事故にかかる「事故報告書」と題する書面は、その記載内容から見て上記始末書に該当すると解される上、被告代表者が平成19年7月9日に原告に対して告知した内容も、原告に説諭の上で原告を自発的に退職させるものに他ならないと言えるから、本件退職届は、正に被告が原告に対して諭旨解雇を言い渡した際に作成された文書に他ならないと認めるのが合理的である。したがって、始末書の提出と本件退職届の提出をもって二重処分とする原告の主張は理由がない。
  (3) 上記によれば、被告が原告に対して本件退職届の提出を命じたのは、原告に対して懲戒処分の一種である諭旨解雇処分(以下「本件処分」という。)を行ったものと認めることができるから、本件処分に合理的な理由があるかどうかについて、以下検討する。
  ア 規則上、諭旨解雇事由は明確には規定されていない。しかし、その諭旨解雇処分の内容は、説諭の上で自発的に退職させるというものであり、自発的という文言が使われてはいるものの、懲戒処分としてなされるものである以上、労働者の自由意思が入り込む余地は少ないと言え、労働者にとっては懲戒解雇に準ずる程度の不利益を与えるものということができる。したがって、その事由も、規則38条2項の懲戒解雇事由に準ずるものと解するのが合理的である。
  イ 本件において、被告が主張する原告の問題行動は、懲戒解雇事由の一つである「故意または重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき」(規則38条2項4号)に関係する事由であると考えられるところ、当裁判所は、上記の事実は、これを総合すれば、原告が重大な過失により会社に重大な損害を与えたときに該当すると判断する。その理由は、以下のとおりである。〔中略〕
  (エ) 上記の事情を総合すれば、原告が重大な過失により会社に重大な損害を与えたと評価することは十分可能というべきである。
  (4) 上記のとおり、原告には諭旨解雇処分を行うに足りる合理的な理由があったというべきであるが、本件処分は懲戒処分の一種であるから、これを原告に対して行う際には、懲戒処分であることを明示した上で、その根拠規定と処分事由を告知すること、及び諭旨解雇事由のあることについて労働基準監督署長の認定を受けた場合のほかは、少なくとも30日前に予告をするか、又は平均賃金の30日以上の予告手当を原告に支払うことが必要があったというべきである(労働基準法20条、規則27条2項)。本件処分においては被告の過失によって上記手続がとられていないことが認められるから、本件処分はその手続において違法といわざるを得ず、原告に対する関係で不法行為(本件不法行為)が成立するというべきである。〔中略〕
  (6) よって、原告の被告に対する本件不法行為に基づく請求は、損害賠償として、67万2700円及び本件不法行為の日(本件退職届提出の日)である平成19年7月9日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。
 2 割増賃金請求について
  (1) 当裁判所は、前記前提事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、原告が、被告において、平成17年12月1日から平成19年7月9日までの間に行った時間外労働、深夜労働及び休日労働の時間は、別紙1に記載のとおりと認定するのが相当であると判断する。その理由は、以下のとおりである。〔中略〕
労働基準法は、賃金全額支払の原則(同法24条1項)をとり、しかも、時間外労働、深夜労働及び休日労働についての厳格な規制を行っていることに照らすと、使用者の側に、労働者の労働時間を管理する義務を課していると解することができるところ、被告においてはその管理をタイムカードで行っていたのであるから、そのタイムカードに打刻された時間の範囲内は、仕事に当てられたものと事実上推定されるというべきである。仮に、その時間内でも仕事に就いていなかった時間が存在するというのであれば、被告において別途時間管理者を選任し、その者に時計を片手に各従業員の毎日の残業状況をチェックさせ、記録化する等しなければ、上記タイムカードによる勤務時間の外形的事実を覆すことは困難というべきである。しかし、上記同僚従業員は各従業員の残業時間をチェックすることをその業務としていたわけではないし、被告代表者やAら幹部も、原告の残業の実情については、本件裁判における上記同僚従業員の陳述・供述によって初めてその実態を知ったに留まるのであるから、上記同僚従業員の陳述・供述のみでは上記推定を覆すには足りないと見るのが合理的である。
  (2) 被告は、原告が労働基準法41条2号にいう管理監督者に該当するから、割増賃金の支払義務はないと主張する。しかし、原告は被告に在職当時係長の職にあったものであるところ、規程4条によれば、被告において管理職は課長以上の者をいうとされており、係長は被告の賃金体系上管理職とは位置づけられていない(甲3)こと、原告には基本給のほかに時間外手当が定額で実際に支払われていたこと、原告にはタイムカードによる時間管理が行われていたことを総合すれば、原告が労働基準法41条2号にいう管理監督者に該当すると認めることは困難というほかなく、この認定に反する被告代表者の陳述・供述は採用の限りではない。〔中略〕
  (3) そうすると、原告の、平成17年12月1日から平成19年7月9日までの間の時間外労働、深夜労働及び休日労働の時間に対応する割増賃金額を算定すると、389万8253円となる。
  (4) 付加金は、違反のあったときから2年以内に行使すべきものとされているところ(労働基準法114条ただし書き)、本訴においてその請求がなされたのは平成20年2月21日であるから、上記に認定した割増賃金額のうち平成18年2月分以降の割増賃金はすべて付加金の対象となる。しかし、上記のとおり、原告が勤務時間後も会社内に詰めていたときでも、パソコンゲームに熱中したり、あるいは事務所を離れて仕事に就いていなかった時間が相当あることが窺われるのであるから、その対象金額すべてを付加金とすることは相当ではないというべきであり、本件において、付加金の額は、上記対象金額の5割に相当する186万8002円(円未満切り捨て)と認めるのが相当である。