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ID番号 : 08780
事件名 : 損害賠償等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 京都市(教員・勤務管理義務違反)事件
争点 : 公立小・中学校の教員らが、時間外勤務を違法に行わせたとして損害賠償等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 公立小・中学校の教員9名が、平成15年法律117号改正前の「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」ないし職員の給与等に関するY市条例に規定する例外的時間外勤務以外の時間外勤務を、違法な黙示の職務命令等に基づき、また、健康保持のための時間外勤務を防止しなければならないという安全配慮義務に違反して行わせたなどとして国賠法1条に基づき損害賠償等の支払を求め、若しくは労基法37条又はワークアンドペイの原則等に基づく未払賃金の支払等を求めた事案の控訴審である。 第一審京都地裁は、自由意思を強く拘束するような状況下で時間外勤務命令がなされたりしたことはないとし、また、労基法37条又はワークアンドペイの原則等に基づく賃金請求権も生じないとする一方、1名についてのみ事務の分配等を適正に管理する義務に違反していたことを認め、Y市に慰謝料の支払を命じたため双方控訴。 第二審大阪高裁は、基本的には原審の判断を踏襲し、給特法等の法令の趣旨に違反する行為はなかったとしつつ、管理義務違反についてより詳細に検討し、第一審の1名に加えて2名に対してもこれを認め、Y市に慰謝料の支払を命じた。
参照法条 : 労働基準法33条
国家賠償法1条
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法7条
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法11条
日本国憲法14条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
賃金(民事)/割増賃金/違法な時間外労働と割増賃金
賃金(民事)/賃金請求権の発生/労基法違反の労働時間と賃金額
賃金(民事)/割増賃金/立法による労基法37条の適用除外
裁判年月日 : 2009年10月1日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(ネ)1564
裁判結果 : 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却
出典 : 労働判例993号25頁
審級関係 : 一審/08642/京都地平成20. 4.23/平成16年(ワ)第145号
評釈論文 : 福山和人・季刊労働者の権利283号62~65頁2010年1月 山本圭子・季刊教育法165号90~96頁2010年6月
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔賃金(民事)-割増賃金-違法な時間外労働と割増賃金〕
〔賃金(民事)-賃金請求権の発生-労基法違反の労働時間と賃金額〕
〔賃金(民事)-割増賃金-立法による労基法37条の適用除外〕
1 当裁判所は、一審原告らの本件各請求は、一審原告C、一審原告H、一審原告I(以下「一審原告Cら3名」という。)が一審被告に対し各55万円及びこれに対する平成16年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、一審原告Cら3名のその余の請求及びその余の一審原告らの一審被告に対する各請求は、いずれも理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。〔中略〕
また、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである(参照・最高裁判所平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁)。〔中略〕
「 上記で認定したところに加え、J校長は、一審原告C作成の週案に対し、ほぼ毎週コメントを付しており、その中には、調査期間外であるが、「毎日遅くまでありがとうございます」との記載があり、また、教頭によるものではあるが、「休日にうさぎやにわとりのエサやりありがとうございます」との記載があること、上記週案には、指導時数表が設けられ、各週の教科毎の予定時間数のほか、累計の実績時間数がその都度記載されており、平成16年3月第4週の週案には本週13時間、累計実施1102.5時間(但し、音楽の57時間を含む。)との記載があること、修学院小学校は、一審被告教育委員会から平成15年度の研究発表校として指定されたため、研究発表を行い、その成果を冊子にまとめるなど、一審原告Cを初めとする教育職員がその準備に相当の時間を費やしたと認められること、一審原告Cは5年生の学年主任として、新規採用者の支援指導にあたることが期待されたり、上記研究発表とも関連する年間110時間に及ぶ総合学習の準備の中心的役割を担っていたこと、J校長もしくは教頭が学校を出るのは午後9時ころであり、平成16年度には職員室に9時には帰りましょうという貼り紙がされていた時期があったこと、5年生の行事であるみさきの家での2泊3日の野外活動の実施について、学年主任である一審原告Cは、事前準備、当日の指導、事後整理などに相当の労力を費やしており、J校長も、週案において、「みさきの家にむけての緒々の準備、ありがとうございます。」「みさきの家でのご指導本当にお疲れでした。大変に感謝しています。きちっとしたご指導でした。」とコメントしていることなどからすると、J校長は、一審原告Cの時間外勤務が極めて長時間に及んでいたことを認識、予見できたことが窺われるが、それに対して、改善等の措置を特に講じていない点において、適切さを欠いた部分があるというべきであり、一審原告Cの時間外勤務の時間からすると、配慮を欠くと評価せざるを得ないような常態化した時間外勤務が存在したことが推認でき、J校長は、同一の職場で日々業務を遂行していた以上、そうした状況を認識、予見できたといえるから、事務の分配等を適正にする等して一審原告Cの勤務が加重にならないように管理する義務があったにもかかわらず、必要な措置をとったとは認められないから上記義務違反があるというべきである。」〔中略〕
 「一審原告Hは、平成14年度に引き続き平成15年度も樫原中学校の生活指導部長の立場にあり、3年生を担任していたところ、生徒数約680名の同中学校では、授業中に教室を抜け出す生徒などがいたことから、教育職員は、従前から授業の空き時間に校内パトロールを行っていたところ、同年10月、教育職員が、3年生の生徒から目を殴られ、公務災害で長期休暇に入るという事件が起きた後は、一審原告Hを中心として、3年生の校内パトロールを強化することとなり、一審原告Hは、授業の空き時間の相当程度を校内パトロールに充てたため、教材研究、プリント作成、テスト採点などの仕事を放課後あるいは自宅で行わざるをえなくなった。当時、同中学校では、教育職員に対する暴力、喫煙、授業妨害等の問題行動が頻発しており、校舎のトイレのトイレットペーパーに火がつけられ、個室が燃え上がり、消防車10数台が駆けつける事態まで発生していた。放課後、生徒が、なかなか帰宅しようとせず、校門付近に集まり、喫煙したり、ごみを散らかすなどしたため、生徒指導部が中心となり、下校指導も開始することとなり、当初は、校長も構成員である生活指導部の補導委員会を中心に実施していたが、その後下校指導は、全校的な取り組みに発展した。また、6月から8月の各2日、12日、22日は、校区内に夜店が出るため、同中学校の職員は、曜日を問わず、午後7時から午後8時ころまで、交代でパトロールを行うことが慣例となっていた。平成15年には、児童自立支援施設である淇陽学校に同中学校の生徒3名が入所し、一審原告Hは、担任する生徒に面会するため淇陽学校に出張したり、一時帰宅に備えての環境調整のため家庭訪問を行ったりした。また、同中学校校区内には、2つの児童養護施設があり、同施設に入所した児童は、同中学校に籍を置くため、養護施設指導部長であった一審原告Hは、他の教育職員らと順番に上記施設での学習補充にもあたっていた。さらに、一審原告Hは、ワンダーフォーゲル部の顧問として、休日に、部員をポンポン山に引率したり、花背山の家で合宿の打ち合わせをするなどしていた。O校長は、一審原告Hにつき、勤務時間に関係なく動いてくれ、信頼できる教員であった、「何かあったらすぐに動きます。」と言ってくれ、大変頼りにしていた、生徒指導の課題の多い生徒が数人いる学級を任せていたなどと述べている。
 O校長は、当時の樫原中学校の状況や生活指導などにおいて一審原告Hの果たしていた役割を認識していたのであるから、一審原告Hの時間外勤務が極めて長時間に及んでいたことを認識、予見できたことが窺われるが、それに対して、改善等の措置を特に講じていない点において、適切さを欠いた部分があるというべきであり、一審原告Hの時間外勤務の時間からすると、配慮を欠くと評価せざるを得ないような常態化した時間外勤務が存在したことが推認でき、O校長は、同一の職場で日々業務を遂行していた以上、そうした状況を認識、予見できたといえるから、事務の分配等を適正にする等して一審原告Hの勤務が加重にならないように管理する義務があったにもかかわらず、必要な措置をとったとは認められないから上記義務違反があるというべきである。」〔中略〕
「ウ 以上によれば、一審原告らのうち、一審原告Cら3名について、本件管理義務違反が認められ、その余の一審原告らについては同義務違反は認められない。〔中略〕
「 一審被告は、一審原告Iは、教育職員であり、同人に対し、慰謝料名目であっても、金員を支払うことは、教職調整額の支給と重複した利益を与えることになり、給特法の趣旨に反すると主張するが、本件管理義務は、労働者の生命及び健康等を危険から保護することにその趣旨があり、給特法とはその趣旨を異にするものであるから、一審被告の上記主張は採用できない。」