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ID番号 : 08824
事件名 : 未払賃金等請求反訴事件
いわゆる事件名 : シーディーシー事件
争点 : 飲食店会社の調理員が解雇予告手当、未払残業手当等の支払を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 居酒屋等の飲食店を経営する会社Yが、労働契約上の債務の不存在確認等を求めて、調理員であったXら3名を相手方として労働審判を申し立て、調停不成立を受けてなされた労働審判に異議を申し立てたのに対し、Xが未払賃金等の支払を求めて反訴を提起したものである(その後、Yは本訴事件を取り下げた。)。 山形地裁は、まず解雇予告手当について、自主退職ではなく解雇であるとして解雇予告が成立した日時を特定し、解雇予告手当として13日分の平均賃金支払を命じた。また未払残業代については、Xが労基法41条2号所定の監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)に該当するというYの主張を斥け、料理長として仕入れなどについて一定の権限を有し、調理スタッフの採用について意見を述べる等できたといえるが、そのことから人事について経営者と一体的立場にあるといえるものではなく、給与、一時金において管理監督者にふさわしい待遇を受けていたとはいえないことからXが管理監督者に当たるとはいえず、タイムカード記載のとおりの就労をしていたものと認めるのが相当であるとして、深夜割増しを含め、時間外手当の支払を命じた。他方、Xが立替払している交通費・高速料金、他店リサーチ費用、有給休暇保証金、ボーナス、慰謝料については、いずれも理由がないとして否認した。
参照法条 : 労働基準法41条1項2号
民法710条
体系項目 : 労働時間(民事) /裁量労働 /裁量労働
解雇(民事) /解雇予告手当 /解雇予告手当
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2011年5月25日
裁判所名 : 山形地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(ワ)320
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1034号47頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)‐裁量労働‐裁量労働〕
〔解雇(民事)‐解雇予告手当‐解雇予告手当〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 1 解雇予告手当について〔中略〕
 (3) 上記認定の事実によると、反訴原告は、平成19年4月ころには反訴被告を退職する意向を有しており、これを反訴被告に伝えていたものであるが、反訴被告代表者との間で、同年8月ころに、後任者を探した後に退職することで合意がされていたが、同年7月14日に、メニューに欠品が発生したことに対する話合いの際、反訴被告代表者が同月末日までの勤務とするよう求めたものであり、これ以前には、同年8月ころまでに後任者を探して引継をすることなどが話し合われていたことに照らせば、これに反し、反訴被告代表者が、反訴原告に対し、同年7月末日で退職するように求めた行為は、同日をもって解雇する旨の意思表示をしたものというべきである。
 これに対し、反訴被告は、同年7月半ばころ、本件店舗においてメニューに欠品が発生した際、反訴原告から再度退職の申し出がされ、反訴被告代表者がこれに応じて、同月末日で退職することが合意されたと主張しているが、反訴被告代表者作成の回答書(〈証拠略〉)及び陳述書(〈証拠略〉)には、同日の経過について、反訴被告代表者が職務怠慢であるとして、改善を求めたのに対し、反訴原告が、反省する様子もなく、現状以上はできないと述べたことから、反訴被告代表者は、これ以前に一刻も早く辞めたいとのファックスが反訴原告から届いていたこと、最近の業務怠慢などを考慮して、これ以上は無理と考え、同年7月末まで働いてくれるようお願いしたこと、反訴原告は、翌日にも再度話合いを求め、同年8月末日までの勤務を申し出たが、これ以上やれないという意思が変わらず、反省していることが窺われなかったため、反訴被告代表者は、やはり7月末日までの勤務とすることで話を終えたことの各記載がある。
 上記のとおり、反訴被告代表者作成の文書によっても、反訴原告は、上記同日、これ以上の改善が不可能であると述べたにとどまり、直ちに退職したいとの意向を示したことを示す証拠はない。また、反訴原告が、同年6月ころ、「すぐにでも逃げたい」と記載したファックスを反訴被告に送信したことは上記認定のとおりであるが、上記ファックスの記載は、職場からの逃避の願望を示すものであるとはいえるものの、明確に退職の意思が表明されているものとまではいえず、労働者にとって、勤務先を退職することは極めて重大であることに照らせば、上記ファックスの記載をもって、直ちに退職したいことの意思表示がされたものと解するのは相当ではない。
 他に、同年7月14日、反訴原告が、即時の退職を求め、これに対し、反訴被告代表者との間で、同月末日をもって退職することが合意されたことを認めるに足りる証拠はない。
 なお、反訴被告代表者作成の回答書(〈証拠略〉)には、反訴被告代表者が平成19年7月末日までの勤務とするよう求めたのに対し、反訴原告はこれを了承した旨の記載があり、反訴原告が、同日をもって反訴被告における勤務を終えたことは当事者間に争いがないが、そのことは、反訴原告が、解雇の有効性を争わなかったというにとどまり、反訴被告が解雇予告手当の支払を免れるものではないから、反訴原告が、反訴被告代表者の申し出を了承したことは上記認定を左右するものではない。
 (4) 本件店舗においてサラダなどのメニューに欠品を生じた日時については、同年7月13日か(〈証拠略〉)、同月14日か(〈証拠略〉)明らかではないものの、反訴被告代表者が、反訴原告に対し、同月末日までの勤務とすることを求めた日時が同月14日であることは当事者間に争いがない。
 使用者は、解雇する際、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、30日前に予告しない場合には、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払うべきであるところ、反訴被告代表者はその17日前に解雇を予告したものであるから、13日分の平均賃金を支払うべきこととなる。
 証拠(〈証拠略〉)によると、反訴原告の平成19年5月から同年7月までの給与総額は、97万2750円であり、これをこの期間の総日数92日で除した金額は1万0573円(1円未満四捨五入)であるから、その13日分は13万7449円となる。
 したがって、反訴原告の解雇予告手当の請求は、反訴被告に対し、13万7449円の支払を求める限度で理由がある。
 4 未払残業代について
 (1) まず、反訴被告は、反訴原告が、労働基準法41条②号所定の監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)に該当するから、労働基準法の労働時間等の規制の適用を受けず、時間外勤務手当支給の対象外であると主張しているので、この点について検討する。〔中略〕
 (エ) 以上のとおり、反訴原告は、本件店舗に調理長として紹介されて採用されたものであり、仕入などについて一定の権限を有していたこと、調理場スタッフの採用について採否の意見を述べ、昇給についても意見を述べることができたとはいえるものの、そのことから人事について経営者と一体的立場にあるといえるものではなく、給与及び一時金において、反訴原告が、管理監督者にふさわしい待遇を受けていたといえないことは上記のとおりであるから、その権限、職務の内容、待遇のいずれの点についても、反訴原告が管理監督者に当たるとはいえず、その就労時間の一部について、裁量を有していたと推測されることは上記のとおりであるが、そのことのみでは、反訴原告が管理監督者の地位にあったとはいえない。
 したがって、反訴原告は、労働基準法の労働時間等に関する規定の適用を受けるものというべきであるから、反訴被告の上記主張は失当である。
 (2) 以上のとおり、反訴原告は、労働基準法の労働時間等に関する規定の適用を受けるから、反訴原告がした時間外労働については同法所定の割増賃金を支払うべきである。〔中略〕
 7 慰謝料について
 (1) 反訴原告が、解雇されたこと及び長時間の時間外労働をしていたことはいずれも上記認定のとおりであり、これに対し、所定の解雇予告手当及び時間外手当を支払うべきことも上記のとおりである。
 (2) 反訴原告は、さらに、反訴被告における労働環境が、精神的な苦痛を生じる程度に劣悪であったと主張している。
 反訴原告作成の陳述書(〈証拠略〉)及び本人尋問における供述によると、反訴原告は、反訴被告が営業するイタリアンレストランの従業員に対する教育を担当していたため、多忙を極めた時期があること、反訴被告のA部長から休みを取らないよう指示されたこと、B店長から文句を言われたり、襟首を掴まれるなどしたことがあるというのであり、他方、B店長は、証人尋問において、反訴原告とは意見の対立があったことを証言している。また、C作成の陳述書(〈証拠略〉)には客席数と比較して、調理場が狭かったこと、食材を地下2階に保存していたため、作業効率が悪かったことなどの記載がある。
 確かに、作業効率の悪い職場での勤務あるいは折り合いの悪い同僚の存在が、精神的な負担を強いることがあることは否定できないが、その程度の強弱はあるとしても、同様のことは一般的にどの職場においても見受けられるところであり、上記証拠のみでは、本件店舗における労働環境が、一般的に許容される限度を超えて劣悪であったとまではいえず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 また、長時間の時間外労働については、これに応じた時間外手当を支払うべきことは上記認定のとおりであるところ、時間外手当の支払によっても解消されない精神的苦痛を反訴原告が被っており、慰謝料の支払をもってこれを慰謝すべき程度にまで達していたことを認めることはできないから、労働環境等を理由とする慰謝料の請求は理由がない。
 (3) 反訴原告は、本件店舗における長時間の時間外労働のため、離婚に至ったことを主張する。
 反訴原告作成の陳述書(〈証拠略〉)及び本人尋問における供述によると、反訴原告は、妻が出産後の精神的に不安定な時期で、仙台に帰らないと離婚すると述べたため、反訴被告に対し、平成19年5月のゴールデンウィーク明けに退社したいと申し出たこと、そのため、反訴被告では、アパートを用意するなどしたが、結局、同年4月に妻子が仙台に戻ってしまい、別居したことが認められるが、離婚したこと及び離婚に至る具体的な経緯は不明であり、反訴原告が、反訴被告に対し、妻との離婚を回避することを理由として、労働条件の改善を求めたことも窺われないから、離婚を理由とする慰謝料の請求も理由がない。