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ID番号 : 08838
事件名 : 時間外手当等請求事件
いわゆる事件名 : ココロプロジェクト事件
争点 : 飲食店経営会社Yの系列下の会社の労働者が時間外などの割増賃金と慰謝料を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 飲食店経営会社Yに雇用され、その後ハンバーガー店等を運営する別会社Aと雇用契約を結び、主にオペレーション業務(店頭での接客業務)に従事していた労働者Xが、実質雇用者はYであるとして、Yを相手に時間外・深夜・休日労働の割増賃金、付加金を請求し、合わせて、長時間労働、退職を強要され、人格権等を侵害されたとして、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まず会社Aは形骸にすぎず、XはYの指揮命令の下に労務を供給する意思を有し、Yもその対価としてXに賃金を支払う意思を有していたとして、Xの時間外・深夜・休日労働の割増賃金と、同賃金額の5割の付加金の支払を認め、また、Xに課した3か月間の減給処分についても無効とした。不法行為については、使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うところ、Yはその注意義務に違反し、長時間労働を強いて疲労や心理的負荷等を蓄積させたことに加え、Xが長時間労働に従事していたこと及び長時間労働の危険性を認識しながら、長時間労働をしてでも利益を上げるか、職を辞すかの選択を迫るといった不合理な状況に追い込み、Xの不安感を強めさせて、うつ状態に至らしめたものと認められるから相当因果関係があり、不法行為が成立するとして請求を認めた。
参照法条 : 会社法3条
会社法350条
労働基準法37条
労働基準法114条
民法709条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
雑則(民事) /付加金 /付加金
賃金(民事) /割増賃金 /支払い義務
懲戒・懲戒解雇 /懲戒事由 /部下の監督責任
労基法の基本原則(民事) /使用者 /労働基準法上の使用者
裁判年月日 : 2011年3月23日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)25755
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1029号18頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕
〔賃金(民事)‐割増賃金‐支払い義務〕
〔懲戒・懲戒解雇‐懲戒事由‐部下の監督責任〕
〔労基法の基本原則(民事)‐使用者‐労働基準法上の使用者〕
 イ 上記アの各認定事実によると、本件雇用契約2の締結以降、原告の賃金はB社名義で支払われるようになり、また、流山店への配転やその後の解雇はB社名でされているものの、Aが原告を含む従業員らに対し業務を指示したことはなく、被告代表者の認識によっても、B社は、飲食店部門として設立したものであって、本件雇用契約2の締結後も、被告代表者は、従前と変わることなく、被告の代表取締役として、原告ら従業員に対し業務を指示し、人事権、全店舗の経営権を有しており、また、被告が賃金支払義務を負っているとの認識を有していたこと(上記ア(オ)f)、原告も、本件雇用契約2の締結以後も、従前と変わることなく、被告に労務を提供しているとの認識を有していたことが認められる。
 以上によると、B社は形骸にすぎず、原告は、被告の指揮命令の下に被告に労務を供給する意思を有し、被告もその対価として原告に賃金を支払う意思を有していたものと評価できるから、被告は、原告に対し、使用者として、原告の労働の対償たる割増賃金の支払義務を負うものと認めるのが相当である。
 (2) 争点(1)イ(時間外・深夜・休日労働の割増賃金の有無及びその額)について〔中略〕
 (エ) 以上を総合すると、原告の時間外・深夜・休日労働時間は、別紙「認定労働時間一覧表」の「認定」欄の「時間外」、「深夜」、「休日」欄の各記載のとおりであると認められる。
 イ 争点(1)イ(イ)(通常の労働時間の賃金額(固定残業代の支払の有無))について〔中略〕
 (a) 割増賃金の基礎となる賃金額
 前提事実(2)イによると、平成20年7月以降、原告の賃金は、基本給27万5000円、非課税通勤費4万0090円、非課税宿直手当4万円とされたことが認められる。
 原告は、上記各賃金は、平成20年6月までの社員給36万5000円を上記名目に割り振っただけのものであるから、割増賃金の基礎となる賃金額としては上記各賃金の合計35万5090円とすべきである旨主張するのに対し、被告は積極的に争わない。
 そうすると、平成20年7月以降の割増賃金の基礎となる賃金額は35万5090円と認めるのが相当である。
 (b) 所定労働時間
 前提事実(2)イによると、本件雇用契約2の契約書には、実働8時間でシフトにより決定すること、1か月単位の変形労働時間制を適用する旨記載されていることが認められることからすると、所定労働時間は1日8時間、休日は週2日と認めるのが相当である(なお、被告は、1か月単位の変形労働時間制が適用される旨の主張はしていない。)。
 (c) 上記(a)及び(b)によると、通常の労働時間の賃金額は、2032.9円と認められる。
 (計算式)
 35万5090円÷[8時間(1日の所定労働時間)×262日(1年間の所定労働日数)÷12か月]
 ウ 以上によると、原告の被告に対する割増賃金及び遅延損害金の請求は、別紙「認容額一覧表」の「合計額」欄記載の各金額及びこれに対する同別紙の「支払日」欄記載の各日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の限度で認められる。
 (3) 付加金
 証拠(〈証拠略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、被告においては、利益を上げるために、変動費であるキャストの人件費を減らすべく、キャストの労働時間を減らし、その分、社員が、割増賃金の支払を受けることなく、長時間、労働に従事することが常態化していたことが認められ、その不払の態様は悪質であるといわざるを得ない。他方、上記(2)アにおいて労働時間を認定するに当たっては、業務メールの送信、閉店業務への従事が認められる場合は、従事した業務の具体的内容及びその時間は明らかではないものの、一律に、前者が1時間、後者が2時間労働したものとみなしたこと、休憩時間を一切控除していないこと(原告は、その陳述書(〈証拠略〉)において、まとまった昼食休憩を取ることなどほとんどできないのが実情であった旨陳述するにとどまり、一切休憩を取ることができなかったと主張するものではない。)などを考慮すると、被告に対しては、上記(2)において認定した時間外・深夜・休日労働の割増賃金の合計額の5割である318万6098円の付加金の支払を命ずるのが相当である。
 2 争点(2)(本件減給の有効性)について
 原告は、被告代表者は、被告が解雇したアルバイトに対する被告の姿勢を示すため、責任者である原告を3か月間の減給処分にするが、後日、減給分は支払う旨言明し、また、上記解雇について、原告に責任はないから、本件減給は無効である旨主張するのに対し、被告は、本件減給は、原告が上記解雇について責任者として自主返納したものである旨主張し、被告代表者は、上記解雇について、原告に責任があるか分からなかったので、原告と相談しながら、合意の上で本件減給をすることとし、また、減給分について返還していいか分からなかったので、どのように進めるかといった話もした旨供述する。
 被告代表者の上記供述によっても、原告に懲戒事由は認められないから、本件減給が懲戒処分として有効であるとは認められず、また、本件減給分の返還について原告と被告代表者との間で協議が持たれ、これについて結論が出ないままに本件減給が実施されたものといえるから、原告が、本件減給に同意したとも認められない。そして、他に本件減給が有効であると認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
 3 争点(3)(不法行為に基づく損害賠償請求)について〔中略〕
 以上によると、被告は、本件注意義務に違反し、原告に対し、長時間労働を強いて疲労や心理的負荷等を蓄積させたことに加え、原告が長時間労働に従事していたこと及び長時間労働の危険性を認識しながら、長時間労働をしてでも利益を上げるか、職を辞すかの選択を迫るといった不合理な状況に追い込み、原告の不安感を強めさせて、うつ状態に至らしめたものと認められるから、上記一連の行為と原告のうつ状態との間には相当因果関係が認められ、被告には不法行為が成立するといえる。