全 情 報

ID番号 : 08844
事件名 : 遺族補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 : 国・三鷹労働基準監督署長(いなげや)事件
争点 : スーパーマーケット勤務で精神障害を発病し自殺した労働者の妻が遺族補償不支給の取消しを求めた事案(妻勝訴)
事案概要 :  スーパーマーケットチェーン会社Aの鮮魚部チーフBが精神障害を発病して自殺したことについて、Bの妻Xが、精神障害の発症に業務起因性はなかったとして労働基準監督署長が決定した遺族補償給付及び葬祭料不支給処分の取消しを求めた事案である。  東京地裁は、他店への異動後短期間での次の店への異動と同時に、新任のチーフへの就任、新装開店準備業務の担当等といった出来事の重なり、チーフ就任に伴う業務の質的・量的な増加に加えて、自身の人事考課の重要な要素ともなる新装開店後の売上増を期待される立場に置かれたことに伴う強度の精神的プレッシャー、周囲の支援状況、長時間労働による疲労の蓄積等を考慮すると、Bの本件疾病発病前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であると認定した。また、Bにはほかに精神障害を発症する原因となるべき業務以外の心理的負荷要因も、精神障害の発症につながる個体側要因も存在しない以上、疾病発病が同人の業務に起因するものであると認めることができるとした。その上で、疾病に伴う衝動的な希死念慮の他に、太郎が自殺を図るような要因・動機を認めるに足りる証拠もないから、Bの自殺についても業務に内在する危険が現実化したものと評価するのが相当であるとして、業務と疾病発病及び自殺との間に相当因果関係の存在を肯定し、不支給処分を取り消した。
参照法条 : 労働者災害補償保険法16条
労働者災害補償保険法17条
体系項目 : 労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /業務起因性
労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /自殺
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /葬祭料
裁判年月日 : 2011年3月2日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(行ウ)796
裁判結果 : 認容
出典 : 労働判例1027号58頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐業務起因性〕
〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐自殺〕
〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐葬祭料〕
 (2) 太郎の精神障害について
 前記1(3)記載の太郎の死亡に至る経緯及び同(5)記載の医学的見解等を総合すれば、太郎は、遅くとも平成15年9月下旬ころに、ICD-10のF3に該当する「気分障害」又はうつ病(以下「本件疾病」という。)を発病したと認めるのが相当である。
 (3) 業務による心理的負荷の強度について〔中略〕
 エ 総合評価
 以上の検討結果を踏まえて検討する。
 太郎の業務について、A店への異動後短期間でのB店への異動と同時に、新任のチーフへの就任、新装開店準備業務の担当等といった出来事の重なり、チーフ就任に伴う業務の質的・量的な増加に加えて、自身の人事考課の重要な要素ともなる新装開店後の売上増を期待される立場に置かれたことに伴う強度の精神的プレッシャー、周囲の支援状況、長時間労働による疲労の蓄積等を総合的に検討すれば、原告指摘にかかるその他の業務上の出来事について検討を加えるまでもなく、太郎の本件疾病発病前の業務の心理的負荷の総合評価は、「強」であるとするのが相当である。
 (4) 業務以外の心理的負荷、個体側要因
 証拠上、太郎に精神障害が発病する原因となるべき業務以外の心理的負荷要因も、精神障害の発症につながる個体側要因も存在しない。
 (5) 業務起因性
 以上のとおり、太郎の本件疾病発病前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であり、その他精神障害の発病につながる業務以外の心理的負荷や個体側要因もないのであるから、判断指針・改正判断指針によっても、太郎の本件疾病発病が同人の業務に起因するものであると認めることができる。
 そして、本件疾病に伴う衝動的な希死念慮の他に、太郎が自殺を図るような要因・動機を認めるに足りる証拠もないから、太郎の自殺についても、同人が従事した業務に内在する危険が現実化したものと評価するのが相当である。
 したがって、太郎の本件疾病の発病及びこれによる自殺は、太郎が、その業務の中で、同種の平均的労働者にとって、一般的に精神障害を発症させる危険性を有する心理的負荷を受けたことに起因して生じたものと認めるのが相当であり、太郎の業務と本件疾病発病及び自殺との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。
 第4 結語
 以上の次第で、太郎の精神障害の発病及び自殺が業務上の事由によるものとは認められないとして原告に対する遺族補償給付及び葬祭料を支給しないとした本件各処分は違法であり、取消しを免れない。