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ID番号 : 08851
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 :
争点 : 航空機整備関連事業会社に雇止めされた嘱託社員らが地位確認、賃金等を請求した事案(労働者敗訴)
事案概要 :  航空機整備関連事業会社Yの従業員であったX1、X2が、満60歳定年後、嘱託社員及び特別嘱託社員たる従業員として有期の雇用契約を締結し稼働していたところ、特別嘱託雇用契約の更新がされずに雇止めされたことに関し、雇止め無効と地位確認、賃金及び賞与の支払を請求した事案の控訴審である。  第一審東京地裁は、X1、X2の請求をいずれも棄却したため、X1らが控訴。  第二審東京高裁は、特別嘱託雇用契約並びにパート契約の締結及び更新は、Yにおける業務の種類、内容等に応じてこれを遂行する資質能力を有する適任者を確保するという業務上及び経営上の必要性からされたものと認められ、しかるときは、各契約の契約書中に不更新条項が含まれていながらなおその更新がされたことがあるなどの事実をもって、各契約の締結及び更新の手続がおざなりなものであったとはいえず、また、個別に更新の事実があったとしても従業員の希望どおりに締結されたり更新された慣行があったとはいえず、X1、X2に雇用継続について期待を抱く事情はあったとしても、そのように期待するのが合理的と解されるに足る特別嘱託社員の位置づけ、採用の雇用状況があったとまではいえないとして、結局原審同様、X1らの請求をすべて棄却した。
参照法条 : 労働基準法14条
労働契約法16条
体系項目 : 解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労基法の基本原則(民事) /労働者 /嘱託
裁判年月日 : 2011年2月15日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ネ)3563
裁判結果 : 控訴棄却
出典 : 判例時報2119号135頁
審級関係 : 一審/東京地平成22.4.13/平成20年(ワ)第37639号/平成21年(ワ)第15919号
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐嘱託〕
 エ 以上によれば、被控訴人と戊原間の特別嘱託雇用契約並びにパート契約の締結及び更新は、被控訴人における業務の種類、内容等に応じてこれを遂行する資質能力を有する適任者を確保するとの業務上及び経営上の必要性からされたものと認められ、しかるときは、被控訴人と戊原間の上記の各契約の契約書中に不更新条項が含まれていながらなおその更新がされたことがあるなどの事実をもって、上記各契約の締結及び更新の手続がおざなりなものであったとはいまだ断じがたい。また、前記した各契約の締結及び更新の事実が、被控訴人において、従業員の希望どおりに特別嘱託雇用契約が締結され、若しくは更新された慣行があり、又は被控訴人との間で更新しない旨の条項を含む特別嘱託雇用契約を締結した控訴人らにおいて雇用継続に係る合理的な期待があったことをうかがわせるものともいえない。
 したがって、控訴人らの前記の主張は、採用することができない。〔中略〕
 四(1) 控訴人らは、控訴理由として、控訴人らにはその雇用契約が継続されることについての合理的な期待があったにもかかわらず、原判決がこれを否定したのは誤りであるとし、その理由として、前記のとおりの被控訴人のエイジフリーの提唱及び就業者の上限年齢の撤廃、平成一五年当時の丙山社長の新年会等における挨拶、被控訴人の会社案内や機関誌へのエイジフリーを唱う文章の掲載、被控訴人における特別嘱託雇用契約、嘱託雇用契約等の締結又はその更新の手続のおざなりさ(それらの契約書の条項が読み上げられることはなく、戊原の不更新条項がある雇用契約が更新されたことなど)を挙げるほか、次のとおり主張する。
 ア 特別嘱託雇用契約の締結又は更新の手続において、対象者が被控訴人の担当者から、その契約書に記載された基準を適用する旨告げられたことはない。
 イ 本件内規においても、満六五歳に達した従業員の再雇用について、原則として一年から二年を採用期限としており、仮に、本件内規に基づいて特別嘱託社員の採用等がされていたとしても、平成七年以降、従業員が満六五歳となった以降数年間の特別嘱託雇用契約の更新が継続的に行われていた。
 特別嘱託社員たる従業員としての採用等がされなかった者のうちには、それを希望しなかった者や自らの意思で満六七歳までに退職した者が少なくない。
 ウ 控訴人甲野が作成して上司の乙原四夫部長に渡した「ご挨拶」は、同僚に対する挨拶を記したものにすぎない上、その翌日から年次有給休暇を消化して出勤しなかったのは、雇止めを争う労働者である控訴人甲野にとって、今後の生活を維持するためにやむを得ないものであった。
 エ 労働者は、その従属的な立場から、不更新条項のある有期の労働契約の締結を拒否すれば直ちに雇止めになり、その地位を守るため裁判による解決を余儀なくされるので不本意ながらもこれを締結せざるを得ないことを考えれば、同契約の締結によっては解雇権濫用の法理の適用を排除することはできず、同契約中の不更新条項の存在は、むしろ有期の労働契約についての同濫用法理を適用すべき一事情(評価障害事実)であると解すべきである。
 これを本件にみると、控訴人甲野は、その特別嘱託雇用契約に不更新条項がある旨の説明を受けず、控訴人乙山も、不更新条項がある特別嘱託雇用契約書に署名したものの、被控訴人に対し、不更新条項を理由とする雇止めをすることはできない旨争うや、直ちに、被控訴人が控訴人甲野の雇止めをし、控訴人乙山の地位について裁判による解決を余儀なくされた経緯はまさに従業員の立場の脆弱さを示し、不本意ながら不更新条項がある本件労働契約の締結をせざるを得ない状況にあったことの証左である。したがって、控訴人らの各特別嘱託雇用契約における不更新条項は、解雇権濫用の適用に係る評価障害事実として考慮すべきである。
 (2)ア 検討するに、控訴人らは、ともに昭和一八年生れであり、それぞれ被控訴人がエイジフリーの推進・充実を積極的に広報し始めた平成一五年に定年となり、その後五年間嘱託社員として勤務を継続したが、その間、八人の従業員が満六七歳を超えて勤務し、そのうちに満七〇歳まで勤務した者もいたこと、嘱託社員及び特別嘱託社員の業務は、勤務シフトの点を除き一般職と同様であったこと、人事調査において、控訴人甲野は満七〇歳まで、控訴人乙山は満六七歳までの勤務をそれぞれ希望したが、これに対し被控訴人から否定的な反応があった形跡がうかがわれないことにかんがみて、控訴人らが雇用継続に対する期待を抱くに足りる状況があったものというべきである。
 イ しかし、特別嘱託社員は、退職者の増加等に対応することを契機及び目的の一つとするものであるものの、これを嘱託社員と区別した上、定年後の嘱託社員として五年間勤務した後、一年間から二年間又は六か月間以下の期間、雇用されるものであり、かつて特別嘱託社員たる従業員につきパートタイム労働に従事する従業員の就業規則が適用されていたことをも参酌すれば、被控訴人の業務量、経営状況、従業員の年齢構成等に応じて特別嘱託雇用契約の締結及び更新がされることが予定されているものであり、その本来の性格や位置づけが変容したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 そして、被控訴人のエイジフリーの推進・充実及び就業者の上限年齢の撤廃を目指した高齢化社会に適合した雇用人事政策に関する社内実態、平成一五年当時の丙山社長の社内挨拶等の意味、被控訴人における特別嘱託雇用契約、嘱託雇用契約等の締結又はその更新の手続のあり様並びに戊原の雇用契約の更新の状況及びその理由についての認定判断は、前示のとおりであり、これらに照らせば、満六五歳となった従業員について特別嘱託社員としての採用等がされるのが原則的取扱いであると認めるべき雇用状況が存在していたとまでは認められない。
 また、満六五歳に達した者の特別嘱託社員たる従業員としての採用等に関する雇用状況も、前示のとおりであり、満六五歳となった従業員のうちには特別嘱託社員たる従業員として再雇用がされなかった者及び再雇用がされた満六七歳となる前に退職した者も少なくない。
 以上の諸点にかんがみると、満六五歳に達した従業員一般において、特別嘱託社員たる従業員としての採用等がされることを期待するのが合理的であると解すべき特別嘱託社員たる従業員の位置づけ、その採用等の雇用状況が存していたとは直ちには認めがたい。
 ウ そして、控訴人らは、その各特別嘱託雇用契約の締結に先立って実施された特別嘱託就業規則において、特別嘱託雇用契約が更新されるのが原則であるとはされていないことを認識していたものであり、また、前記認定のとおり、控訴人らの嘱託契約の契約書には就業規則四八条の再雇用基準が、その特別嘱託雇用契約の契約書には不更新条項がそれぞれ明記されていることを併せ勘案すると、控訴人らについて、雇用継続に対する合理的な期待があったとまではいうことができない。
 エ さらに、控訴人甲野は、不更新条項を含む特別嘱託雇用契約の締結に際し、その旨の説明を受けなかった旨主張するが、その主張を採用することができないものであることは前示のとおりであり、また、控訴人乙山は、不本意ながらやむなく不更新条項を含む特別嘱託雇用契約を締結したのであるから、この不更新条項の合意は解雇権濫用の一事由(評価障害事実)である旨主張するが、前記認定に係る特別嘱託雇用契約の締結時の控訴人乙山の認識理解及び社内の雇用状況を併せ勘案しても、控訴人乙山がその主張するような意味における不本意な締結状況にあったとはおよそうかがえず、上記濫用法理に係る法的主張は、独自の見解を述べるものにすぎない。
 したがって、控訴人らの前記の主張は、採用することができない。
 五 そのほか、控訴人らは、控訴理由において種々主張して原判決を非難するが、いずれも原判決を正解しないか、又は独自の見解に基づくものであり、あるいは証拠を正当に評価しないものであって、それらはいずれも採用することができない。