全 情 報

ID番号 : 08891
事件名 : 雇用関係不存在確認請求事件(631号)、地位確認等反訴請求事件(158号)
いわゆる事件名 : クノールブレムゼ商用車システムジャパン事件
争点 : 外資系自動車部品会社と同社を解雇された労働組合役員らが互いにその効力を争った事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 自動車用部品の研究開発、製造、販売及び輸出を業とするXが、職務懈怠や暴言・威嚇等を理由に、X社労働組合執行委員長Y1及び書記長Y2を普通解雇したが、その後もY1らが労働契約の存続を主張して争っているとして雇用関係不存在の確認を求めた(本訴)のに対し、Y1らが、解雇は解雇権の濫用等に当たり無効であるとして、地位確認及び賃金等の支払いを求めた(反訴)事案である。 さいたま地裁熊谷支部は、まずXの訴えについて、Y1らからの反訴請求の当否の判断に全て含まれる関係にあるから、XY間における法的紛争を解決する有効適切な手段であるということはできず、確認の利益を欠き不適法として却下した。その上で、Y1、Y2いずれも、その行動の一部が就業規則所定の解雇理由(職務懈怠)に該当するが、日常的に職務懈怠をしていたと推認することはできず、また問題となった暴言も、日常的に繰り返していたとはいえないし、また職務懈怠も暴言等も会社内部の問題であり、これによってXや取引先に重大な損害を与えたり、Xの経営や業務運営に重大な影響や支障を及ぼしたものでもないことから、本件解雇は、客観的な合理性及び社会通念上の相当性を欠き解雇権の濫用に当たり無効であるとして、労働者の地位にあることを確認し、賃金支払いを命じた(遅延損害金も認容)。
参照法条 : 民法536条2項
体系項目 : 解雇(民事) /解雇事由 /勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事)/解雇事由 /暴力・暴行・暴言
裁判年月日 : 2012年3月26日
裁判所名 : さいたま地熊谷支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ワ)631/平成23(ワ)158
裁判結果 : 一部却下、一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1050号21頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐解雇事由‐勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐暴力・暴行・暴言〕
 2 争点2(被告乙山に対する本件解雇の効力)について〔中略〕
 原告は、(ソ)の発言について誓約書の提出を求めたのに対して被告乙山がこれを拒み態度を改めなかったこと、就業時間中の無断離席が常態化していることについて厳重に注意したが、同被告がその後も無断離席を改めなかったことを相当性の判断において考慮すべきである旨主張するところ、被告乙山が、原告から求められた誓約書を堤出しなかったことは当事者間に争いがない。しかしながら、前記のような同発言のなされた経緯等に照らせば、誓約書を提出しなかった点を格別問題視することは相当でなく、被告乙山の無断離席が常態化していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 (エ) また、被告乙山の職務懈怠や暴言等はいずれも原告内部の問題であり、これによって、原告や取引先に重大な損害を与えたり、原告の経営や業務運営に重大な影響や支障を及ぼしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。かえって、証拠(〈証拠略〉、被告乙山)によれば、被告乙山は、〈1〉原告がその職務懈怠が日常化していた旨主張する平成22年4月から同年8月までの間においても、所定労働時間合計696時間の約45パーセントに当たる317.5時間は原告の業務に従事していたこと、〈2〉平成21年6月に原告によって特別管理産業廃棄物管理責任者に指定され、産業廃棄物のマニフェスト管理等の業務も担当していたこと、〈3〉原告の安全管理やサービス業務に関して自分なりの提案もしており、会社業務の改善に貢献したいという姿勢を示していたことが認められ、これらの事実によれば、被告乙山は、原告の従業員として、原告に対し、一定程度の貢献をしていたことが認められる。しかも、前記前提事実(7)のとおり、原告は、被告乙山の離席時間に相当する賃金を実質的には支払っておらず、金銭的な負担は生じていない。
 (オ) 以上によれば、解雇理由1、2は、これらを個別に検討しても、また、これを併せ考えても、被告乙山を職場から排除しなければならないほどの重大な行為とまでは認められず、被告乙山に対する本件解雇は、不当労働行為該当性や手続上の問題等の点を検討するまでもなく、客観的な合理性及び社会通念上の相当性を欠くものであり、解雇権の濫用に当たり無効である。
 3 争点3(被告丙川に対する本件解雇の効力)について〔中略〕
 ア 本件就業規則所定の解雇理由の有無について
 (ア) 被告乙山の虚偽申告による職務懈怠への加担(解雇理由1)について
 a 被告乙山の虚偽申告に対する承認等について
 被告丙川は、前に認定したとおり、KBJ労組結成時から被告乙山とともに同労組の幹部として組合活動をしており、被告乙山の解雇理由1において問題とされている9日間について、被告乙山から行き先を聞いていた。しかしながら、被告丙川は、被告乙山が出席する会議の名称や時間帯まで把握していたわけではなく、実際に会議に出席したかどうかについての事後的な確認も行っていなかった上、本件組合用務入出門表の作成、確認にも関与していなかったのであるから、被告乙山の虚偽申告による職務懈怠の事実を知っていたとも、被告乙山に対して組合内部の事前承認を与えたとも認められず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、被告丙川の行為は、本件就業規則17条1号、本件賞罰規定9条21号に該当しない。
 b 質問書に対する虚偽の回答について
 前に認定した同回答の趣旨及び経緯に照らせば、同回答が虚偽の回答に当たるということはできず、被告丙川の行為は、本件就業規則17条1号、本件賞罰規定9条21号に該当しない。
 c 以上によれば、解雇理由1については、被告丙川の行動等はいずれも本件就業規則17条1号、本件賞罰規定21号所定の解雇理由に該当しない。
 (イ) 暴言・威嚇(解雇理由2)について〔中略〕
 m 以上によれば、解雇理由2については、被告丙川の発言等のうち、(ア)、(ウ)、(オ)、(コ)、(サ)及び(シ)の各発言の全部並びに(イ)及び(カ)の各発言等の一部が、本件就業規則17条1号、本件賞罰規定13号の解雇理由に該当するといえる。
 なお、被告丙川は、これらの発言等は、いずれもKBJ労組の書記長として行ったものであるから、これを被告丙川個人に帰責して解雇理由とすることは許されない旨主張するが、前に被告乙山について説示したのと同様の理由により、これらの発言等を被告丙川の解雇理由とすることが許されないとはいえない。
 イ 本件解雇に客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性が認められるかどうかについて
 (ア) 以上のとおり、本件解雇の理由とされている被告丙川の発言等は、その一部が本件就業規則所定の解雇理由に該当する。
 (イ) しかしながら、本件就業規則上の解雇理由に該当する各発言等がなされたのは、平成21年2月ないし同年3月、同年9月、平成22年4月、同年9月であり、被告丙川が暴言を日常的に繰り返していたとはいえず、前記各発言等は、感情に駆られた一時的なものとみるのが相当である。〔中略〕
 (ウ) また、被告丙川の暴言等はいずれも原告内部の問題であり、これによって、原告や取引先に重大な損害を与えたり、原告の経営や業務運営に重大な影響や支障を及ぼしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。かえって、証拠(〈証拠略〉)によれば、被告丙川は、平成22年4月から同年8月までの間に、所定労働時間712時間の約51パーセントに当たる367.75時間は原告の業務に従事していたことが認められ、原告に対し、一定程度の貢献をしていたことが認められる。しかも、前記前提事実(7)のとおり、原告は、被告丙川の離席時間に相当する賃金を実質的には支払っておらず金銭的な負担は生じていない。
 (エ) 以上によれば、解雇理由2は、被告丙川を職場から排除しなければならないほどの重大な行為とは到底認められず、被告丙川に対する本件解雇は、不当労働行為該当性や手続上の問題等の点を検討するまでもなく、客観的な合理性及び社会通念上の相当性を欠くものであり、解雇権の濫用に当たり無効である。