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ID番号 : 08905
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : プレス機で両手の各4指を失った者が起こした債務不履行に伴う損害賠償請求で弁護士費用を争った事案(労働者勝訴)
事案概要 : 屑類製鋼原料売買会社Yで、チタン材のプレス作業に従事中プレス機に両手を挟まれ、両手の親指を除く各4指を失う事故に遭ったXが、安全配慮義務違反による損害賠償を求め、弁護士費用も争った事案の上告審である。 第一審大津地裁彦根支部は、損害賠償請求を認容し、弁護士費用についても相当因果関係ある損害として認定。 第二審大阪高裁は、債務不履行に基づく損害賠償請求については認容したものの、弁護士費用については失当であると判断して、請求を棄却した。XY双方が上告し、Xの申立のみ受理。最高裁第二小法廷は、労働者が、就労中の事故等につき使用者に安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には、具体的事案に応じ、損害の発生及びその額のみならず使用者の安全配慮義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うもので、労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるとした。その上で、労働者が訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきであるとして、控訴審判決のうち弁護士費用に関する部分を破棄、差し戻した。
参照法条 : 民法416条
労働契約法5条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 : 2012年2月24日
裁判所名 : 最高二小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(受)1039
裁判結果 : 一部破棄差戻し、一部棄却
出典 : 裁判所時報1550号20頁/判例時報2144号89頁/判例タイムズ1368号63頁/金融・商事判例1388号29頁/金融・商事判例1391号24頁/金融法務事情1955号112頁/裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 : 控訴審/大阪高平成23.2.17/平成22年(ネ)第2028号/平成22年(ネ)第2389号
一審/大津地彦根支平成22.5.27/平成21年(ワ)第23号
評釈論文 : 河津博史・銀行法務21.56巻6号63頁2012年5月夏井高人・判例地方自治354号107~109頁2012年5月判例紹介プロジェクト・NBL983号92~94頁2012年8月15日中川敏宏・法学セミナー57巻9号128頁2012年9月白石友行・民商法雑誌146巻6号121~126頁2012年9月
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 2 原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
 (1) 被上告人は、屑類製鋼原料の売買等を目的とする株式会社である。上告人は、平成13年3月に被上告人に雇用され、平成18年4月24日頃から、チタン事業部に所属していた。
 (2) 上告人は、平成18年11月22日、チタン事業部の工場に設置されていた400tプレス機械(以下「本件プレス機」という。)を操作し、チタン材のプレス作業に従事していたところ、本件プレス機に両手を挟まれ、両手指挫滅創の傷害を負い、両手の親指を除く各4指を失うという事故に遭った。
 (3) 被上告人は、上告人の使用者として、労働契約上、本件プレス機に安全装置を設けて作業者の手がプレス板に挟まれる事故を確実に回避する措置を採るべき義務及び本件プレス機を使用する際の具体的な注意を上告人に与えるべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、その結果、(2)の事故が生じた(以下、上記の義務違反を「本件安全配慮義務違反」という。)。
 (4) 上告人は、訴訟追行を弁護士に委任した上、平成21年1月27日、本件訴えを提起した。上告人は、原審において、本件安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害の賠償として、5913万1878円(うち弁護士費用530万円)及び遅延損害金を請求していた。
 3 原審は、1876万5436円及び遅延損害金の限度で債務不履行に基づく損害賠償請求を認容したものの、弁護士費用の請求については、失当であると判断して、これを棄却した。
 4 しかしながら、弁護士費用の請求を棄却した原審の上記判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 労働者が、就労中の事故等につき、使用者に対し、その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様、その労働者において、具体的事案に応じ、損害の発生及びその額のみならず、使用者の安全配慮義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照)、労働者が主張立証すべき事実は、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は、労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。
 したがって、労働者が、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである(最高裁昭和41年(オ)第280号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。
 5 以上によれば、原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中、債務不履行に基づく損害賠償請求のうち弁護士費用に関する部分につき、190万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の請求を棄却した部分は、破棄を免れない。そして、弁護士費用の額について審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 なお、その余の上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。