全 情 報

ID番号 : 08945
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 日本ヒューレット・パッカード(解雇)事件
争点 : コンピュータ会社に勤務態度不良を理由に解雇された管理職が解雇無効と賃金支給を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : コンピュータ及び周辺機器等の研究開発及び製造販売会社Yに、就業規則の「勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがないと認められるとき」に該当するとして解雇された管理職Xが、(1)労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、(2)未払賃金の支払等及び(3)賞与の支払等を求めた事案の控訴審判決である。 第一審東京地裁は、Xが職務能力や勤務態度において著しく劣り、その状態が断続的に認められる上、上司による日常的な指導はもとより、IマネジメントやPPR制度を通じての指導、教育も約5年間にわたり施してきたにもかかわらず改善されなかったものであり、この事実は解雇事由に該当し、また解雇権の濫用にも当たらず、〈1〉Xを営業職に配置しなかった、〈2〉Xの精神的不調に対する対応が不適切であった、〈3〉職位降格後の解雇が性急であったなどのX主張をいずれも斥けて、請求をすべて棄却した。Xが控訴。 第二審東京高裁は、Xの遂行能力が不十分であった上、上司から業務命令を受けたり、上司や同僚らから指摘や提案などを受けても、自らの意見に固執してこれらを聞き入れない態度が顕著で、結局自らの思い込みに基づく言動が取引先との間の信頼関係を毀損したばかりでなく、Y社内部の円滑な業務遂行にも支障を生じさせたことは明らかで、解雇事由「勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがないと認められるとき」に該当するとされた。
参照法条 : 労働契約法16条
労働基準法9章
体系項目 : 解雇(民事) /解雇事由 /勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 : 2013年3月21日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成24(ネ)5253
裁判結果 : 控訴棄却
出典 : 労働判例1073号5頁/労働判例1079号148頁
審級関係 : 第一審/東京地平成24.7.18/平成22年(ワ)第3628号
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐解雇事由‐勤務成績不良・勤務態度〕
1 当裁判所も、本件解雇は有効であり、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものであると判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し、後記2のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1ないし4(21頁14行目から36頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)〔中略〕
(18) 35頁2行目の「あった」の次に「、〈4〉控訴人は、コンパックの時代である平成13年9月ころから35回もの退職強要を受けていたところ、被控訴人が平成14年11月にコンパックを吸収合併してからも、合理化の手段として安易なリストラを行っており、控訴人を排除する意図を持って控訴人に対する不当な対応を長年繰り返してきたことは明らかである」を加え、6行目の「精神的不調に対する対応については」を「控訴人は、平成16年2月、抑うつ症状を発症しているとの診断書を被控訴人に提出したと主張するが、当該診断書は証拠として提出されていない上、控訴人自身も、原審においてはそのような主張をしておらず、当審においても「2004年2月に被控訴人に対して抑うつ症状の診断書を提出したかどうかについては9年前の事柄であるため確たる記憶はない」と主張(控訴人準備書面)していることからすれば、控訴人が平成16年2月に上記診断書を提出したと認めることはできない。また」に、16行目の「産業医は」から17行目の「(〈証拠略〉)」までを「控訴人が、長時間労働は無理だが休むほどではない旨の申告をして、特に人事面での対応を求めておらず、産業医がこれと異なる判断をした様子もないこと(〈証拠略〉)、平成21年1月23日付けの診断書でも、抑うつ状態、睡眠障害により投薬治療を行っている旨の記載があるにとどまること(〈証拠略〉)、控訴人自身も、当審において、業務をこなせないほど重い精神疾患に罹患していたとの主張はしていないと述べていること(控訴人準備書面)」にそれぞれ改める。
 (19) 36頁6行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 〈4〉控訴人は、コンパックの時代である平成13年9月ころから35回もの退職強要を受けていたとか、被控訴人が、平成14年11月にコンパックを吸収合併してからも、合理化の手段として安易なリストラを行っていると主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はないし、上記1で見たとおりの事情からすれば、被控訴人が控訴人を排除する意図を持って控訴人に対する不当な対応を長年繰り返してきたといえないことは明らかであり、控訴人の上記〈4〉の主張も採用できない。」
 2 控訴人は、平成18年8月ころから平成21年6月の本件解雇に至るまで、それぞれの時期における担当業務の遂行能力が不十分であった上、上司から業務命令を受けたり、上司や同僚らから指摘や提案などを受けたりしても、自らの意見に固執してこれらを聞き入れない態度が顕著であったと認められることは、上記1で引用した原判決説示のとおりである。控訴人のこのような態度は、FRUリストに係るクレームへの対応のように、取引先からクレームが寄せられた場合であっても異なるところはなく、それが原因で取引先から担当者としての控訴人の交代を含む改善を求められることとなった上、Q社訪問の件に至っては、そもそも会社内部で対処すべき問題について、取引先をも巻き込んで事態を大きくし、取引先から重ねてクレームが寄せられるに至ったのである。しかも、控訴人は、上記のような態度をとるばかりでなく、自らの思い込みに基づいて、上司や同僚のみならず、会社内の他の部署に対して攻撃的で非常識な表現や内容を含むメールを多数送信するなどの行為を繰り返してきた。以上のような控訴人の言動が、被控訴人と取引先との間の信頼関係を毀損したばかりでなく、被控訴人の会社内部の円滑な業務遂行に支障を生じさせたことは明らかである。
 被控訴人は、上司による日常的な注意や、PPR制度、Iマネジメント制度における注意や指導を通じて、控訴人の上記のような態度を改善させようと試みたが、控訴人は、このような注意や指導に納得せず、最後まで自らの態度を改めることはなかったのであって、控訴人については、「勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがないと認められるとき」(被控訴人就業規則37条8号)に該当するというべきである。
 これに対し、控訴人は、控訴人の精神的不調に対する被控訴人の対応が不適切であったとか、被控訴人が控訴人を排除する意図を持って控訴人に対する不当な対応を長年繰り返してきたなどと主張するが、控訴人が労務軽減等の配慮を必要とするほどの精神的不調を抱えていたと認めることはできないし、被控訴人が控訴人を排除する意図で不当な対応を繰り返していたと認めることもできないのであって、このような控訴人の主張を採用することもできない。
 以上のとおりで、本件解雇は有効なものというべきである。