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ID番号 : 08948
事件名 : 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 日本郵便事件
争点 : 郵便会社で郵便物集配業務に従事する者が26日間欠勤を理由とする懲戒解雇の無効を争った事案(労働者敗訴)
事案概要 : 郵便会社Yにおいて26日間欠勤を続けた集配業務従事者Xが、懲戒解雇の無効を主張して、労働契約上の地位確認とともに、解雇以降の賃金、賞与、不法行為に基づく損害賠償(又は慰謝料)の支払等を求め、予備的に、仮に懲戒解雇が有効であっても退職金請求権を有していると主張して退職金を求めた事案である。 東京地裁は、まず解雇の相当性について、(1)欠勤期間中、10日間の無許可アルバイト、仕事探し、友人宅への宿泊などをしており、再三の出勤命令を無視し続けていたとの謗りを免れず、Xが脳腫瘍等の診断を受け途方に暮れてしまったことは一時の心情として十分理解することができるが、就業規則違反事由該当性を正当化し、あるいは、違反性を減じることはなく、また、(2)訓告1回、注意処分4回、訓戒処分2回の処分歴があり、さらに本件戒告処分を受けていたことに照らすと、処分歴が欠勤の就業規則違反性を減じるような事情にならず、(3)懲戒標準によれば、概ね20日以上の無断欠勤の処分量定は諭旨解雇ないし懲戒解雇とされており、検討の結果諭旨解雇が選択されたのにX本人は退職願の提出を拒み続けた以上、懲戒解雇もやむを得ないとした。(4)他方、手続的な観点からみても、合計4回、約90分の弁明の機会を与えたにもかかわらず曖昧な返答に終始していたのであるから、その手続的相当性は十分であり、したがって、本件懲戒解雇は解雇権を濫用しておらず有効とした。また、予備的請求についても、著しい背信行為を理由に斥けた。
参照法条 : 労働基準法24条
労働基準法9章
労働契約法15条
労働契約法16条
民法709条
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇 /懲戒事由 /職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 /懲戒事由 /職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇 /懲戒事由 /服務規律違反
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
賃金(民事) /退職金 /退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 : 2013年3月28日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成24(ワ)1696
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働経済判例速報2175号20頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇‐懲戒事由‐職務上の不正行為〕
〔懲戒・懲戒解雇‐懲戒事由‐職務懈怠・欠勤〕
〔懲戒・懲戒解雇‐懲戒事由‐服務規律違反〕
 1 懲戒解雇事由の存否について〔中略〕
 (6) 以上によれば、原告の欠勤は、欠勤に関する所定の手続を要するものとする就業規則24条に違反し、懲戒事由として「会社の規定に違反したとき」(就業規則76条1項1号)及び「正当な理由なく勤務を欠いたとき」(同項10号)に該当するものと認めることができる。
 2 解雇の相当性について〔中略〕
 (2) 前提事実及び以上の事実によれば、まず、本件期間中、原告が脳腫瘍等の診断を受けたことは、本人の努力ではいかんともし難い、まことに気の毒なことではあり、その診断を聞いて途方に暮れてしまったことは、一時の心情としては十分理解することができる。しかし、他方で、原告自身、本件期間中、いつまでも途方に暮れ続けていたわけではなく、自らの意思で検査入院の手続を取って入院したり、10日間ほど、夕方6時から深夜にかけて、被告において禁止されている無許可でのアルバイトをしたり(前記認定)、飯田橋のしごとセンター(ハローワーク)には行っていないとのことではあるものの、その界隈には行って仕事探しをしたり、友人宅に泊まったりしていたということであって(人証略)、病状としても、どうしても直ちに手術が必要という状態ではなかったのであるから(前記認定)、再三にわたって発令された本件出勤命令を受けて、同じ班の同僚にかけているであろう迷惑を慮るとともに、病状等の近況につき被告に対して一報を入れることぐらいは容易に可能であったものというべきである。それにもかかわらず、原告は、本件出勤命令に応じて出勤するどころか、平成23年4月7日にC課長宛に電話をして以来、同年5月16日までの長期間にわたって被告に電話すら掛けずにいたのであって、このことについては、本件出勤命令を再三にわたって無視し続けていたとの謗りを免れないというべきであり、脳腫瘍等の診断を受けていたことは、本件欠勤に関する就業規則違反事由該当性を正当化し、あるいは、違反性を減じるような事情になるものと評価することはできない。
 また、原告が、平成13年以降、訓告(懲戒には該当しない)を1回(誤配)、注意処分を4回(遅刻2回、ファイルの紛失、不符合事故)、訓戒処分を2回(現金書留の紛失、交通事故)受けた処分歴があり、さらに本件戒告処分を受けていたこと(原告は、本件紛失につき心当たりがなく、盗難の可能性もあったが、他の職員全員がロッカーの検査を受けることになるのでは迷惑をかけることになると思い、不本意ながら自分のミスで紛失したということにしたと供述するが、本件紛失に関する事情聴取の際の原告の説明の具体性の高さや、キャリーボックスの網紐のかけ方の不十分さからすると、原告の落ち度も否定することができない〔書証略〕。)に照らすと、原告の処分歴が、本件欠勤の就業規則違反性を減じるような事情になるものと評価することはできない。
 そして、懲戒標準によれば、概ね20日以上の無断欠勤の処分量定は、諭旨解雇ないし懲戒解雇とされているところ、本件においては、被告社内における検討の結果、諭旨解雇が選択されたにもかかわらず(書証略)、前記認定のとおり、原告は退職願の提出を拒み、再度の確認や日を変えての確認に対してもこれを拒み続けていたのであるから、懲戒解雇もやむを得ないものと評価せざるを得ない。
 なお、原告は、概ね20日とある点を柔軟に解釈すべきであると主張するが、それにも自ずと限度があるというべきところ、原告の場合、この基準を6日も上回る無断欠勤日数だったのであるから、結論を左右するものではないというべきである。
 (3) 他方、手続的な観点からみても、前記認定のとおり、被告は、合計4回、約90分の弁明の機会を原告に与え、本件事情聴取の際、本件欠勤に関する種々の事情を尋ねたにもかかわらず、原告は、自己の病状や検査入院の事実について説明するどころか(原告本人の供述によれば、平成23年4月6日には一度診断書〔書証略〕を持参してC課長に対し病気休暇ないし有給休暇を申請しようとしたにもかかわらず、C課長が席を外していたためにこれを渡すことができなかったというのであるから、本来であれば、せっかく与えられた本件事情聴取の機会に、改めてこれを説明してしかるべきである。)、本件期間中の自らの行動や電話すら掛けなかった理由について曖昧な返答に終始していたのであり、それにもかかわらず、被告は、原告に対し、聴取書の記載内容を確認する機会や、諭旨解雇と退職金との関係について説明を受ける機会も与え、退職金はいらないから退職願は書かないと半ば投げやりな態度で答えた原告に対し、日を改めて再度翻意の機会まで与えたのであるから、その手続的相当性は十分であると評価することができる。
 なお、原告は、本件戒告処分に要した日数と本件懲戒解雇に要した日数との差を指摘するが、本件出勤簿(書証略)によれば、本件戒告処分については、原告が本件紛失(平成23年2月22日)から2週間後に連続して年休をとったことや、それから引き続き無断欠勤に入ったことが処分決定を遅らせる理由となっていたことは明らかであるから、所論を採用することはできない。
 (4) 以上によれば、本件懲戒解雇は、原告の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当であると認められるから、解雇権を濫用したものということはできず、有効なものと認めることができる。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 したがって、本件懲戒解雇の不法行為該当性を認めることもできず、その余の点について検討を進めるまでもなく、原告の主位的請求には全部理由がない。
〔賃金(民事)‐退職金‐退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 3 退職金請求権の存否について
 (1) 就業規則上、懲戒解雇の場合、退職手当は支給しないことが明記されていることは、前提事実のとおりである。
 もっとも、退職金の不支給規定があるとしても、これを有効に適用することができるのは、当該懲戒事由該当事実が、労働者のそれまでの勤続の功を抹消してしまう程度の著しく信義に反する行為であった場合に限られるというべきである。
 (2) そこで、本件につきこれをみると、〈1〉 本件欠勤期間が26日間と長期間であること、〈2〉 原告が、被告から再三にわたって電話や本件出勤命令を受けていながら、平成23年5月16日までの間、これを無視し続けていたとの謗りを免れないこと、〈3〉 原告は、脳腫瘍等の診断を受けてはいたものの、直ちに長期間の、しかも無断での欠勤を余儀なくされるような状態にはなかったこと、〈4〉 原告が、本件欠勤中、就業規則で禁止されている無許可でのアルバイトをしていたことは、いずれも前記認定のとおりである。
 また、原告が、本件諭旨解雇説明の際、退職金はいらないから退職願は書かないと半ば投げやりな態度で答えたことも前記認定のとおりであるが、他方、被告側において、原告に対し、日を改めて再度翻意の機会を与えたにもかかわらず、原告が、この間と同じで退職願は提出しないと答えたことも前記認定のとおりである。
 これに対し、原告は、アルバイトをしていたことについての証拠はなく、また、原告は退職金放棄の意思表示はしていないと主張するが、本件事情聴取の際及び本件諭旨解雇説明の際の上記認定にかかる原被告間のやりとりに照らして、いずれも採用することができない。
 (3) 以上の認定によれば、原告については、その功労を抹消又は減殺するほどの著しく信義に反する行為があったといわざるを得ないから、就業規則どおり、有効な懲戒解雇処分を受けた原告には、退職金請求権は発生しないというべきである。