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ID番号 : 08962
事件名 : 年次有給休暇請求権存在確認等請求事件
いわゆる事件名 : 八千代交通事件
争点 : タクシー会社の乗務員が、解雇無効後復職時に行使した年次有給休暇の効力を争った事案(労働者勝訴)
事案概要 : 一般乗用旅客自動車運送事業等を営む会社Yのタクシー乗務員兼特命事項担当の社員Xが、解雇により2年余にわたり就労を拒まれ、解雇無効、労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、その勝訴判決が確定して復職した後に、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の時季に係る請求をして就労しなかったところ、労働基準法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして5日分の賃金が支払われなかったため、年次有給休暇権を有することの確認、未払賃金、遅延損害金の支払と不法行為による損賠償を求めた事案の最高裁判決である。 最高裁第一小法廷は、被上告人は無効な解雇によって正当な理由なく就労を拒まれたものであり、同係争期間は、法39条2項による出勤率の算定に当たっては出勤日数に算入し全労働日に含まれるとして、上告を棄却した。
参照法条 : 労働基準法39条
労働基準法3条
民法709条
体系項目 : 労働時間(民事) /労働時間の概念 /係争期間中の算定
解雇(民事) /解雇の承認・失効 /解雇の承認・失効
裁判年月日 : 2013年6月6日
裁判所名 : 最高一小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(受)2183
裁判結果 : 棄却
出典 : 最高裁判所民事判例集67巻5号1187頁/裁判所時報1581号1頁/判例時報2192号135頁/判例タイムズ1392号57頁/労働判例1075号21頁/労働経済判例速報2186号3頁/裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 : 控訴審/東京高平成23.7.28/平成23年(ネ)第3147号
一審/さいたま地平成23.3.23/平成22年(ワ)第1116号
評釈論文 : 慶谷典之・労働法令通信2320号26~27頁2013年6月28日桑村裕美子・月刊法学教室397号36~42頁2013年10月中山慈夫・労働法令通信2332号24~26頁2013年11月8日判例紹介プロジェクト・NBL1015号87~88頁2013年12月15日
判決理由 : 〔労働時間(民事)‐労働時間の概念‐係争期間中の算定〕
〔解雇(民事)‐解雇の承認・失効‐解雇の承認・失効〕
 上告代理人大谷典孝の上告受理申立て理由について
 1 本件は、解雇により2年余にわたり就労を拒まれた被上告人が、解雇が無効であると主張して上告人を相手に労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、その勝訴判決が確定して復職した後に、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の時季に係る請求(以下単に「請求」ともいう。)をして就労しなかったところ、労働基準法(以下「法」という。)39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして上記5日分の賃金を支払われなかったため、上告人を相手に、年次有給休暇権を有することの確認並びに上記未払賃金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。
 法39条1項及び2項は、雇入れの日から6か月の継続勤務期間又はその後の各1年ごとの継続勤務期間(以下、これらの継続勤務期間を「年度」という。)において全労働日の8割以上出勤した労働者に対して翌年度に所定日数の有給休暇を与えなければならない旨を定めており、本件では、被上告人が請求の前年度においてこの年次有給休暇権の成立要件を満たしているか否かが争われた。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人は、一般乗用旅客自動車運送事業等を営む株式会社である。上告人は、被上告人との間で、平成17年1月21日、被上告人をタクシー乗務員として雇用する旨の期間の定めのない労働契約を締結した。
 (2) 上告人は、被上告人に対し、平成19年5月16日、同日をもって被上告人を解雇する旨の意思表示をし(以下、これによる解雇を「本件解雇」という。)、同日以降の就労を拒んだ。被上告人は、本件解雇は無効であると主張して上告人を相手に労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、その結果、本件解雇は無効であるとの理由で被上告人が労働契約上の権利を有することを確認する旨の判決(以下「前訴判決」という。)を得て、これが平成21年8月17日の経過により確定した。これを受けて、被上告人は、同年9月4日、上告人の職場に復帰し、同日以降再び就労を続けている。
 (3) 被上告人は、平成21年9月13日から同月15日まで並びに同22年1月13日及び同年2月15日の合計5日間の労働日につき、年次有給休暇の時季に係る請求をして就労しなかった。
 上告人は、被上告人は請求の前年度において法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして、被上告人が就労しなかった上記5日間につき欠勤として取り扱い、上記5日分の賃金を支払わなかった。
 3 論旨は、使用者の責めに帰すべき事由により就労することができなかった日は法39条1項及び2項にいう全労働日に含まれないと解すべきであり、本件解雇の日から前訴判決が確定するまでの期間(平成19年5月16日から同21年8月17日まで。以下「本件係争期間」という。)は全労働日から除くべきであってこれを出勤日数に算入する余地はなく、請求の前年度(本件では平成20年7月21日から同21年7月20日まで)における全労働日が0日となる被上告人は上記年度において同条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしていないから、本件係争期間中の労働日を全労働日に含めた上でその全部を出勤日として取り扱い被上告人は上記成立要件を満たしているとした原審の判断には法令の解釈の誤りがあるなどというものである。
 4 法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。
 無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。
 5 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、被上告人は上告人から無効な解雇によって正当な理由なく就労を拒まれたために本件係争期間中就労することができなかったものであるから、本件係争期間は、法39条2項における出勤率の算定に当たっては、請求の前年度における出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。したがって、被上告人は、請求の前年度において同項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしているものということができる。
 6 以上と同旨の見解に立って、被上告人が請求の前年度において法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしているとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。