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ID番号 08997
事件名 各地位確認等請求控訴、同付帯控訴事件
いわゆる事件名 日本航空(運行乗務員整理解雇)事件
争点 会社更生中の整理解雇の効力が争われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 会社更生手続中の航空運送事業会社(Y)の管財人から整理解雇された従業員(X)らが、本件解雇は無効であるとして、労働契約上の地位確認等を求めた提訴したもの。
(2) 東京地裁は、本件解雇が信義則上許されない事情は認められないとして、地位確認請求を棄却する一方、Xらの内2名に係る雇用期間中の未払賃金請求を一部認めたため、Xらが控訴し、Yも付帯控訴したもの。
東京高裁は、原審の判断を支持し、Xらの追加主張である本件解雇の不当労働行為性も認められないとして、Xの控訴を棄却し、Yの付帯控訴も棄却した。
参照法条 労働契約法16条
会社更生法1条
会社更生法2条
会社更生法22条
会社更生法46条
労働組合法7条
体系項目 解雇(民法)/整理解雇/整理解雇の要件
解雇(民法)/整理解雇/整理解雇の必要性
解雇(民法)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
解雇(民法)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民法)/整理解雇/協議説得義務
裁判年月日 2014年6月5日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(ネ)3123号/平成24年(ネ)6316号
裁判結果 控訴棄却、附帯控訴棄却
出典 労働経済判例速報2223号3頁
労働法律旬報1819号78頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 一審 東京地裁/H24.3.29/平成23(ワ)1428号、同年(ワ)14700号
評釈論文 宮里邦雄・労働法律旬報1819号6~7頁2014年7月10日
堀浩介・労働法律旬報1819号15~21頁2014年7月10日
深谷信夫・労働法律旬報1819号22~29頁2014年7月10日
池田悠・NBL1032号25~33頁2014年9月1日
上野保・実務に効く 事業再生判例精選(ジュリスト増刊)237~252頁2014年11月
戸谷義治・季刊労働法248号224~225頁2015年3月
判決理由 控訴審は、「原判決『事実及び理由』欄第4の1及び2に記載されたとおりであるから、これを引用する。」としているので、ここでは原審の理由を補足して掲載する。
争点1(本件解雇の有効性)について
人員削減の必要性
Xらは、更生計画における人員削減目標を前提としても、本件解雇時点で2974名の人員体制が確立され、844名の人員削減目標も達成されていて、更生計画の内容とされた運航乗務員の人員計画は既に実現していたから、人員削減の必要性はなかった旨主張する。しかしながら、更生計画案に定めるJALグループの運航乗務員削減目標人数は844名であったところ、それが可決認可された後の本件解雇時点まで上記844名の削減目標人数が不動のものとされていたというXら主張の前提事実を認めることができない。Xらは、この点について、平成22年6月7日の説明会において上記のような説明がされ(前記前提事実(4)ク参照)、同年8月に提出された更生計画案にもほぼ同様の記載があり、職種ごとの人員計画は明記されなかったものの、更生計画案の人員計画は6月7日に説明された人員計画と同様と考えられたのであり、同年9月2日の希望退職説明会においてYが提示した資料(証拠略)にもほぼ同様の記載があり、さらに、同年11月29日の日本航空乗員組合との団体交渉においても同様の回答がされ、その後これらが変更されたことはないから、本件解雇当時、更生計画は、JALグループの運航乗務員については平成22年度末2974名の人員体制にし、前年度末対比で844名を削減するという内容のものであったと主張する。しかし、更生計画が事業規模に応じた人員体制とすることを内容とするものであることは、前記ア認定のとおりであって、そこでは具体的数値が確定目標とされていたわけではない。そもそも、上記平成22年6月7日の説明会以降、運航乗務員のうち訓練生が地上職に職種変更されて運航乗務員数から除外され、上記説明の前提が変更されているし、また、前記前提事実(6)ウのとおり、Yの運航乗務員の人員計画は稼働ベースという考え方を採用していて、しかも、本件解雇時点での人員削減の必要性は、同年8月22日に決定された路線便数計画(改訂下期計画)を基礎とした事業規模に見合った人員体制にまで削減することに基礎付けられるから、最終的な削減目標人数の設定は、前記8月22日に決定された平成22年度下期の月単位での機種別・職位別に必要数・配置数の比較をした上で行う必要があり、その意味で当初の説明に用いた数字はその時点での見込みであって確定数値ということはできないものである。結局、Xらの主張はその前提を欠いており、したがって、本件解雇当時、更生計画所定の人員体制が確立し、人員削減は既に達成していたとする上記Xらの主張は採用することができない。
以上によれば、経営破綻に陥り自力では企業継続を維持することができなかったことから、機構の支援と会社更生手続を併用する再建手続の下にあったYにおいては、本件解雇(平成22年12月31日)当時、全ての雇用が失われる破綻的清算を回避し、利害関係人に損失の分担を求めた上で成立した更生計画の要請として、事業規模を大幅に見直し、可能な限りスリムな組織構造を構築しつつも、機材や乗員体制等を機動的運用によって、経営の機動性・柔軟性を向上させて収益性を改善し、更なるコスト競争力を確保していくことが要請されていたのであるから、事業規模に応じた人員規模とするために人員を削減することは、企業経営上の十分な必要に基づくやむを得ない措置ということができるのであって、人員削減の必要性があったと認めることができる。Xらは、Yが、本件解雇後1年半ないし3年の間に、副操縦士の機長昇格訓練や訓練生の副操縦士昇格訓練の再開などにつき当初の方針を変更したことを指摘するが、その点を考慮しても、本件解雇時点において、Yが既に事業規模の拡大やそれに伴う運航乗務員の増員を計画していたといえないことはもとより、本件解雇時点で、そのような事態に至ることを予測し得たということもできないというべきである。
解雇回避努力
Xらは、日本航空乗員組合が平成22年11月30日にした提案は、Yの採る稼働ベースの考え方を採り入れた提案であって、問題の先送りという批判が当たるものではないと主張するが、その内容は、要するに、交代で休職に入ることによって稼働ベースの要削減数分を控除した残りの仕事を全員で分け合うというものであり、他のワークシェアリングと本質的に異なるものではないし、当時の具体的な路線便数計画と運航乗務員の人員構成からして採り得る現実性があったかどうか疑問もあり、事業規模を大幅に見直し、それに応じた人員体制とするという更生計画に照らして抜本的な措置ということはできないことは、以上と同様であるから、Yにおいてその提案を採用しなかったからといって、解雇回避努力が不十分であるということはできない。したがって、上記のXらの主張は、上記判断を覆すものとはいえない。
人選の合理性
本件解雇の対象者の選定は、明示の人選基準である本件人選基準を作成し、これをあらかじめ運航乗務員が属する各労働組合に示した上で、これを適用することによって行われたのであり、その内容も本件解雇の対象者の選定基準としての合理性を有するものであるから、本件解雇の対象者の選定は合理的に行われたものと認めることができる。
解雇手続の相当性等の整理解雇が信義則上許されない事情
日本航空乗員組合が平成22年11月30日に提案したワークシェアリング案の内容も、縮小される事業規模に見合った人員体制にするという人員削減の必要性から見たときには、それまでのワークシェアリングと本質的に異なるものではないことや、当時の具体的な路線便数計画と運航乗務員の人員構成からして採り得る現実性があったかどうか疑問もあることは前記のとおりであって、Yにおいてその提案を受け入れなかったことから本件解雇が信義則上許されないということになるものではないというべきである。
また、Xらは、ILO第315回理事会が平成24年6月15日に正式に承認した結社の自由委員会の勧告は、直接に個別労使間の整理解雇の有効性判断の法源とはならないとしても、労働契約関係上の信義則を個別事案に解釈適用するに当たって、その趣旨が取り込まれるべきであるとした上で、本件解雇は同勧告に反していて信義則に違反する旨主張する。しかし、Xらが援用する上記勧告(証拠略)を見てみても、結社の自由委員会は、同委員会が有用と判断する情報からは、年齢による整理解雇の人選基準が反組合的意図をもって採用されたと結論する立場にないとか、Yの主張によれば労働組合とYとの協議・交渉は実りあるものだったとか、同委員会は、本件を巡るXらとYとの事実解釈の違いが存在することを理解していて、たとえ大量解雇が関係していても、更生計画に関する申立てについて判断することは委員会の権限外であることを強調したいなどという記述もされていて、同勧告は、本件事案における外形的事実関係を前提にした一般的内容のものにとどまっているといえるのであり、具体的事実関係を認定した上で、本件に関して何らかの具体的措置を我が国の国家機関に要請するものではなく、ましてや、Xらが主張するように、本件において、日本航空乗員組合、日本航空機長組合などにおいて中心的に活動を担ってきたXらを解雇してはならないなどという内容のものということはできない。そして、本件における具体的事実関係において、本件解雇が信義則上許されないと評価するだけの事情が認められないことはこれまでに認定判断したとおりである。
本件解雇の不当労働行為性
Xらは、本件解雇は、整理解雇の人選基準を立て、一見客観性を装いながら、特定の運航乗務員を狙い撃ちして、日本航空乗員組合及び日本航空機長組合の弱体化を狙ったものであって、不当労働行為であると主張する。しかし、これまで認定判断してきたところに以下に検討するところを併せ考慮すると、本件解雇が特定の運航乗務員を狙い撃ちし、組合の弱体化を図ったものであると認定あるいは推認することはできず、Xらの主張は採用することができない。すなわち、前記のとおり、本件解雇は、複数の基準の組合わせからなる本件人選基準を適用してされているばかりでなく、最終的な人員削減数は、解雇回避措置としての特別早期退職措置や希望退職措置などが実施されつつ、確定下期計画によって決定された事業規模の大幅な見直しに見合う人員体制とする観点から、月単位で、機種別・職位(機長・副操縦士)別に、事業運営に必要な労働力である「必要稼働数」と、在籍社員全体の実労働力である「有効配置稼働数」とを比較して人員計画を立てるという考え方に立って決定されているのであり、これにより特定の人物を狙い撃ちするために本件人選基準を決定するということは困難であるといえるし、現実にそのようなことが本件において実施されたと認めるに足りる証拠はない。Xらは、希望退職開始前の平成22年6月時点で、内部文書(証拠略)において、希望退職に応募しないような者をYに残すわけにはいかないとされている点を指摘するが、その記載を、希望退職に応じた者との不公平を問題としていること以上に、Xらが主張するように特定の人物に結びつけたものと認めることはできない。また、Xらは、Yにおいて一貫して労務担当であったB元専務を本件解雇に関する労働組合との交渉担当者として管財人が呼び戻したこと、人選基準の発表と同時にブランクスケジュールを実施し個人面談をしたことから、本件人選基準の策定自体が不当労働行為であると主張するが、他方で、日本航空機長組合と日本航空乗員組合の執行委員のうち、前者については本件解雇時点で在籍していた執行委員17名のうち13名が、後者については本件解雇時点で在籍していた執行委員23名中22名が解雇対象者とはなっていないことが認められ(証拠略)、これらのことを総合すると、Xらが指摘する諸点から、機長についても副操縦士についても組合活動を中心的に行ってきた人物を狙い撃ちするために本件解雇がされたと評価することはできないというべきである。Xらの主張は採用することができない。
結論
当裁判所は、本件解雇が、整理解雇の要件を充足していて、管財人が有する権限を濫用したものとも、また不当労働行為とも認めることができず、これを無効ということはできないから、Xらの地位確認を求める請求は、いずれも理由がなく、また、Xらのその余の請求(金銭請求)については、X1につき平成22年12月分の基準外賃金40万4582円、控訴人X2につき同月分の基準外賃金21万1307円及びそれぞれこれに対する履行期の翌日である平成23年1月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、Xらのその余の請求及びその余のXらの請求は、いずれも理由がないと判断する。