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ID番号 08999
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 北海道・北海道労働委員会(渡島信用金庫・昇進・昇格差別)事件
争点 労働組合委員長の昇進・昇格差別に対する救済命令が争われた事案(使用者敗訴)
事案概要 (1) 被告補助参加人に所属する組合員である参加人代表者(B)を一般職員・事務職C級のまま昇進・昇格させなかったこと等が不当労働行為に当たるとする参加人の救済申立てについての北海道労働委員会(Y)の救済命令(被申立人は、申立人の執行委員長であるL)を不服として、渡島信用金庫(X)が、取消しを求め提訴したもの。
(2) 札幌地裁は、差別的取扱い及び支配介入の意思を認め、救済命令は適法であるとして請求を棄却した。
参照法条 労働組合法2条
労働組合法7条
体系項目 労働契約(民事)/人事権/昇給・昇格
賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇進昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 2014年5月16日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(行ウ)43号
裁判結果 棄却、確定
出典 労働判例1096号5頁
労働委員会関係 命令・裁判例データベース
審級関係
評釈論文
判決理由 争点(1)(昇格差別による不当労働行為の成否)について
本件の背景には、Xと参加人との間の長年にわたる労使紛争がある。Bは、その一方当事者である参加人の執行委員長を務めてきた。他方、X及びX代表者は、この間、組合活動への強い嫌悪を露わにし続けており、X代表者自身、Bについて、「超過激的な組合活動家。・・・組合活動そのものが、自分の人生の如く錯覚している。・・・他団体などからの洗脳を受けていると判断される。」などと評していた。
X及びX代表者の組合員への差別的取扱い及び支配介入の意思があるものと推認できる。なお、参加人の組合員の中には、管理職に昇進した組合員がいるものの、その割合が非組合員と比較して遜色のないものであるか否かは不明であり、Xの行った幾多の不当労働行為に鑑みると、管理職に昇進した組合員が存在することをもって、X及びX代表者の組合員への差別的取扱い及び支配介入の意思を否定することはできない。
事務職C級から管理事務職D級への昇格については、一般職と同様ではないにしても、ある程度の年功的な取扱いがされていたと認めるのが相当である。
そして、Bが、本件申立て時に勤続37年であったにもかかわらず管理事務職D級に昇格していないことは、他の職員との間に格差があることを意味するというべきである。
Xにおける管理事務職D級の位置づけからすれば、能力や勤務成績等が劣っていることなどの合理的な理由がないにもかかわらず勤続年数が長い職員が管理事務職D級に昇格できない場合にあっては、他の職員との間で格差があり、差別に当たるものといわざるを得ない。
Bは、支店長から融資担当をしないかと誘われた際、組合活動のため夜遅くまで残業することができない場合がある旨伝えたり、X代表者から「支店長にならないか」とか「支店長を目指さないか」などと言われた際、段階的に上げてもらいたいと述べたりしたが、Xと参加人との間の労使紛争の経過に照らし、その対応にはそれぞれ理由があると解されるのであって、これらをもって、Bが、組合員を兼ねることのできる管理職への昇進・昇格への意欲を有していなかったと認めることには飛躍がある。また、前記認定のとおり、考課者から「他人にすがりたがる」、「おとなしい」、「優柔不断、内気」、「自己主張が殆ど無く、おとなしすぎる点、声が小さい点」、「自立心が弱く、だらしない所」、「消極的である」などと評価を受けた者がその直後に管理事務職D級に昇格していることに照らし、Bの昇進・昇格への意欲、Xの主張する「やる気」が他の職員に比して低いものであるとは認め難い。
以上によれば、Bの本件申立て時の職位・資格について、他の職員と比べて格差があることが認められ、また、その格差には能力や勤務成績等が劣っていること等の合理的な理由があるとは認められない。本件に至る経緯を踏まえると、平成21年4月1日に至ってもBを管理事務職D級に昇格させない行為は、参加人の弱体化を図ることにその目的があると推認する他はなく、参加人を嫌悪した不利益取扱い及び支配介入であると認めるべきである。
争点(2)(救済方法の相当性)について
裁判所は、訴訟において労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われる場合において、救済命令に関する労働委員会の裁量権を尊重し、その行使が労働組合法の定める趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない。
本件において、北海道労働委員会は、平成21年4月1日付けでBを管理事務職D級に昇格させなかった行為が不当労働行為に該当すると判断し、その回復手段として、Bの資格を事務職C級から不当労働行為がなければ昇格していたであろう管理事務職D級に昇格させること及び管理事務職D級に対応する職位を付与したものとして取り扱うことなどの本件命令を発したものである。これが是認される範囲を超え又は著しく不合理であって濫用にわたるとは認められない。